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#1 毒殺における最低限の憶測【復讐篇】

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「さて、私はここから離れますがぁ、まだまだ諸君らとの信頼関係を築けていませぇぇん。もしかすると、これ幸いと逃げ出す方もいるかもしれませんねぇ。まぁ、この時点で反逆罪を問えるわけですがぁ、それでは我々の趣旨しゅしに反します。よってぇ、不本意ではありますがぁ、牽制させていただきますぅ」

 姫乙が手をパンパンと叩く。すると、教室の入り口から奇妙な格好をした連中が入ってきた。迷彩服にアーミーブーツ、黒の目出し帽に白いヘルメット――。その腕には小銃らしきものが抱えられていた。入ってきた人数は3人。同じような格好をした兵隊みたいな連中が、まるで授業参観の親であるかのごとく、教室の後ろに並んだ。

「彼らは今回の法案の管理委員会メンバーです。法案のモデルケースとなる今回の全てを、円滑に進めるための役割を担っていますぅ。現状においては、個別面談を円滑に行うことが最優先の目的になりますからぁ、変な動きを諸君らにされては困るのです」

 これは現実なのだろうか。ふとそんなことを思ったが、理不尽なことを強要する大日本帝国政府は今に始まったことではないし、むしろ現実味のある話だ。ただ、自分達が理不尽に扱われることはないと思っていたからなのか、なんだか実感が希薄だった。

「管理委員会のみなさん。変な動きをした生徒がいたらねぇ――急所を外して撃ってください。死なれたら本末転倒ですが、死なない程度に痛めつけても問題ない。むしろ、ちょっと痛い思いをしてもらったほうがいい」

 教室の中に渦巻くは、未知なるものに遭遇した不安なのか。それとも、自分のペースを丸無視して押し付けられる理不尽に対する怒りか。はたまた、わけの分からぬことに巻き込まれてしまった悲しみか。ただ確実に言えることは、教室を取り巻いている空気はネガティブなものであって、決してポジティブなものではないということ。

「さっきから黙って聞いてりゃ、好き勝手なことを言ってくれやがって!」

 悪い空気を払拭しようとしたのか、この異様な状況の中で、ようやく我に返ったのか。2年4組の暴君こと本田が、勢い良く立ち上がった。それとほぼ同時に姫乙が手を高々と上げ、それが恐らく合図だったのであろう。教室の後ろで待機していた管理委員会が、息をつく暇もないほどの速さで本田を取り囲んだ。そして、教室に響くは銃声音。パン――パン――パン――パン。女子の誰かが悲鳴を上げ、そして安藤は思わず目をつむってしまった。

 静寂――。静寂の中、恐る恐ると目を開ける。
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