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#3 罠と死体とみんなのアリバイ【糾弾ホームルーム篇】

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 感情なき姫乙の表情は、しかしこれまでの人を小馬鹿にするような態度より信憑性があった。姫乙に余裕がない証拠なのだ。ゆえに引っ張る。さっさと答え合わせをすればいいのに、答えが正解かどうかをジャッジする前に、答えにたどり着くための方程式を展開させろときたものだ。数学のテストなんかで、答えだけを書くと丸をくれず、方程式――そこにいたるまでのプロセスがあってこそ、ようやく丸をくれる教師がいたが、それと全く同じである。人数が減ってきたせいで、当てずっぽうでもそこそこ犯人を当てることができるようになったというのも、理由としてはあるのかもしれない。

「――誰に問うというわけでもないけど、僕の質問に答えられる人がいたら答えて欲しい。どうして星野崎は背後からボウガンの矢で撃たれたんだと思う?」

 こんなもの、わざわざ問うまでもないこと。答えはこれまでの議論の中で出ているのだから。

「それは議論の中で出てた話ね。結論から言えば犯人がアリバイを確保するためよ。壁に刺さっていたボウガンの矢は刺さりが甘く、明らかに犯人による偽装だったと思われる。これは星野崎君が背後から撃たれたものだと私達に思い込ませる目的で施された細工だった。では、どうして犯人は星野崎君が背後から狙われたものであると私達に思い込ませようとしたのか。天井の裏に仕掛けたボウガンの存在を隠すため、それを利用してアリバイ確保した事実を隠蔽するためよ」

 芽衣の言葉に安藤は頷き、しかし姫乙は表情をひとつも変えない。ここまでは序の口であり、やろうと思えば誰にでも推理できることだ。芽衣に対して頷いたのも、決して同意という意味ではなかった。話を展開するのに妥当なパスを出してくれたからだった。

「――と思い込ませるのが、犯人の真の目的だったんだよ。犯人の目的は背後から星野崎が狙われたように見せかけることではなく、ましてやアリバイ確保のために天井裏に仕掛けたボウガンの存在を隠すためでもなかった。実はもっと単純な理由があったんだよ」

 背後からボウガンの矢で撃たれた星野崎。彼が背後から撃たれたのには明確な理由があったのだ。しかもそれは凄く単純なもの。

「背後から撃たれたら、誰でもそこに第三者が介入していると勝手に思い込む――。そうか、星野崎君が背後からボウガンの矢で撃たれたのは――私達の中から自殺の可能性を排除するためだったのね?」

 安藤の思考についてきているのは芽衣だけのようで、他の者は完全においてきぼりになっていた。もう少し分かりやすく説明してやったほうがいいのかもしれない。
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