探偵残念 ―安楽樹は渋々推理する―

鬼霧宗作

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2.長い夜の始まり

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 あえて、どちらかの遺体の腹が裂かれ、臓物らしきものが床にぶちまけられていることは伏せたのであろう。おかげさまで、その光景を思い出した蘭の喉元まで、改めて酸っぱいものが込み上げてくる。

「しっかりと確かめたわけじゃないけど、僕が見た限り、部屋の中には彼女――リネン室で殺された神楽坂と、加能さんの死体があったと思うんだ」

 生首と目が合った蘭は断言できる。あれは、麗里と亜純の生首だった。英梨が口に両手を当て「そんな……亜純が殺されたっていうの?」と漏らす。その声は震えていた。

 これまで、何度か安楽と一緒に事件に巻き込まれてきた蘭だが、ここまでの衝撃は初めてだった。人の命に差はないのかもしれないが、その場で会ったばかりの人が殺害されるのと、これまで当たり前のように親しくしていた人が殺されるのとでは雲泥の差がある。面白半分で安楽を連れてきてしまったことを本当に後悔した。例えそれがジンクスに過ぎずとも責任を感じずにはいられない。

「みんな揃っているな。無事に中から鍵を開けられたみたいで良かった」

 外に向かった菱田と安楽が戻ってきた。榎本は菱田の姿を見ると溜め息をひとつ。

「あの、言っておきますが、医大生だからといって、遺体に対する耐性が強いわけではないので。血やらなんやらが飛び散ってるグロテスクな部屋に入って、中から鍵を開けろ――とか言い出すのは、これっきりにしてくださいよ」

 察するに、部屋の中に入るように指示したのも、榎本が中から鍵を開けたのも、菱田の指示があったからであろう。

「いや、神楽坂さんが死んでいるのを発見した時、誰よりも冷静に振る舞っていた印象が強くて。悪かったよ」

 部屋の中の様子は少し見ただけだが、きっと蘭の思っている以上に酷い有様なのであろう。

「おいおい、外側の窓には鍵がかかってたうえに、外から板を打ち付けられていたんだ」

 ふと、雨合羽も脱がずにぶつぶつと呟く安楽の言葉が耳に入ってきた。

「扉には内側から鍵がかかっていた。窓から出入りすることはできない。つまり……つまりだ。これは、密室殺人ってことになる」

 鍵のかかった扉、板が打ち付けられた板。確かに安楽の言う通り、これは密室殺人だった。

「これはいよいよ、それぞれの部屋で過ごすのも気を抜けないということになってきたな。とりあえずみんな食堂に集合しよう。今後の方針を相談しておきたい」

 菱田の一言で、凍りついていた現場が動き始める。いつもはずっとぶつぶつ呟くばかりの安楽が、蘭のもとにやってきて「大丈夫か?」と手を差し伸べてくれた。

「うん、ありがとう」

 安楽の手を借りて立ち上がると、安楽と共に食堂へと向かう。一同も菱田の指示で、食堂へと向かい始めていた。

「蘭、俺はもう一刻も早くこの島を出て帰りたいんだが、どうすればいいと思う?」

 安楽からの問いかけに、蘭はそれっぽく答える。

「そ、そりゃ、事件を解決すれば帰れるとは思うけど――」

 正直なところ、いくら事件を解決できたところで、帰りの船がなければ帰れない。しかも外は嵐で、いつから船を出せるようになるかは不明だった。でも、蘭はあえて嘘をついた。安楽のポテンシャルを引き出すために。

「嫌だなぁ。事件のことを探っているって犯人に悟られて殺されたらどうするんだよ。最初の事件の謎だって分かってねぇし、その上で密室殺人まで? いやいや、多分無理……多分無理だけど」

 蘭は確信した。これはいよいよ安楽のスイッチが入ったようだ。ならば、きっと彼の口から出るはずなのだ。実に頼りなく、しかしそれが事件解決へとつながる最初の一言。

「その、あくまでも無理しないように、できるだけ頑張る。で、解けたら解く」
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