ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース3 山奥の事故物件【プロローグ】

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「おい、いつまで待たせるんだよ?」

 電話に出るなり、明らかに苛ついた様子の鯖洲。こちらの事情も理解して欲しいものだ。

「いや、脇の小道――狭すぎるし、堂々と朝顔の鉢を置きすぎですよ。道塞がってますから、やっぱりそっちが迎えにきてくださいよ」

 一里之が伝えると、しばらくの沈黙が訪れる。そして、さも当然のようなことを鯖洲が呟いた。

「おー、そうか。朝顔も育つもんなぁ。そうなると上手いことまたげってわけにもいかないか。面倒だが、迎えに行ってやる。ちょっと待ってろ」

 最初からそうしてくれれば、こんな回りくどいやり取りをすることもないのに――なんて、本人には決して言えない。鯖洲が楽をしようとした結果、時間ばかりをくってしまっただけなのだが、振り回されるほうは堪ったものではない。まだ鯖洲にも会っていないし、仕事の内容すら聞いていないのに疲れてしまった。この仕事は下手すると長丁場になることがあるらしいのに。

 できるだけ事務所に近づかず、かと言って、道路から見れば確認できるような距離感を保ちつつ、鯖洲を待つことしばらく。初めて彼と会った時を思い出させる光景を一里之は見た。黒塗りの高級車――またしても、運転手は鯖洲ではないのだろう。

「おし、ここで交代だ。行き先は後で伝えるから、とりあえず車を出せ」

 当然とばかりに運転席から降りると、これまた当たり前のように助手席へと乗り込む鯖洲。溜め息を漏らすと運転席に乗り込む一里之。変な感じに阿吽の呼吸が成立してしまっている。決して喜ぶべきではない阿吽の呼吸だ。

「とりあえず近所にコンビニがあるから、そこに寄ってくれ。腹が減ってんだ」

 相変わらずの俺様主義というか、ならばせめてコンビニまでは運転しろよ――と言いたくなる。もちろん言わない。小さく頷くとウインカーを出し、恐る恐るとアクセルを踏む。前回は辛うじて何事も起きなかったが、もしどこかにぶつけようものならどうなるか分からない。全神経を集中させる。

「で、あれだとよ。今回は随分と山奥の山荘に行かなきゃならないらしい。いつもみたいに現地調達するにも時間がかかるだろうから、しっかり準備したほうがいい」

 鯖洲は早速仕事の話をしてくれるが、しかし運転に集中している一里之の耳には1割も入ってこない。生返事をすると「おい、聞いてるのか?」と不機嫌そうに鯖洲。一里之は「そっちの話に集中すると、多分どこかにぶつけます」と返す。鯖洲は沈黙した。
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