探偵残念 ―安楽樹は渋々推理する―

鬼霧宗作

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2.長い夜の始まり

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 結果的にではあるが、菱田が1人で外に出るということは回避できたらしい。しかしながら、思わぬ形で安楽に白羽の矢が立った。

「それじゃ安楽君。外に出る準備をしてくれ。雨合羽は地下室にまだあったはずだ」

 細川と菱田のいさかいが収まり、めでたしめでたし――といった具合に首を縦に振っていた安楽は、ワンテンポ遅れてから菱田の言葉の意味を察したのか「え?」と間抜けな声を出した。

「あらゆる可能性がある以上、1人で作業することも、犯人の可能性があるやつと作業するのもリスクが伴うということは理解できた。だとすれば、ここに来るまで俺達と全く関わりのなかった君が最も安全だ。少なくとも、俺達を殺す動機はないだろうからな」

 おそらく予期していなかったであろう菱田からのご指名に、改めて「――え?」とすっとぼける安楽。慌ててつけ加える。

「いや、あらゆる可能性を考えるのであれば、俺が動機なしでも人を殺すシリアルキラーだという可能性もゼロではないわけで――」

「百歩譲ってそうだったとしても、君くらいの体格なら、なんとか力づくで組み伏せそうだ。それも考慮するのであれば、やっぱり君と外に出るのが最適解ということになるな」

 必死に抵抗はしたものの、しかし菱田の考えは変わらないらしい。これは安楽が降参するしかなさそうだ。

「いや、でも――」

 まだ食らいつこうとした安楽だったが、辺りが稲光りに包まれ、安楽の発言をかき消すかのごとく轟音が辺りに響いた。これまでで一番大きかった。

「できるなら明るい内に全部終わらせてしまいたい。準備をしてきてくれ」

 菱田の指示に、一同の視線は安楽へと集められる。ご指名されてしまったことには同情するが、嵐は勢力を増すばかりだ。菱田の言っていることはあながち間違ってはいないし、対策できるのであれば、対策できるうちにやっておいたほうがいい。ただ大半の人間が、その対策を実際に行うほうになりたくないだけだ。

「マジかよ――。やっぱり家にいれば良かった。ここに来なきゃ良かったんだ」

 周囲から集められた期待と視線に耐えきれなくなったのか、ぶつぶつと文句を垂れながらも地下室のほうへと向かう安楽。その後ろ姿に申し訳なさを感じながらも、蘭は徐々に強くなる嵐と、湧きあがる妙な胸騒ぎに、ただただ悪い予感を抱くのであった。
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