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#1 毒殺における最低限の憶測【糾弾ホームルーム篇】

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「安藤、それは何を根拠に言っておるのだ?」

 熱血漢の根津は、安藤のことを昼安藤と呼んだりはしない。カーストの高い低いで人を見る目を変えたりもしない。そんな根津に期待されたような気がして、少しだけ嬉しかった。

「昨日のお昼休みに、偶然だけど副委員長達の会話を聞いたんです。話をしていたのは亡くなった磯部さんと沼田さん。そして副委員長だった。内容は他愛もないもので、どこかのお店でケーキバイキングをしているから、そこに行こうというもの。特に磯部さんがケーキバイキングに行きたいみたいな感じだった気がする」

 クラスのみんなの前で、これだけの言葉を並べ立てるなど初めてだ。現代文の授業で朗読する文章量よりも多くなるのではないか。だから妙な敬語が混じるのかもしれない――。そんなことを思いながらも続ける。

「磯部さんと沼田さんはケーキバイキングに対して肯定的だった。でも、副委員長は……一人だけ否定的だったんだ。太るからとか、甘い物は苦手だからとか――色々と理由をつけて断っていたけど、本当は乳製品アレルギーのせいで、ケーキが食べられなかったから、否定的だったんじゃないでしょうか?」

 その一言は友華に向けてのものだった。当時の会話をたまたま聞いていたのは、恐らく安藤だけであろう。そして、会話をしていた本人達は友華を除いて死亡している。つまり、会話の内容を知っているのは安藤と友華だけであり、クラスメイトに対する説得力は生じない。そこに説得力を生じさせるのは簡単。友華本人が認めてしまえばいい。

「あの時、沼田さんが副委員長に対して謝ってから、何かを言いかけたのを聞いたんだ。あれは副委員長が乳製品アレルギーであることを考慮しなかったことに対して、謝ったんじゃないでしょうか?」

 昼休みの会話が蘇る。あの時、沼田友希は友華に対して何らかの謝罪をし、そして何かを言いかけた。その先は、本田がお手製のボールをぶつけてくれたおかげで聞き逃してしまったが、恐らく彼女の言葉はこんな感じに続いたにちがいない。

 ――あ、ごめん。友華って確か……乳製品アレルギーだったよね。

 友華は何も答えない。別に責めるような口調になっているつもりはないのだが、もしかすると問責もんせきしているようになっているのかもしれない。もう少し柔らかな口調を意識すべきか。そう思った矢先のことだった。友華が口を開く。

「そうです――。私は小さい頃から乳製品アレルギーで、だから喉が渇いていても牛乳は飲めなかったんです。本当は喉が渇いて仕方がなかったのに」
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