BOOBY TRAP 〜僕らが生きる理由〜

鬼霧宗作

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動き出した狂気の果てに【午後7時〜午後8時】

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 なんとも説得力のない言葉なのだろうか。でも、それでいて優しい言葉でもある。なんだか申しわけないような気がして断ろうかとも思ったが、真子は村山の優しさに甘えることにした。ごく当たり前に触れてきた日常的な他人の優しさは、この非日常では余計に嬉しく思えた。

「あ、ありがとう」

 村山の靴を拝借すると、底の空いてしまったローファーから履き替える。少しばかり照れてしまうというか恥ずかしかった。彼氏でもなんでもない村山から靴を借りるという行為は――なんというか、越えてはならない一線を越えるような感覚だ。男女の仲に一歩踏み込む行為というべきか。もっとも、カップル同士で靴の貸し借りをするなんてことは現実的にあり得ないことであるが。

「ちょっとだけ、ぶかぶかだね――」

 いくら村山の足のサイズが小さいとはいえ、村山と真子の足のサイズがぴったり一致することはなかった。真子も真子で足のサイズは小さいほうであるし、逆にぴったりだったら少しショックだ。真子の言葉に笑みを浮かべる村山。真子は数歩だけ歩いてみせ、再び口を開く。

「でも、歩く分には問題なさそう。村山君、ありがとうね」

 真子もまた、できる限りの笑顔を村山に見せたつもりだ。これからどうなるのかなんて全く分からない。磯部と一緒に境界線を越えてしまうのか、それともその前に阻止するのか。その辺りのことだって村山任せにしているようなものだ。でも、先のことは分からなくとも、わざわざ今から落ち込んでいる必要はない。

「全く、何をイチャイチャしてるんだか――」

 村山と真子のやり取りを見ていた磯部が、ペットボトルの水を飲み干すと呟いた。その直後のことであった。突然、磯部がうめき声を漏らすと、そのままうつ伏せになって倒れ込む。街灯の明かりの下、倒れ込んだ磯部の肩から背中にかけて、パックリと割れ目ができていた。それは赤いクレバスのようで、そこからはしゅにまみれた液体が、じんわりと滲み出す。

 何が起きたのかさっぱり分からない。磯部が急に倒れ、そして背中には何かで切りつけられた――いいや、切り裂かれたような深い傷ができていた。ごくごく普通にしていて、人間がこんな風になることはない。

 地面を擦るような音が聞こえ、それが足音であると察知したであろう村山が、真子のことを庇うようにして前に出る。いきなり倒れてしまった磯部。その背後にあった暗闇の中から、街灯の光の輪の中に、それが姿をぬっと現した。
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