ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース3 山奥の事故物件【プロローグ】

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 気の進まないまま、しかし歩みだけは進めると、例の事務所が見えてくる。大通りに面していながら、住宅だって近くにある立地。近所の方々はどんな気持ちで暮らしているのだろうか。事務所を構えている手前、隣近所などとの付き合いは、むしろしっかりしているというところも多いらしいが。

 できるだけ事務所のほうを見ないようにして通り過ぎてみる。脇に小道があるかを確かめるためだ。鯖洲の言った通り――いや、言われなければ分からないくらいの細い小道が、確かに事務所の脇には続いていた。

 一度は通り過ぎたものの、そのままの姿勢で数歩バックする。そして、鯖洲に言われた通り、小道のほうへと向かった。小道は事務所と隣の家の塀との間にできた隙間のようなものであり、昼間だというのに――表現としては変なのかもしれないが鬱蒼としていた。

「ここを通れってか……」

 思った以上の狭さに思わず漏らす。こんなことならば、多少入り組んでいても構わないから、裏手から駐車場に向かう道のりを教えて欲しかったものだ。しかも、この脇道には鯖洲よりも偉い人が育てている朝顔があるらしい。本人に聞けるのであれば聞いてみたい。なぜ、こんなところで朝顔を育てるのか。狭っ苦しい上に隣の塀が高いせいで、そこまで太陽の光も差すまいに。

 道を教えてもらっていなくとも、裏手から駐車場に向かうことはできるのではないか。道というものは、どこまでも続いているのだし。そう考えはしたが、さっきの電話の様子からして、あまり鯖洲を待たせるわけにはいかない。時間的な効率を優先するのであれば、やはりここは腹を括って脇道を行くしかないだろう。

 足元にだけ注意して進もう。もし仮に朝顔とやらが鉢植えで置いてあったとしても、それに気づかないなんてことはない。自分に言い聞かせながら進むと、その難関は思ったよりも難関であった。ただでさえ狭い小道の真ん中に、立派な鉢植えが堂々と鎮座していた。鉢をまたぐこともできそうにない。事実上、それで進むべき道が閉ざされているようなものだ。元より、ここは事務所と隣の家の塀の間にできた隙間であり、正式には道ではないのかもしれない。我が物顔で道のど真ん中に朝顔の鉢が置いてあるのだから。

 ――もうギブアップだ。下手なことをして朝顔に何かあったら大問題であるし、これ以上進むことはできないと判断。一旦脇道から大通りへと出た一里之は、あえて事務所から少し離れて鯖洲に電話をかけた。
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