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#3 罠と死体とみんなのアリバイ【糾弾ホームルーム篇】

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 その言葉に一同が動きを止める。進行役の小宮山が「えっ?」っと、眼鏡のブリッジを押し上げると、宙に視線をやる。

「お、大槻さん。それはどういう意味――」

「そのままの意味よ。まとまりそうにないものを無理にまとめようとするから、軋轢あつれきやら争いが生じるのでしょう? ならば、無理にまとめようとせずに、それぞれの議題に興味のある人間があつまって、それぞれ議論をすればいいのよ」

 発想の逆転というべきか、本来の趣旨をひっくり返したような提案だった。芽衣はみんなを説得するかのごとく熱弁を振るう。

「このクラスは元より、お世辞にも仲が良いとは言えないクラスだった。でも、周囲のクラスから見れば、決して仲の悪いクラスでもなかったのよ。それはなぜか――みんながそれぞれの立ち位置を理解していて、他の人間の領域に踏み入らないようにしていたから。それが自然とできていたからよ」

 このクラスの今までの弱点。団結力の分散を、あえて長所として持ってきた芽衣。それは妙な説得力を持っていた。彼女の言う通り、2年4組は最初からバラバラであり、しかしそれゆえに余計な衝突もなかった。もちろん、クラスカーストによって立場に差はあれど、みんなが自分の領域以外に手を出さなかったがゆえに、仲が良いわけではないが悪いわけでもない――言ってしまえば、お互いに無関心であるがために、変な調和がとれてしまっていたのだ。

「ここにきて、このクラスの団結力のなさがプラスになるわけか。世の中、なにが役に立つか分からねぇもんだな」

 本田が妙に納得したかのように呟いた。最初からまとまりがなく、最近になってようやくひとつにまとまった集団なのだ。無理にまとめようとすると歪みが生じてしまうのは当然のこと。現在の意見の対立も、歪みの影響なのだと思う。ならば、いっそのこと無理にまとめるのではなく、バラバラにしてしまう。それで話が丸く収まるのであれば、それはそれで良いではないか。

「えぇ、現状において意見はみっつに分かれてる。何かしらの理由をつけて鑑識官を使いたい――って思っている人は、真下さんのところに集まって、どんな理由で鑑識官を使うべきか議論すればいい。ダイイングメッセージにどうしても引っかかりを覚えている人は、五十嵐さんのところに集まって議論すればいいわ。そして、とりあえず事件の全貌を見渡してみたい人は――私のところに集まればいい。こうすれば、みっつの議論を一度に進めることができるわ」
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