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エピローグ【解決編】
エピローグ【解決編】1
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そこまでを読み終えて、彼こと春日士郎は小さく溜め息を漏らした。
集合予定時刻は午後の1時だった。夕食会の準備にしても随分と早いのではないかと思ってはいたが、やはり裏があったらしい。会場に到着した時点で、誰も会場入りしていなかったから、どうにも奇妙だとは思っていたのであるが。
「――どうですか? 春日さん」
ずっと手持ち無沙汰だったのであろう。少し前から会場の飾り付けを始めた彼女――本間アガサが、進捗状況を探るかのごとく春日のほうへとやって来た。派手ではないものの、パーティードレスを着た彼女は、それこそ馬子にも衣装といったところだ。
「まぁ、悪くはないんじゃないか。もっとも、あの事件をネタに小説を書ける神経は疑うが」
会場に到着した春日に課せられたのは、会場の飾り付けでもなんでもなく、本間アガサが事実に沿って書いたという小説を読まされることだった。彼女が自ら幹事を買って出たのも、おそらくは最初からこのような魂胆があったからなのであろう。
「私は事実を世間に対して公表したいだけです。いち推理小説研究会の部長として」
その言葉に春日は改めて溜め息をひとつ。なんでも、彼女は大学で推理小説研究会を運営しているらしい。それで、こともあろうか例の事件――誰がなんの目的でやったのかも分からない事件のことを小説として書いたらしい。もちろん、大筋部分をなぞっているだけで、細かな部分は異なってはいるが、よくもあの不幸な塊のようなものをネタにしようと思ったものだ。みんなが知ったらどう思うことか。
「公表もなにも、はっきり言って君は素人なわけだろ? 自費出版でもするのか?」
春日が問うと、アガサは首を横に振って「自費出版なんてしません! 出版社に持ち込みます!」と語気を荒げる。持ち込んだところで、出版までこぎつけられるとは限らない。むしろ、門前払いがデフォルトのような気がする。
店内は薄暗く、クラシックな造りの大人の落ち着いたバーといったところ。再会を喜ぶシチュエーションとしては最高なのだろうが、まさかバーカウンターで原稿用紙に目を通すことになるとは思いもしなかった。
「ただ、どうやらこれで原稿は終わりのようだが」
アガサの書いた小説は【テレフォンボックス】にて認証を終えたところまでしか書かれていなかった。俗にいう解決編が丸々抜け落ちてしまっている状態である。ふと時計に目をやると、時計は4時を回ったところだった。ついさっきアガサが会場の飾り付けを始めたわけだから、そもそもの準備なんてものは時間がかかるものではないのだろう。料理なんかも店任せみたいだし、となると春日は本当に下読み要因として早めに呼び出されたようだ。
集合予定時刻は午後の1時だった。夕食会の準備にしても随分と早いのではないかと思ってはいたが、やはり裏があったらしい。会場に到着した時点で、誰も会場入りしていなかったから、どうにも奇妙だとは思っていたのであるが。
「――どうですか? 春日さん」
ずっと手持ち無沙汰だったのであろう。少し前から会場の飾り付けを始めた彼女――本間アガサが、進捗状況を探るかのごとく春日のほうへとやって来た。派手ではないものの、パーティードレスを着た彼女は、それこそ馬子にも衣装といったところだ。
「まぁ、悪くはないんじゃないか。もっとも、あの事件をネタに小説を書ける神経は疑うが」
会場に到着した春日に課せられたのは、会場の飾り付けでもなんでもなく、本間アガサが事実に沿って書いたという小説を読まされることだった。彼女が自ら幹事を買って出たのも、おそらくは最初からこのような魂胆があったからなのであろう。
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その言葉に春日は改めて溜め息をひとつ。なんでも、彼女は大学で推理小説研究会を運営しているらしい。それで、こともあろうか例の事件――誰がなんの目的でやったのかも分からない事件のことを小説として書いたらしい。もちろん、大筋部分をなぞっているだけで、細かな部分は異なってはいるが、よくもあの不幸な塊のようなものをネタにしようと思ったものだ。みんなが知ったらどう思うことか。
「公表もなにも、はっきり言って君は素人なわけだろ? 自費出版でもするのか?」
春日が問うと、アガサは首を横に振って「自費出版なんてしません! 出版社に持ち込みます!」と語気を荒げる。持ち込んだところで、出版までこぎつけられるとは限らない。むしろ、門前払いがデフォルトのような気がする。
店内は薄暗く、クラシックな造りの大人の落ち着いたバーといったところ。再会を喜ぶシチュエーションとしては最高なのだろうが、まさかバーカウンターで原稿用紙に目を通すことになるとは思いもしなかった。
「ただ、どうやらこれで原稿は終わりのようだが」
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