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#3 罠と死体とみんなのアリバイ【糾弾ホームルーム篇】

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 世の中を見る視点を変える。確かに、安藤達は良くも悪くも世間から注目を浴びているのかもしれない。大日本帝国民の数はおおよそ一億と三千万人。十人十色というやつで、色々な人間がいる。中にはホームルームを賭博の対象とする輩もいるだろうし、テレビに向かって安藤達の死を願っている者だっているだろう。そして、不謹慎ながらもエンターテイメントとして観ている者だっている。

 姫乙はマイナスの部分を切り取ってクローズアップしているようなものだ。

 検閲されはするものの、それでも大日本帝国内で人気のある通販サイトなどでは、商品に対する色々な感想が述べられている。もちろん、商品に対して好感的な感想を述べる人もいれば、不平不満を並べる人もいる。中には商品を買っていないのに、不平不満だけをぶちまける人もいる。でも――その感想だけで商品の価値は決まらない。なぜなら、物言わぬ支持者がいるからだ。この商品は悪い――そんな感想ばかりが並んでしまうと、それが商品の価値であるように見えてしまう。けれども、声には出さないだけで支持している人というのは必ずいるのである。

 安藤達にも物言わぬ支持者がいる。姫乙は悪い部分だけを、さも全国民の意見であるかのように言っているだけ。

「姫乙、言ったでしょう? 私達はもう簡単に絶望したりなんかしないって」

 気がつくと、安藤はじっと姫乙のことを見据えていた。他のクラスメイトのことは視界に入ってこないが、なんとなく同じように姫乙を見据えているような気がする。

「御託を並べ立てて、ごまかそうとしてんじゃねぇよ。俺らはそんなやり方じゃ屈さねぇ。さっさと答え合わせをしようや」

 本田が口を開いたのをきっかけに、姫乙へと言葉が次々と飛んで行く。

「真綾達が今知りたいのは、星野崎が自殺だったのかどうだったのかってことだけ。聞いてもいない余計なことばっかりでウザいんだけど」

 真綾が援護射撃に入り、全てを聞き取れはしなかったが、各々が姫乙に対して攻撃的な言葉を吐く。やや後ろ向きになっている小雪はどうだったは分からないが、みんな絶望はしていない。姫乙が何を言おうとも、その目をそらすつもりはないらしい。実に心強い。

「姫乙、テレビの向こう側にいる国民の方々も、そろそろお前の時間稼ぎにうんざりしてると思うよ。僕達が求めているのは答えだ。世の中の事情を知りたいわけじゃない!」

 安藤の放った一言が、どうやらトドメになったようだった。姫乙はがっくりと肩を落とす。
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