189 / 231
ダイニング イン ザ ダイ【午後8時〜午後9時】
17
しおりを挟む
これで助かった――と安心するには早かった。春日に勢いがついていたせいで、想定以上の負荷がかかってしまったのであろう。重さに耐えることができなかったのか、水落の手を掴んでも重力に逆らえない。上半身を乗り出した形だった水落の体が、春日ごと大穴の中へと引きずり込まれる。このままでは、水落まで巻き添いにして大穴へと落下する。落ちても助かるなんてことは、まずあり得ない。
一瞬だけひやりとしたが、春日と水落の体は、ようやく重力へと逆らった。どうやら、水落の体を支えていた陸士長のおかげらしい。
「……陸士長! 絶対に手を離すなよっ!」
水落は春日を落下させまいとするべく、両手で春日の腕を掴む。
「普段からの鍛え方が違うんだ! 言われなくても絶対に離すものか!」
さすがは自衛官。訓練を積んで来ただけのことはある。
「春日さん、今引き上げるから、もう少し辛抱し……」
水落はそこまで言いかけて、春日の足元を見て息をのむ。それにつられるようにして、春日は自分の足元へと視線を移した。それで、ようやく理解した。一度は大穴に引きずり込まれそうになったのには、明確な理由があったのだ。むしろ、これでよく踏ん張ったものだと思う。
――春日の足首に、真っ白な手が絡みついていた。
春日のシナリオ通りならば、大穴の存在を知らないナタ女は春日を追って穴底に真っ逆さまのはずだった。しかし、魔物はとっさに掴んだのだ。地面がないことに気づき、春日の後を追って跳んだ――そして、春日の足首を掴んだのである。
ニタリと笑みを浮かべたナタ女と目が合うと同時に、春日の全身から血の気が引いていく。こんな状態で切り付けられてしまったら、一巻の終わりだ。だが、不幸中の幸いというべきか、ナタ女は両手で春日の足を掴んでいる。どうやらナタは落としてしまったようだ。
「……悪いが、もうそこまで長くはもたないぞ」
陸士長の絞り出したような声が上から降ってくる。どれだけ鍛えていようとも限界というものがあるだろう。三人分の体重をずっと支えているのには無理がある。このままでは全員落下。春日とナタ女だけではなく、水落と陸士長もろとも穴に落下してしまう。落下すれば串刺しはまぬがれない。
「頑張れ陸士長! おい、誰か来てくれっ! このままじゃ……」
春日の腕を掴む水落の手も、小刻みに震え始めた。陸士長と同様に、彼にも限界が訪れようとしているのだ。
「助けてぇ! 誰か来てぇ! 落ちちゃう! 落ちちゃうよぉぉぉぉぉ!」
一方、それをあざ笑うかのようにして、左右へと体を振り始めたナタ女。死に対する恐怖感は、もう壊れてしまっているのであろう。春日達の様子を楽しんでいるかのごとく、その顔には満面の笑みが浮かんでいることだろう。
一瞬だけひやりとしたが、春日と水落の体は、ようやく重力へと逆らった。どうやら、水落の体を支えていた陸士長のおかげらしい。
「……陸士長! 絶対に手を離すなよっ!」
水落は春日を落下させまいとするべく、両手で春日の腕を掴む。
「普段からの鍛え方が違うんだ! 言われなくても絶対に離すものか!」
さすがは自衛官。訓練を積んで来ただけのことはある。
「春日さん、今引き上げるから、もう少し辛抱し……」
水落はそこまで言いかけて、春日の足元を見て息をのむ。それにつられるようにして、春日は自分の足元へと視線を移した。それで、ようやく理解した。一度は大穴に引きずり込まれそうになったのには、明確な理由があったのだ。むしろ、これでよく踏ん張ったものだと思う。
――春日の足首に、真っ白な手が絡みついていた。
春日のシナリオ通りならば、大穴の存在を知らないナタ女は春日を追って穴底に真っ逆さまのはずだった。しかし、魔物はとっさに掴んだのだ。地面がないことに気づき、春日の後を追って跳んだ――そして、春日の足首を掴んだのである。
ニタリと笑みを浮かべたナタ女と目が合うと同時に、春日の全身から血の気が引いていく。こんな状態で切り付けられてしまったら、一巻の終わりだ。だが、不幸中の幸いというべきか、ナタ女は両手で春日の足を掴んでいる。どうやらナタは落としてしまったようだ。
「……悪いが、もうそこまで長くはもたないぞ」
陸士長の絞り出したような声が上から降ってくる。どれだけ鍛えていようとも限界というものがあるだろう。三人分の体重をずっと支えているのには無理がある。このままでは全員落下。春日とナタ女だけではなく、水落と陸士長もろとも穴に落下してしまう。落下すれば串刺しはまぬがれない。
「頑張れ陸士長! おい、誰か来てくれっ! このままじゃ……」
春日の腕を掴む水落の手も、小刻みに震え始めた。陸士長と同様に、彼にも限界が訪れようとしているのだ。
「助けてぇ! 誰か来てぇ! 落ちちゃう! 落ちちゃうよぉぉぉぉぉ!」
一方、それをあざ笑うかのようにして、左右へと体を振り始めたナタ女。死に対する恐怖感は、もう壊れてしまっているのであろう。春日達の様子を楽しんでいるかのごとく、その顔には満面の笑みが浮かんでいることだろう。
0
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【短編】記憶を失っていても
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
7年以上前の記憶のない平民出身のラチェルは、6年前に娘のハリエットを生んでからグリオス国のアンギュロスの森付近の修道院で働きながら暮らしていた。
そんなある日ハリエットは見たことのない白銀色の大樹を見つけたと、母ラチェルに話すのだが……。
これは記憶の全てを失ったラチェル──シェシュティナが全てを取り戻すまでのお話。
※氷雨そら先生、キムラましゅろう先生のシークレットベビー企画開催作品です( ´艸`)
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる