38 / 98
2.長い夜の始まり
13
しおりを挟む
【3】
風の音。風が窓を覆った板を叩く音。定期的に繰り返されるそれが、風が窓を叩く音ではないことに気づいた蘭は、ゆっくりと瞳を開ける。見たことのない天井。そこが別荘の客室であることに気づくのには、そこまで時間はかからなかった。自然と枕元に置いてあった腕時計に視線をやる。午前3時。まだ外は暗いし、起きるには少し早い。
中途半端に寝たせいか、妙に頭がぼんやりとしている。思考がまとまらず、思わず二度寝をしそうになってしまった。それでも、定期的に響くノックの音が、辛うじて蘭をベッドから引きずり落とした。
「はーい、こんな時間にどうしたの?」
まだ夢の中に半分足を突っ込んだままだった蘭は、眠い目をこすりながら扉のほうへと向かう。化粧は完全に落としており、俗にいうすっぴんだった。しかし、それすらも気にならないほど、眠気のほうが勝っていた。
「ごめんね、こんな時間に……」
相手を確認する前に、無意識で鍵を開けようとしていた自分に気づかされる。扉の向こう側からした声は聞き覚えのあるもの。英梨だった。
「どうしました? 怖くて眠れないとか?」
この時の蘭には、まだ冗談を言える余力があった。扉の向こう側が英梨だということもあり、なんの疑いもなく鍵を開ける。扉を開けると、そこには英梨だけではなく、真美子の姿もあった。派手目な化粧がなりを潜めていたから、一瞬誰かと思ったが。珍しい組み合わせというか、別々の大学の英梨と真美子がセットになっているというのは、なんだか違和感があった。
「いや、その――ちょっと隣の部屋から変な音が聞こえてさ。ね?」
真美子の言葉に英梨が頷く。
「えっと……2人の隣の部屋って」
正直なところ、他人の部屋割りまで把握していない。なんとなく、英梨が角部屋ということを覚えているくらいだ。
「亜純。さっき、なんか変な音が聞こえたっていうか、なんだか争っている音? とにかく、妙な音がずっと聞こえていて、それで、どうしようかと思っていたら、こちらの方と廊下でばったり会って」
呼び方がよそよそしいことから、おそらく英梨は真美子の名前すら、しっかりと把握できていないらしい。ますます、夜中に揃って起こしにくるには不自然な組み合わせだ。
「私、中々寝付けなくてさ。やっとうとうとし始めたと思ったら、隣から変な音がし始めたんだよね。それで、直接部屋に声をかけに行くにしても、私は彼女とあまり面識ないし、どうしようって廊下に出てみたら、たまたま一緒になって――」
風の音。風が窓を覆った板を叩く音。定期的に繰り返されるそれが、風が窓を叩く音ではないことに気づいた蘭は、ゆっくりと瞳を開ける。見たことのない天井。そこが別荘の客室であることに気づくのには、そこまで時間はかからなかった。自然と枕元に置いてあった腕時計に視線をやる。午前3時。まだ外は暗いし、起きるには少し早い。
中途半端に寝たせいか、妙に頭がぼんやりとしている。思考がまとまらず、思わず二度寝をしそうになってしまった。それでも、定期的に響くノックの音が、辛うじて蘭をベッドから引きずり落とした。
「はーい、こんな時間にどうしたの?」
まだ夢の中に半分足を突っ込んだままだった蘭は、眠い目をこすりながら扉のほうへと向かう。化粧は完全に落としており、俗にいうすっぴんだった。しかし、それすらも気にならないほど、眠気のほうが勝っていた。
「ごめんね、こんな時間に……」
相手を確認する前に、無意識で鍵を開けようとしていた自分に気づかされる。扉の向こう側からした声は聞き覚えのあるもの。英梨だった。
「どうしました? 怖くて眠れないとか?」
この時の蘭には、まだ冗談を言える余力があった。扉の向こう側が英梨だということもあり、なんの疑いもなく鍵を開ける。扉を開けると、そこには英梨だけではなく、真美子の姿もあった。派手目な化粧がなりを潜めていたから、一瞬誰かと思ったが。珍しい組み合わせというか、別々の大学の英梨と真美子がセットになっているというのは、なんだか違和感があった。
「いや、その――ちょっと隣の部屋から変な音が聞こえてさ。ね?」
真美子の言葉に英梨が頷く。
「えっと……2人の隣の部屋って」
正直なところ、他人の部屋割りまで把握していない。なんとなく、英梨が角部屋ということを覚えているくらいだ。
「亜純。さっき、なんか変な音が聞こえたっていうか、なんだか争っている音? とにかく、妙な音がずっと聞こえていて、それで、どうしようかと思っていたら、こちらの方と廊下でばったり会って」
呼び方がよそよそしいことから、おそらく英梨は真美子の名前すら、しっかりと把握できていないらしい。ますます、夜中に揃って起こしにくるには不自然な組み合わせだ。
「私、中々寝付けなくてさ。やっとうとうとし始めたと思ったら、隣から変な音がし始めたんだよね。それで、直接部屋に声をかけに行くにしても、私は彼女とあまり面識ないし、どうしようって廊下に出てみたら、たまたま一緒になって――」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
死霊術士が暴れたり建国したりするお話
はくさい
ファンタジー
多くの日本人が色々な能力を与えられて異世界に送りこまれ、死霊術士の能力を与えられた主人公が、魔物と戦ったり、冒険者と戦ったり、貴族と戦ったり、聖女と戦ったり、ドラゴンと戦ったり、勇者と戦ったり、魔王と戦ったり、建国したりしながらファンタジー異世界を生き抜いていくお話です。
ライバルは錬金術師です。
ヒロイン登場は遅めです。
少しでも面白いと思ってくださった方は、いいねいただけると嬉しいです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる