ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―

鬼霧宗作

文字の大きさ
367 / 391
ケース5 誕生秘話は惨劇へ【解決編】

84

しおりを挟む
「そうか。分かった。伝えておく。お前もこっちに来るか? 病院側の喫茶店だ。あぁ、じゃあ後で」

 冥からの電話は実に簡潔になものだったらしく、ものの数分で電話を終えてしまう鯖洲。スマホをしまいながら、こちらに向かって口を開く。

「一里之に確認したが、その男とは別の部屋になったみたいだな。今となっては確認の取りようがないみてぇだが、あいつの話だと、思い返せば随分と胡散臭かったらしいぜ」

 留置所に入れられてしまった一里之からすれば、きっと庭師の男の話は掴んだ藁だったのであろう。その時は話を鵜呑みにしてしまったが、冥に言われて違和感に気づいたといった具合か。

「とにかく、鵜呑みにすることだけはやめたほうがいい。まるで無視をしろってわけじゃねぇが、お嬢の命が狙われるってのは、さすがに盛りすぎだったな。大体、そんなことをしてメリットがある奴なんていねぇだろうよ」

 鯖洲の言葉で、これまでの推測の一部が一蹴されてしまった。一応、そうなってしまうと困ってしまう人物が、コトリを亡き者にしようとしているという話ではあったが、その辺りの可能性も考え直さないといけないようだ。

「ねぇ、セバスチャン。私、ひとつだけ思い出したの。これは、私が覚えていることだから、デマでも大袈裟でもないと言い切れる」

 ただ、コトリには伝えるべきことがあった。それは、無理をしてまで鯖洲に伝えることではないのかもしれない。しかし、それを伝えずにいることは、鯖洲や冥に嘘をついているような気がして嫌だった。

「実はね――」

 どこまで話すべきなのか、コトリは迷ってしまった。いいや、どこまでなら受け入れてもらえるのか。自然とその尺度を測っていたのかもしれない。結局、全て話すことにした。軽蔑されてもいい。もしかすると自分のそばから鯖洲が去ってしまうかもしれない。それだけのことをやってしまった自覚はある。鯖洲とて人を殺しておいて、その人に成り代わっていた人間とは距離を置きたいだろう。どんな言葉が返ってきても、受け止める覚悟だけはできていた。

「……で? それがどうした?」

 その覚悟は、鯖洲の一言でぶち壊された。まさかのリアクションに言葉が出てこない。

「あのな、俺はお嬢が誰かなんて、正直どうでもいいんだよ。過去に何があろうが、前科があろうが、大事なのは今だろうが。そんなこと言ったら、俺がこれまでやってきたえげつないことを並べ立ててやろうか?」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

【完結】『からくり長屋の事件帖 ~変わり発明家甚兵衛と江戸人情お助け娘お絹~』

月影 朔
歴史・時代
江戸の長屋から、奇妙な事件を解き明かす! 発明家と世話焼き娘の、笑えて泣ける人情捕物帖! 江戸、とある長屋に暮らすは、風変わりな男。 名を平賀甚兵衛。元武士だが堅苦しさを嫌い、町の発明家として奇妙なからくり作りに没頭している。作る道具は役立たずでも、彼の頭脳と観察眼は超一流。人付き合いは苦手だが、困った人は放っておけない不器用な男だ。 そんな甚兵衛の世話を焼くのは、隣に住む快活娘のお絹。仕立て屋で働き、誰からも好かれる彼女は、甚兵衛の才能を信じ、持ち前の明るさと人脈で町の様々な情報を集めてくる。 この凸凹コンビが立ち向かうのは、岡っ引きも首をひねる不可思議な事件の数々。盗まれた品が奇妙に戻る、摩訶不思議な悪戯が横行する…。甚兵衛はからくり知識と観察眼で、お絹は人情と情報網で、難事件の謎を解き明かしていく! これは、痛快な謎解きでありながら、不器用な二人や長屋の人々の温かい交流、そして甚兵衛の隠された過去が織りなす人間ドラマの物語。 時には、発明品が意外な鍵となることも…? 笑いあり、涙あり、そして江戸を揺るがす大事件の予感も――。 からくり長屋で巻き起こる、江戸情緒あふれる事件帖、開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

処理中です...