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明け方のラブホテルにて

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「いや、超いっぱいいるから。車の免許持ってる人、多分超いっぱいいるから。雅、そういうのはプロファイリングって言わねぇんだよ。なんだ――その、あるあるだ。あるある。殺人事件あるある」

 間髪入れずに突っ込む田之上。殺人事件あるあると例えるのは違うと思う。それに、現場は広範囲に広がっているのだから、雅のプロファイリングは間違っていない。

 プロファイリング――。それは言わば統計学であり、絶対ではないということだ。参考にする程度なら問題ないが、過信してはならない。事実、今でも記憶に新しい神戸での猟奇殺人事件では、プロファイリングが見当違いの見解を示し、捜査そのものを混乱させたのだ。実際、犯人は年端もいかぬ少年であったが、当時の警察の見解では、犯人は40代の男性。それが発表されるなり、現場付近でそれらしい人物を見たなどという情報が殺到したのであるから、いかにプロファイリングが不安定で、また人間の記憶がいい加減なのかが分かる。

 本事件の場合、犯人像は親から仕送りをもらって独り暮らしをしている学生……なんて可能性も充分にあるわけだ。もっとも、そんなことはあり得ないだろうが。

 これまでの統計データと、無数の前例にかんがみて犯人像を割り出すプロファイリングは、あくまでも推測の域を出ないということである。なんせ、警察が相手をするのは、統計データではなく生身の人間なのだから。

「犯人は孤独で内向的。それなのにも関わらずプライドだけは無駄に高い。だから、カップルや夫婦に対して、歪んだ敵対心を持っている。独身の独り暮らしで女に縁がない男……犯人の人物像はこんな感じなんだろうねぇ」

 桂が呟くと、ふたつ目のプリンを平らげてしまった田之上が口を開く。

「プロファイリングの件はこれくらいにしようや。事件は二件だけじゃ済んでねぇからなぁ」

 田之上の言葉に資料をめくる音が響き、そして桂が少しばかり席を離れる。何かと思ったら六課の隅に置いてある小さな冷蔵庫の中から、缶ジュースらしきものを手に戻ってきた。プルタブを開けて口につけると、桂は話を再開する。缶ジュースらしきものがビールであることに気付いた堀口は、見なかったことにした。

 第三と第四の事件は、第二の事件から二か月経過した頃に、立て続けに発生した。現場は夜景スポットとして有名な展望台がある丘陵の公園。
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