ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

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ケース5 誕生秘話は惨劇へ【解決編】

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「その可能性があるってことだ。はっきり言って、その一里之に情報を流したって男も、どこまで本当のことを言っているか分からねぇな。とにかく、鵜呑みにするのは危険だと思う」

 これは一筋の光明と言えるのだろうか。いいや、しかしながらコトリは自分で認識を始めていた。すなわち、自分は窓辺野コトリではなく、窓辺野あかりなのであると。そればかりは、きっと覆しようのない事実なのだ。ただ、それにより命が狙われるような事態に陥っているという現状には、いささか誇張が入っているのかもしれない。

「確かに、考えてみると静かですわね」

 ここは、病院からさほど離れていない喫茶店だ。いくら人目につかない場所にあるとはいえ、もう少し外が騒がしくてもいいのではないか。厚手のカーテンを少しだけめくり、窓の上部に見える外の景色を眺める。いたってのどかな光景が広がっているように思えた。間違っても殺伐とした空気は混じっていない。

 斑目と千早もこちらの会話が気になるのであろう。途中で口を挟もうとしつつ、しかし口を挟めず――みたいな状況が続く。

「一度、こっちに戻ってくるか? いや、今どこにいる?」

 鯖洲はそう言いながら、立ち上がったようだった。おそらく、治療を受けた直後で、安静にしているように指示も出ていたのであろう。後ろから看護師らしき声で「ちょっと、どこに行くんですか?」と強めの口調が飛んできた。

「もう治ったから行くわ。治療費は後で振り込むから心配すんな」

 どうやら看護師の制止を振り切り、鯖洲は勝手に退院をしてしまうつもりらしい。鯖洲らしいといえば鯖洲らしい。怪我をしても周りを振り回すポテンシャルは残っているようだ。

 鯖洲の背後では、止めようとする看護師らしき女性の声が響くが、それらしい反応さえ見せずに、鯖洲は「で、今どこだ?」と一言。

「斜向かいにある喫茶店にいますわ。失礼だけど、営業しているか外からでは判断がつかないほど、ひっそりとしたところ」

 鯖洲は病院の外に出たのであろう。車のエンジン音らしきものがスマホの向こう側に飛び交う。

「……やっぱり妙だな。この辺りにはまるで殺気がねぇ。普通、誰かの命を狙っている奴が近辺にいれば、ここまで穏やかな空気じゃねぇんだけどな」

 外に出た鯖洲は、真っ先に周辺の異変に気づいたらしい。いいや、それは異変とは呼ばないか。なぜなら、周囲はいたって平穏でのどかな空気なのだから。
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