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第二章 動き出す狂気【現在 七色七奈】
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私と大和田は車のところまで戻ると、運転席と助手席へと乗り込む。なんとなくではあるが、この辺りの土地勘を取り戻しつつあるし、赤松朱里の実家のイメージならば、まだ頭の中に残っている。現実で見える景色と、頭の中に残っている景色は、今のところイメージとしてリンクしているから、たどり着ける自信があった。
「さて――赤松さんなんて家があったかなぁ」
シートベルトを締めながら、もう一度首を傾げる大和田。私がこの地にいたのは小学生の折り返しくらいまで。その後、一度たりとも帰ってこなかったのだから、赤松家がなくなっている可能性はゼロではないだろう。
私はあえて大和田の独り言を無視して車を発車させた。頭の中に残っている地図と、実際に見える景色を照らし合わせながら、赤松朱里の実家に向かった。
彼女の実家は、私の記憶通りにあった。神社から近かった印象が強く、だから私も覚えていることができたのであろう。そんな頻繁に遊びにきたことがあるわけでもないし、そもそも本人とは仲が良かったわけでもないのに。
「あー、ここ。杉谷の廃屋じゃないか」
車を路肩に停めて降りようとした私の動きを、大和田の一言が止めた。
「えっ? 廃屋?」
私の言葉に大きく頷く大和田。
「あぁ、俺がこっちに来た時には、もう誰も住んでいなかったかな。崩れるかもしれねぇから、取り壊したほうがいいって意見もあったみたいだけど、なんせ住んでた人達が神隠しに遭ったみたいに突然いなくなってしまったらしくて。で、一応所有者の断りなしでは壊せねぇってことで、ほったらかしにされてるみたいだ。そうか――ここが赤松さんの家か」
大和田の言葉の中には情報が多すぎて、私はそれを飲み込むだけで精一杯だった。もう、この家には誰も住んでいないということか。確かに、屋根となるトタンは所々穴が空いてるみたいだし、玄関辺りはすでに崩れ始めている。役所が対応したのか、玄関の引き戸には一枚の紙切れが貼ってある。
――危ないので立ち入ってはいけません。
私の目論見はあっさりと外れてしまった。赤松朱里の実家という、ある意味でチートな存在に頼れば、この奇妙な現象の正体が分かるかもしれないと思っていたのに。
「大和田さん。赤松家の人が神隠しに遭ったって話――詳しく知っていたりしません?」
神隠し……その言葉に直接結びついてしまう場所が、この地にはあった。そう、ミノタウロスの森だ。
「さて――赤松さんなんて家があったかなぁ」
シートベルトを締めながら、もう一度首を傾げる大和田。私がこの地にいたのは小学生の折り返しくらいまで。その後、一度たりとも帰ってこなかったのだから、赤松家がなくなっている可能性はゼロではないだろう。
私はあえて大和田の独り言を無視して車を発車させた。頭の中に残っている地図と、実際に見える景色を照らし合わせながら、赤松朱里の実家に向かった。
彼女の実家は、私の記憶通りにあった。神社から近かった印象が強く、だから私も覚えていることができたのであろう。そんな頻繁に遊びにきたことがあるわけでもないし、そもそも本人とは仲が良かったわけでもないのに。
「あー、ここ。杉谷の廃屋じゃないか」
車を路肩に停めて降りようとした私の動きを、大和田の一言が止めた。
「えっ? 廃屋?」
私の言葉に大きく頷く大和田。
「あぁ、俺がこっちに来た時には、もう誰も住んでいなかったかな。崩れるかもしれねぇから、取り壊したほうがいいって意見もあったみたいだけど、なんせ住んでた人達が神隠しに遭ったみたいに突然いなくなってしまったらしくて。で、一応所有者の断りなしでは壊せねぇってことで、ほったらかしにされてるみたいだ。そうか――ここが赤松さんの家か」
大和田の言葉の中には情報が多すぎて、私はそれを飲み込むだけで精一杯だった。もう、この家には誰も住んでいないということか。確かに、屋根となるトタンは所々穴が空いてるみたいだし、玄関辺りはすでに崩れ始めている。役所が対応したのか、玄関の引き戸には一枚の紙切れが貼ってある。
――危ないので立ち入ってはいけません。
私の目論見はあっさりと外れてしまった。赤松朱里の実家という、ある意味でチートな存在に頼れば、この奇妙な現象の正体が分かるかもしれないと思っていたのに。
「大和田さん。赤松家の人が神隠しに遭ったって話――詳しく知っていたりしません?」
神隠し……その言葉に直接結びついてしまう場所が、この地にはあった。そう、ミノタウロスの森だ。
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