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#1 毒殺における最低限の憶測【復讐篇】

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 安藤は何度も姫乙の言葉を頭の中で繰り返し、それを噛み砕いて自分の中に取り込んだ。次から次へと情報が増えるから忙しい。とりあえず、基本的に学校の中でしか『正当復讐法』は適用されないということか。ようするに学校の中が独立した法治国家のようなもので、その中でのみ『正当復讐法』が通用する。すなわち、アベンジャーが誰かを殺害しても、罪に問われないのは学校内のみ。学校の外では罪になる。ゆえに、家に帰っている間は絶対的に安全ということか。

「デスゲームあるあるだとぉ、そりゃもう最初から最後まで気が抜けない――みたいな展開のほうがね、勢いがあって良いと思うんですぅ。出口なし、救いなし。そんな感じがテンプレートなわけですよぉ。だーかーらぁ、あえて諸君らには安息の時間を与えるのですぅ。休みの日の夕方くらいになると、次の日の学校が憂鬱になるように『あー、明日もデスゲームかぁ。だるいなぁ』みたいなノリになるでしょう? その鬱々とした感じは斬新だと思うんですよねぇ。で、嫌になって逃げ出した生徒が、管理委員会に見つかって、引きずられながら涙ながらにデスゲームに戻ってくるぅ――とか、色々と楽しいじゃないですかぁ」

 姫乙は冗談のつもりなのであろうが、しかし全く笑えない。その証拠に、教室の中に笑いは一切起きなかった。ただ、姫乙に対する明確な敵意は、いたるところから発せられているような気がしたが。

「さてぇ、原則的には帰宅することがデフォルトであると説明したばかりですが、実は例外がありまぁぁす。それは、アベンジャーが復讐を果たしてしまった時ですぅ。復讐が果たされてしまった以上、他の諸君らは【糾弾ホームルーム】を開き、アベンジャーの正体に迫らなければならない。つまり、ひとつの復讐が果たされた場合はぁ、それが収束するまでは学校内で生活していただくことになりますぅ」

 誰かが固唾を飲んだ音がした。いや、もしかして残っていた牛乳を飲み込んだ音だったのかもしれない。――例外として、復讐が果たされた時は、それが収束するまでは帰れない。なんだか色々と非現実的すぎて、妙に物分かりが良くなっている自分がいた。

「生活するための環境は、こちらで可能な限り揃えさせていただきますぅ。お昼だけではなく、朝食と夕食も用意しますし、布団や毛布も支給しますぅ。寝る時のスウェットや、はたまた下着からアメニティーグッズもろもろ、女の子の日対策まで、ご希望のものは全て揃えますのでぇ、どうかご心配なく」
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