探偵残念 ―安楽樹は渋々推理する―

鬼霧宗作

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2.長い夜の始まり

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 それが聞こえたかは定かではないが、菱田が引き返して榎本に声をかけた。

「詳しいことは、あえてここでは言わない。ただ、榎本さんには同行してもらえるとありがたいかな。さすがに男が1人も残らないのはまずいから、細川さんは彼女達の側にいてやってくれ」

 安楽だけではなく、榎本まで連れて外に向かうようだ、なにがどうなっているのか説明してほしい。説明できない理由があるのだろうか。

「ねぇ、なにがあったの? 私達にも教えてよ」

 蘭の考えを代弁するかのごとく、英梨が菱田の背中に問う。再びエントランスのほうに戻ろうとしていた菱田は、振り向きもせずに呟いた。

「まだ断定はできない。断定はできないけど、多分――彼女は死んでると思う」

 言葉の最後のほうで、菱田がえずいたように見えた。断定できないというのはどういうことなのか。それはさておき、また殺人が起きてしまったというのだろうか。

「え? 死んでるって――」

 菱田の言葉の意味を改めて細川が問うたが、しかし菱田はそれには答えずエントランスのほうへと姿を消した。

「とにかく、指名されたみたいだから行ってくるよ。細川、なにがあるか分からないから、いざって時は女の子達を守ってやれよ」

 榎本の言葉に「あぁ、任せとけ――」と、細川は自信なさげに言った、体に反比例して気は小さいようだ。

 菱田達が外に出てからしばらく、風の音に混じって、ガラスが割れるような音がした。続いて安楽の情けない叫び声のようなものが響く。

 察するに、窓ガラスを外から割ったのであろう。鍵のかかった扉から、外の冷たい風が隙間風となって蘭の頬を撫でた。

 あちらでどんなやり取りがあったのかは不明であるが、しばらくすると中からツマミを回す音が聞こえた。カチャリと音がしたのちに扉が開き、榎本が姿を現す。榎本は、なぜか体で中を見せないようにガードしながら扉を閉めた。

「はっきり言っておく。君達は見ないほうがいい。正直、僕ですら精神的にきついんだ。絶対に見ないほうがいい」

 そう言う榎本の靴は、なぜか朱に染まっていた。他人の靴になんて気がいかないものだが、榎本のは白くて明るい色だったはずだ。

「いや、さっきからこそこそとなにを隠してるんだよ?」

 きっと、自分だけが残る羽目になってしまい、仲間はずれにされているように感じたのであろう。頑なに扉の前から動こうとしない榎本を引っぺがすようにしてどかす細川。ただ太いだけではなく、それに見合った力はあるようだ。

「――え? えっ?」
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