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#1 毒殺における最低限の憶測【糾弾ホームルーム篇】

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「それにしてもぉ、これだけの人数がいるのですからぁ、もっと活発なホームルームになると思ったのですがねぇ。積極的に参加しているのはぁ、進行役の小宮山君にぃ、書記係及び有力容疑者の小巻澤さん、ヤンキーの本田君にぃ、暑苦しい熱血漢代表の根津君、本田君を影で操ってる坂崎君とぉ、イケメンだけが取り柄の伊勢崎君、自分のことを真綾って呼ぶのが可愛いとでも勘違いしているっぽい真下さんとぉ、昼安藤君。そして、芽衣ちゃぁぁぁぁん――くらいではないですかぁ。他の方々はぁ、このままだと安藤君以下の空気になりますがぁ、それでよろしいのでしょうか?」

 指を折りながら、ホームルームで発言した人数を数える姫乙。なんだか、物凄く自然と馬鹿にされたような気がするのだが、あえて気にしないほうがいいのだろうか。文句のひとつでも言いそうな真綾が堪えているようだから、安藤もあえて姫乙の言葉には反応しなかった。反応を見せれば姫乙が喜ぶだけということに、みんなが気づき始めたのかもしれない。

「あ――」

 漠然と姫乙の動きを眺めていた安藤であったが、過去のある出来事と姫乙の姿が重なり、思わず声を上げてしまった。それは、周囲に聞こえるほど大きなものだったらしい。

「どうしたんだい? 昼安藤。まさか、この僕に反論でもするつもり?」

 勝ち誇ったかのように髪をかきあげた伊勢崎。しかし、彼の言葉は安藤の左耳に入って、全く脳を介さずして右耳から出て行った。正直、安藤の脳は、他のことを処理することで精一杯だったのだ。

 まるで緩い電気が体を走ったように、ある事柄に気付いた途端、ゆっくりと全景が見えてくる。人間、とんでもないことをひらめいた時は、激しい電撃が走りでもするのかと思ったが、それは予想以上に微弱なものであり、なんだか拍子抜けしてしまった。しかし、頭の中にかかったもやが晴れ、その先に信じがたい真実が姿を現わす。

 ――これなら、筋が通ってしまう。事件が起きてから現在にいたるまでに生じた違和感や謎も、一気に全部解決してしまう。

「分かったかもしれない――。誰が犯人なのか」

 それは安藤の意思で放たれた言葉であったが、しかしそうではないような幻想感があった。きっと、自分がひょんなことからたどり着いてしまった答えが、あまりにも突拍子がなくて、混乱してしまっているのかもしれない。
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