綾瀬海之

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入船

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 その日は晴れていたが寒かった。寒く澄んだ空気は岸壁で待つ他人の体に容赦なく空気の針を突き立てる。
そこにいる誰もが船を待っていた。船は遠いところから大小様々な荷物を載せてこの港までやって来る。
 以前あの船がこの港を発ってからはや3ヶ月ほど経っただろうか。
あの日乗組員と船を見送った家族も数ヶ月ぶりの再開を心待ちにしながら寒さに震えていた。
 その時、彼方から白いシルエットが見えた。響き渡る汽笛は彼らにとっては聴き慣れたものだった。それからまた長い時間をかけてゆっくり、ゆっくりと船は港に近付いた。
岸壁のすぐ近くをタグボートが船に向けて進んでいく。その小さな港の力持ちはあれほど全長の差のある船を押して移動させようというのだ。
そしてそれからも長い時間をかけて船は岸壁に近づいてゆく。船の上では人が顔の出して岸壁との距離を確認しつつ船橋に合図を送っている。
タグボートはその船体を船に押し付け岸壁へと船を押す。その煙突からは力強い黒煙が吐き出されていた。
 いよいよ係留索が岸壁に向かって出されてゆく。さっきまで合図を送っていた人がヒービングラインを投げた。先端の重りは物理の教科書に載るほどの綺麗な放物線を描いて陸に落ち跳ね返った。
 スルスルと係留索がビットにかけられてゆく。6本の係留索が無事全てかけられウインチで巻かれて張られてゆく。
 五分ほどしただろうか。船は無事着岸し荷揚げが開始された。クレーンで運び出されたコンテナは次々と積み上げられ、そして積み上げられたコンテナは一つ一つトラックに載せられ運ばれていく。
 こうした船による海上輸送は今やこの国の物流の大動脈だと言っても過言ではないだろう。周りをぐるりと海に囲まれたこの国はそうして生きてゆく他ならないのだ。その為に船は今日もゆく。この国が、人が生きていく為。
 貴方が今日一日食べたものを思い返してみてほしい。ほとんどが外国から輸入されたものだろう。これが現状、この国が見るべき現実だ。ではその食べ物を運んでくるのは何か? 船である。この国を支える為に船は今日もこの国の各地の港に大量の荷物を運んで入港してくる。
 この国と人々の希望を携えて。
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