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#1 毒殺における最低限の憶測【プロローグ】

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 もう、確実におかしくなっていることは分かっていたし、自分達が正常な地点まで戻ることは困難だと分かっていた。しかし、姫乙の言葉にクラスがざわついた。あまりにも姫乙が嬉しそうに言うものだから、それに現実感が伴わなかったのだ。

「私はぁ、小さい頃から思っていたんですぅ。ヒーロー物とかで、怪人がやられるとね、最期は盛大に爆発するんですよぉ。それどころかぁ、戦隊物のヒーローなんてメンバーが揃ってポーズを決めるだけで、後ろで大爆発が起きるんですぅ。だからね、私は幼い心ながらに思ってたんですよぉ――爆発し過ぎじゃね? ってねぇ。その頃からですよねぇ、私が爆発に性的興奮に似た何かを抱くようになったのは。ですのでぇ、爆発は私が付け加えさせて貰いましたぁ。純粋なるアベンジャーへのご褒美は、アベンジャーを除くクラスメイト全員の餓死――というところまでですぅ」

 勝てばアベンジャーの追放。負ければ――結局のところ死。これから行われる【糾弾ホームルーム】で真相を暴くしか、クラスメイトのみんなが助かるすべはないということか。

「さてぇ、これが【糾弾ホームルーム】の簡単なルールになりますぅ。もし負ければ、ベッタベタなデスゲームあるあるの全員死亡というフラグぅ。しかも、そこに追い打ちをかけて爆発するわけですぅ。子ども達に大人気のデスゲームアンチとしてはぁ、アベンジャーにはもちろん、諸君らにも頑張っていただきたいと思っているのですぅ。言っておきますが、私達はいたって公平。アベンジャーの復讐のお膳立てはしますがぁ、特に【糾弾ホームルーム】においては公平な立場にある。ですからぁ、安心して挑んでいただきたいぃ」

 姫乙は便箋を封筒の中に戻すと、それを胸ポケットに差し込む。見た目はごく普通の封筒のはずなのに――あれには恐ろしいほどの悪意が纏わり付いている。

「これで大まかな説明は終わったしぃ、そろそろ【糾弾ホームルーム】を始めようと思いますぅ。ただ、その前にもうひとつだけ――」

 姫乙は教室の出入り口のほうに視線を向ける。すると、兵隊らしき奴が道を譲るかのごとく引き戸から離れた。それを見て「どうぞ! お入りください!」と、声をかける姫乙。すると、廊下のほうが少し騒がしくなった。

「本番行きまーす! 5、4、3――」
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