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ダイニング イン ザ ダイ【午後8時〜午後9時】
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「うっ、うわぁぁぁぁぁっ!」
片岡の悲鳴が辺りにこだました。転んでしまった春日は起き上がりつつ、しかし片岡の手をしっかりと掴んでいるという奇妙な現象に見舞われた。恐る恐ると目線をそちらのほうにやると――なかった。腕の付け根から先が存在せず、闇の中から腕が生えていた。そこから少し離れたところで、片岡が目を丸くしながら叫び続ける。本来ならば腕があったはずのそこには、真っ赤な断面が見えるばかりであり、その断面からは深紅の液体が漏れ出している。片岡の片腕が、見事なまでにすっぱりと綺麗に切断されていたのだ。
「大丈夫、怖くない怖くない。怖くない怖くない怖くない! 痛くない、痛くない、痛くない、むしろ痛気持ち良くなるから!」
片岡の様子を見て支離滅裂なことを口にするナタ女。その狂気の笑みは人間のものではなく、悪魔そのものだった。
「片方だけだとバランス悪いから、もう片方もいっちゃおう。うん、そうしたほうがいーいーよーねー!」
腕を失ったという事実にパニックを起こしている片岡にナタ女が迫る。その血のしたたるナタを大きく振り上げた。
春日はとっさにナタ女の懐へと飛び込んだ。普段は石橋を叩いても渡らないほど慎重派の春日は、自分の行動に驚きつつも必死だった。
火事場の馬鹿力とは、このような時にこそ遺憾無く発揮されるものなのであろう。懐に飛び込んでからしばらく。ナタの動きがゆっくりと映った。そして、夜という視界が制限されている環境であるのに、はっきりと見えたのだ。振り下ろされるナタの軌道が。この間、恐らく数秒程度の出来事だったに違いない。
春日は無我夢中で魔物の両手を掴み、寸前のところでナタの動きを止める。変則的な真剣白刃取りみたいになってしまった。
「――離せっ! 離してよぉ!」
だが、ナタ女は奇声を上げつつ、春日の手を振りほどこうとする。顔は狂ったような笑みで満ちており、それは人間として完全に壊れているをこと物語っていた。
「離さない……。絶対にだっ!」
まさしく鍔ぜり合い。拘束を逃れようと、両手を激しく揺さぶる魔物と、それを絶対に離すまいとする春日の鍔ぜり合い。
叫ぶことを止め、急に静かになった片岡が、地面へと倒れ込んだのが見えた。駆けつけてやることもできず、春日は鍔ぜり合いを続ける。
ようやく異変を察してくれたのか、先に行った水落が戻ってきてくれた。
「私はいいから片岡を!」
春日のほうに加勢しようとした水落を、片岡のほうへと促す春日。水落は小さく頷くと、片岡のほうへと駆け寄る。
片岡の悲鳴が辺りにこだました。転んでしまった春日は起き上がりつつ、しかし片岡の手をしっかりと掴んでいるという奇妙な現象に見舞われた。恐る恐ると目線をそちらのほうにやると――なかった。腕の付け根から先が存在せず、闇の中から腕が生えていた。そこから少し離れたところで、片岡が目を丸くしながら叫び続ける。本来ならば腕があったはずのそこには、真っ赤な断面が見えるばかりであり、その断面からは深紅の液体が漏れ出している。片岡の片腕が、見事なまでにすっぱりと綺麗に切断されていたのだ。
「大丈夫、怖くない怖くない。怖くない怖くない怖くない! 痛くない、痛くない、痛くない、むしろ痛気持ち良くなるから!」
片岡の様子を見て支離滅裂なことを口にするナタ女。その狂気の笑みは人間のものではなく、悪魔そのものだった。
「片方だけだとバランス悪いから、もう片方もいっちゃおう。うん、そうしたほうがいーいーよーねー!」
腕を失ったという事実にパニックを起こしている片岡にナタ女が迫る。その血のしたたるナタを大きく振り上げた。
春日はとっさにナタ女の懐へと飛び込んだ。普段は石橋を叩いても渡らないほど慎重派の春日は、自分の行動に驚きつつも必死だった。
火事場の馬鹿力とは、このような時にこそ遺憾無く発揮されるものなのであろう。懐に飛び込んでからしばらく。ナタの動きがゆっくりと映った。そして、夜という視界が制限されている環境であるのに、はっきりと見えたのだ。振り下ろされるナタの軌道が。この間、恐らく数秒程度の出来事だったに違いない。
春日は無我夢中で魔物の両手を掴み、寸前のところでナタの動きを止める。変則的な真剣白刃取りみたいになってしまった。
「――離せっ! 離してよぉ!」
だが、ナタ女は奇声を上げつつ、春日の手を振りほどこうとする。顔は狂ったような笑みで満ちており、それは人間として完全に壊れているをこと物語っていた。
「離さない……。絶対にだっ!」
まさしく鍔ぜり合い。拘束を逃れようと、両手を激しく揺さぶる魔物と、それを絶対に離すまいとする春日の鍔ぜり合い。
叫ぶことを止め、急に静かになった片岡が、地面へと倒れ込んだのが見えた。駆けつけてやることもできず、春日は鍔ぜり合いを続ける。
ようやく異変を察してくれたのか、先に行った水落が戻ってきてくれた。
「私はいいから片岡を!」
春日のほうに加勢しようとした水落を、片岡のほうへと促す春日。水落は小さく頷くと、片岡のほうへと駆け寄る。
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