探偵残念 ―安楽樹は渋々推理する―

鬼霧宗作

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2.長い夜の始まり

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 菱田が亜純のことを気に入っているのは、なんとなくだが空気で察している。というか、菱田が分かりやすい性格のため、亜純本人も薄々気づいてはいるのだろう。

「加能さん。僕だ、菱田だよ。なにかあったのかい?」

 扉を何度もノックしつつ、扉の中に向かって声をかける菱田。しかし、やはり返事はない。

「何事もなければ、それでいいんだけど」

 異変を真っ先にキャッチした英梨と真美子からすれば、ちょっとしたプレッシャーではある。何事もなければ、それがもちろん一番だが、ここまで大事になってしまって、あとから問題ありませんでした――というのもどうかと思う。

「鍵はしっかりかかっているか……」

 鍵がかかっていることを確認すると、菱田は食堂のほうへと向かい、外に出た時に脱ぎ捨てたままだったであろう雨合羽を着て戻ってきた。

「外に回り込んで中の様子を見てくるよ。女性の部屋を覗くような趣味はないが、打ち付けた板をはがせば中の様子くらいは確認できるだろう」

 こんな時、探偵小説などでは、容赦なく体当たりで扉を破壊したりするが、現実はそうならないだろう。万が一にも、扉をわざわざ破ったというのに、何事もなかったら、謝るだけでは済まないだろうし。大体、体当たりごときで壊れる扉なんて、とんでもない手抜き建築なのではないか。

「何事もなければいいんだけど……」

 待つことしばらく。慌てた様子の菱田が戻ってきた。そのまま蘭達の前を駆け抜けると、螺旋階段のほうに向かう。

「先輩、どうだったんですか?」

 蘭の声に振り返った菱田の顔は、まさしく顔面蒼白だった。彼は螺旋階段を駆けのぼりつつ「大変なことになった。大変なことになった」と言葉を漏らす。

 菱田が叩き起こしたのであろう。しばらくすると細川、榎本、そして安楽が螺旋階段をおりてくる。飛び降りんばかりの勢いで螺旋階段を駆けおりてきた菱田との温度差が激しかった。

「外から窓を割って入ったほうが早い! 裏手に釘抜きを置いてあるから、そいつで中に入ろう。安楽君!」

 一体、何が起こっているのか。ろくな説明もせずに、安楽を引き連れて食堂のほうへと向かった菱田。起こされるだけ起こされて、おそらく置いてきぼりとなってしまったであろう細川と榎本は、事情を全く聞いていないのであろう。榎本が「一体、なにがどうなっているんだよ?」と苛立った様子で問うた。
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