184 / 231
ダイニング イン ザ ダイ【午後8時〜午後9時】
12
しおりを挟む
まだ鍔ぜり合いは続く。しかし、こちらは両手の感覚が薄れ、痺れ始めていると言うのに、魔物の力は弱まるばかりか強くなる一方。曲がりなりにも、こちらは男だというのにだ。徐々に徐々に――春日は押されつつあった。
「水落! 片岡を連れて早く安全な場所に逃げろ!」
この手を離してしまえば、凶刃が片岡と水落を襲ってしまう。ただでさえ片腕が切り落とされ、極めて危険な状態である片岡。現状でさえ命の危険に晒されているのに、追撃を許してしまえば片岡は帰らぬ人となってしまうだろう。
水落は片岡を背負って、この場から離れようとしてくれているが、やはり片岡の片腕がないせいで動きにくいようだ。まだ、春日達の近くから離れられてはいない。
すでに体力的には限界を超え、気力だけで魔物に抗っていた。そして、実に珍しい春日の諦めの悪さが功を奏したのか、彼が戻ってきてくれたのである。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
咆哮を上げつつ、学校のシルエットから飛び出して来た彼は、どこから調達したのかデッキブラシを振り上げる。
「いい加減にせぇよっ! この、ボケがぁぁぁぁっ!」
二度目の咆哮と共に彼は跳躍し、デッキブラシを魔物の脳天へと振り下ろした。鈍い打撃音が響き、春日の両腕が急に軽くなる。完全に意識が春日に集中していたせいであろう。ナタ女は伏兵の登場に反応さえできず、音も無く地面へと倒れ込んだ。
「くそったれが……。しつこいボケは嫌われるぞ! 同じボケは許されて三度までや」
彼――いや、深田は魔物を見下ろすと、肩で呼吸をしながら言葉を吐き捨てる。しかし、すぐに片岡の姿を見つけると、デッキブラシを投げ捨てて片岡に駆け寄った。
「おいっ! しっかりしろや! 何があったんや!」
水落から奪うかのようにして片岡に肩を貸そうとする深田。片岡は何かを言いたげにしながらも、苦しそうに息をするばかり。その間も、切り落とされた断面からは鮮血が流れ続けていた。
「……どういう事や? 俺がおらん間に何があった?」
答えなき問いかけの矛先が、片岡から春日と水落に向けられたのは当然のことである。いや、春日が少なからずとも責任を感じていたからこそ、なおさらにそう思えたのであろう。
片岡を守る方法はあった。浜野のように片岡が校舎に残っても良かったのだ。同行しようとする片岡を、止めてやることだってできた。だが、春日はそれをしなかった。すなわち、最悪の事態を想定することができなかったのだ。――全ての責任は春日にある。春日自身はそう思っていた。
「水落! 片岡を連れて早く安全な場所に逃げろ!」
この手を離してしまえば、凶刃が片岡と水落を襲ってしまう。ただでさえ片腕が切り落とされ、極めて危険な状態である片岡。現状でさえ命の危険に晒されているのに、追撃を許してしまえば片岡は帰らぬ人となってしまうだろう。
水落は片岡を背負って、この場から離れようとしてくれているが、やはり片岡の片腕がないせいで動きにくいようだ。まだ、春日達の近くから離れられてはいない。
すでに体力的には限界を超え、気力だけで魔物に抗っていた。そして、実に珍しい春日の諦めの悪さが功を奏したのか、彼が戻ってきてくれたのである。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!」
咆哮を上げつつ、学校のシルエットから飛び出して来た彼は、どこから調達したのかデッキブラシを振り上げる。
「いい加減にせぇよっ! この、ボケがぁぁぁぁっ!」
二度目の咆哮と共に彼は跳躍し、デッキブラシを魔物の脳天へと振り下ろした。鈍い打撃音が響き、春日の両腕が急に軽くなる。完全に意識が春日に集中していたせいであろう。ナタ女は伏兵の登場に反応さえできず、音も無く地面へと倒れ込んだ。
「くそったれが……。しつこいボケは嫌われるぞ! 同じボケは許されて三度までや」
彼――いや、深田は魔物を見下ろすと、肩で呼吸をしながら言葉を吐き捨てる。しかし、すぐに片岡の姿を見つけると、デッキブラシを投げ捨てて片岡に駆け寄った。
「おいっ! しっかりしろや! 何があったんや!」
水落から奪うかのようにして片岡に肩を貸そうとする深田。片岡は何かを言いたげにしながらも、苦しそうに息をするばかり。その間も、切り落とされた断面からは鮮血が流れ続けていた。
「……どういう事や? 俺がおらん間に何があった?」
答えなき問いかけの矛先が、片岡から春日と水落に向けられたのは当然のことである。いや、春日が少なからずとも責任を感じていたからこそ、なおさらにそう思えたのであろう。
片岡を守る方法はあった。浜野のように片岡が校舎に残っても良かったのだ。同行しようとする片岡を、止めてやることだってできた。だが、春日はそれをしなかった。すなわち、最悪の事態を想定することができなかったのだ。――全ての責任は春日にある。春日自身はそう思っていた。
0
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる