探偵残念 ―安楽樹は渋々推理する―

鬼霧宗作

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3.深まる謎と疑惑

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 リネン室の中を眺めつつ、難しそうな顔をしていた榎本が、蘭の存在に気づいて振り向いた。彼の口ぶりからして、まだ英梨は戻っていないらしい。

「基本的にナチュラルメイクですから」

 少し冗談を交えながら榎本のところに向かう。神妙な面持ちの彼に「どうかしたんですか?」と問うた。

「いや、神楽坂の事件について、色々と考えていたんだ。あの時、僕達全員にアリバイがあったんだ。それなのに、神楽坂は殺されてしまった。だとしたら、誰が一体、どんな手段を使って神楽坂を殺したんだろうな――と思ってね。そこで、ある可能性にたどり着いたわけなんだが、それだと矛盾が生じるというか、あの時の自分の判断に自信がもてなくなってね」

 あの時の判断。それは、どのことを指すのか。蘭がなにも聞かずにいると、逆に榎本から意外な質問が飛んできた。

「御幸さんに聞きたいんだが、あの時――神楽坂は本当に死んでいたように見えたかい?」

 突拍子のない質問に思わず言葉を詰まらせる。それでも、当時のことを振り返ってみた。麗里が死んでいたか否か。それを判断したのは、こうして目の前にいる榎本ではないか。彼女は死んでいる――彼がそう言ったからこそ、自然と受け入れたのだが。

「少なくとも、遠目で見た感じだと死んでましたね。顔色も悪かったし」

 蘭の答えに「そう、僕もそこで先入観を持ってしまって、ある可能性を捨ててしまっていたんだ」と首を横に振ると続ける。

「あの時、僕は神楽坂の手首の脈を見て、死亡していると判断した。でも、腋窩えきか――俗に脇の下に何かを挟んで圧迫していれば、手首の脈が止まっているような見せかけることが可能なんだ」

 あぁ、そんなトリックをどこかで見たことがある。ただ、あまり推理小説を読んだりはしないから、おそらく漫画が――もしくはゲーム辺りで出てきたものだろうが。

「それってつまり――」

 榎本がたどり着いた可能性は、その話を聞いた時点で、うっすらと蘭の脳裏にも浮かび上がっていた。けれども、それを言葉にするのは怖くて、あえて榎本に問う形で言葉を区切った。

「いや、余計なことを言ってみんなを混乱させるわけにはいかない。このことは、今のところ僕の胸の内にだけ秘めておこう。ただ、僕の考えが万が一にも正しければ、第二の事件の密室も説明できてしまうんだけどね」

 榎本はそう言いつつ、事件そのものを封印するかのごとく扉を閉めた。そのタイミングを待っていたかのごとく、英梨が部屋から出てきた。蘭とは違い、いつも以上にばっちりと化粧をしている。
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