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ダイニング イン ザ ダイ【午後8時〜午後9時】

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「春日さん! 落とせっ! そいつを落とすんだ! じゃないと、俺達がもたないっっ!」

 こめかみに血管を浮かび上がらせながら唾を飛ばす水落。それは、生き残るためには当然の行為であり、春日の頭にも薄っすらと浮かび上がっていたものだった。それが見えていなかったのは、きっとこんな状況なのに理性が働いたからであろう。

 ナタ女を大穴に落として殺害する。そもそも、春日はそれが目的で跳んだのだ。しかし、自ら蹴落とすという直接的なことになってしまうと、戸惑う部分もあった。――まだ、春日が正常である証拠だったのかもしれない。

「早くっ! 春日さん、早くそいつを落とすんだっ!」

 倫理感や道徳心はもちろんのこと、理性は春日達を救ってはくれない。殺らなければ殺られるのだ。迷っている暇はない。

 春日が決心した直後のことだった。ナタ女のもう片手が春日の腰に巻きつけられる。このような宙ぶらりんの状況でありながら、片手の力だけで春日の体をよじ登ろうとしているのである。

 もはや面影は跡形もないが、女性であることを考えれば信じられない腕力である。いいや、きっと壊れているのだ。一種の興奮状態に陥ってしまっているせいか、体の制御が機能しなくなっているのだろう。ようするにリミッターが解除されてしまった状態。これが火事場の馬鹿力の正体なのであろう。

 ――抗え。春日は自身に言い聞かせると、目の前にあった壁を力任せに蹴った。いわゆるブランコと同じ原理。手は塞がっているし、腰に抱きつかれるような格好を許してしまったため、足で抵抗することも難しい。ならば、こうするより他に手段はない。

「春日さん! そんなことされたら、本当に腕が――」

 支えているだけで精一杯であろうに、春日がブランコのように大きく後ろに跳んだのだ。負担がかかるのは当然ながら上から手を掴んでくれている水落と陸士長となる。

 もう少し。もう少しだけでいいから耐えてくれ。このような状況になって、自分まで生きようとは思わない。生に対する執着は人一倍であるが、しかし何よりも恐ろしいのは、歯止めの効かなくなったナタ女が春日の体を伝ってのぼりきってしまうこと。ならば、大きく反動をつけ、その勢いでナタ女を壁に叩きつけてやる。

 水落の手が滑ってしまうかもしれない。陸士長の体力が限界を迎えるかもしれない。そうなってしまったらそうなってしまった時で、潔く死んでしまったほうが案外格好いいのかもしれない。
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