お隣さん家の圭くんは

角井まる子

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お願いですからこっち見ないでください

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うちの学校には、いや、この青葉地区には、知らない人はいないと言われるほどの超有名一家がある。


その名も九条家。


名前からして高級感が漂っているように、一家全員が想像を絶する美形である。

その九条家の長男・圭(通称圭さま)が通うこの私立青葉学園高等学校には、生「圭さま」を見ようとするおっかけ女子が毎朝毎夕校門前に大量発生する。

「圭さま」ファンの熱心さはもはや宗教で、言動はすべて神格化されているようである。

どれほどかというと、たとえば今目の前で文化祭の催しの一発芸で鼻に割りばしを突っ込んでいても、誰もがうっとりと「圭さま素敵・・・」と頬を染めるぐらいである。


いやいや、誰か笑ってあげて。
そこはバラ色のため息を漏らすところじゃないから。
このコーナー「爆笑!!男子限定一発芸!」だから。
垂れ幕に似合わないピンクな空気に会場が一気に静かになる。


「・・・あれ、面白くなかった? けっこう頑張ったんだけどな」


「いえ!とても素敵でしたわ!」
「大変ユーモアに溢れておりました!」
「面白すぎて思わずため息が漏れてしまうほどです!」

などとお嬢様たちが上品に返答している。

「そっか! よかった! 」

にっこりとした笑顔に会場が黄色い悲鳴で溢れかえる。

ああ、司会の男子生徒よ憐れなり。
さらにこの後出番の男子生徒諸君。ご愁傷様です。


わたしは悲鳴から逃れるように舞台に背を向ける。
「広瀬さーん!」と呼ぶ声は聞こえなかったことにして、そのまま人波に溶け込むようにして会場を後にした。

だってわたしは「名無しの女子生徒」。

気配なんて消さなくても最初からありませんから。

存在感なさすぎて、クラスメイトにすら名前を忘れられる。
学食で注文してもオーダーを忘れられる。
ついでに担任でさえ、時々名前を間違える。


それなのに、いつも一人だけ、わたしを見つける厄介なやつが。


「麻実!麻実ってば!・・・あ、ごめん、学校じゃ広瀬さんだよね。ずっと呼んでいるのに無視するなんてひどいよ」

「・・・”圭さま”、わたしは目立ちたくないのです。あなたが側にいるだけで落ち着かないの。お願いだから学校では話しかけないでくださいって何度も言ってるでしょ」

「分かってるけど、無視しなくてもいいじゃん。麻実がこの前テレビ見て爆笑してたから、僕もやってみたんだけど、どうだった?面白かった?」

う、だから会場に呼ばれたのか。きらきらと無駄に華やかな笑顔に顔が引きつる。

「えーと・・・うん。まぁ。」

「ほんとにおもしろかったの?全然楽しそうじゃないけど」

そりゃそうでしょ今この現状で親し気にあなたと会話してたらわたしの立場が危ぶまれる。
目立たぬよう目立たぬよう気を付けてきたのに。元から目立たないけど。

「ちょっと今お腹いたくて!トイレ行きたいからごめんね!」

いつもの決め台詞ならぬ逃げ台詞を吐いて、女子トイレにダッシュする。


ふう。今日は文化祭で人が多いから、少しぐらい圭と接触してても大丈夫だろう。


わたしの平穏で静かな高校ライフのためのマイルールその1。
「圭とは3分以上会話しない」
5分ともなれば休み時間の半分だ。そんな長時間話していたら悪目立ちする。

マイルールその2。
「圭と接触する際は平静に」
騒がず、笑わず、かといって嫌な顔なんてしたらファンから「何あの子生意気な!」となるから難しい。

この2点を守り続けてはや2年。あと1年これを徹底すればわたしの高校生活は無事にやり過ごせる。はず。

頃合いを見て女子トイレから出てみたら、案の定他校のおっかけ女子らしき姿がちらほら。

「あれ、さっき圭さまに話しかけられてた子ってあの子だっけ?」
「違うんじゃない?もうちょっと小さくなかった?」
「どんな子だったっけ、全然記憶に残ってない」


ふふふ・・・今日も作戦通りである。

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