お隣さん家の圭くんは

角井まる子

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「…―み、麻美?大丈夫?」

ぼーっと歩いてたわたしは、気付けばどこかの椅子に座らされていた。
先ほどの圭の暴言と今後起こりうる自分への災禍について必死に考えているうちに、知らない部屋に連れてこられてたようだ。
ちゃっかり手を繋いで隣に座る圭を睨みつける。

「…ちょっと、どーゆーことなの」

手を振りほどいて拳を握り締める。
返答次第では顔面コースか鳩尾コースだ。
わたしが怒っているのを分かっているくせに、圭はにっこりとほほ笑む。

「僕も、もう自分に正直に生きようかなって思って」

「…は?」

「麻実のお願いだから今まで聞いてきたけど、高校生活ももうあと1年だし、最後くらいは麻実と一緒に学校で過ごしたいなぁって」

「…」

あまりの発言に言葉が出ない。
圭の言ってることの意味が分からない。
というか今までもなんだかんだで同じ学校だし、迷惑ながらもしょっちゅう声かけてくるしで、不本意ながらも割と一緒に過ごしていると言えるのでは?
そもそもなぜ一緒に過ごさなければならないのだ。
彼氏彼女じゃあるまいし。

「…いや、わたしは構わないで欲しいって言ってるんだけど」

「それはもう辞めた」

「はぁっ?!」

「今まで麻実の言う事、きちんと聞いてたでしょ?だから今度は僕の番。ね?」

嬉しそうに、それはそれは嬉しそうに頬を緩めて笑いかけてくる男が、麻美は心底怖かった。
圭の華やかで明るい雰囲気に、うっすらと不穏な空気が漂い始める。

「僕、結構長い事我慢したんだよ。もういいでしょ?」

ゾゾっと背すじが震える。
今度は、僕の番…?
それは、今までの恨み辛みを返してくるということだろうか。
目の前の男が、夢の中の男と被る。
混乱や怒りよりも、あの『怪物』が目の前にいるようで、ただただ恐怖しか感じなかった。

「…麻実?」

「い…や、いやだ。なんなの、もうしないって言ってるでしょ、許してよ!」

「麻実?どうしたの?」

心配そうに伸びてくる手から逃げるように後ずさる。
ドキドキと心臓の音が煩い。
夢じゃない、夢じゃないと分かっているのに、嫌な汗が出てくる。
圭が何を考えているのか、全く分からないからなおさら怖い。

「なんで?何を企んでるの?」

「何も企んでないよ。ただ僕が麻実と一緒にいたいってだけだよ。僕が君を傷つけるようなこと、するわけないでしょう?」

「嘘だっ!あんな…あんなことしたわたしを、本当は恨んでるんでしょ?許せるはずがないよね、わたしだってされたら許さないもの!」

「あんなことって?ああ…昔のこと、気にしてるの?ふふ、麻美は可愛いなぁ」

何かを思い出したように、目を細めて笑う。
その目元が、夢の中の圭と一瞬被って見えた。

「なんで笑うの?ごめんって言ってるじゃない、もう許してよ…もう、解放してよ…」

そう、わたしは解放されたかったんだ。

華やかな圭と圭の取り巻きを、いつも遠くから見せつけられて。
その度に自分の過去の過ちと暗い自己嫌悪に追い込まれ。
普通に友達を作ることすら、また『第二の圭』を作るのではと恐れ、ただただ下を向いて自分の存在を殺し続ける毎日。
本当はこんな性格じゃなかった。
わたしだって女の子の友達が欲しかった。
もう一度、やり直したいって何度も思った。
それなのに、圭が側にいる事でそれが出来なかった。

色んな思いがこみ上げて、視界がゆらゆらと揺らめく。

「麻実…ごめんね…。でも、僕はただ麻実の側に居たいだけなんだ」

「嘘でしょ?なんであんなことした相手にそんなこと言えるの?正気じゃない」

「正気じゃない…そうかもね。それでも一緒にいたいって気持ちは本当なんだ。本当に、それだけなんだ…」

「…信じられない」

「いいよ、ゆっくり信じてくれればいいから。…僕は本当に昔から、麻美のことが好きなんだよ」

教室で言われた言葉。
あえて触れないでいたのに、圭は二度目を言ってきた。
圭の真っ直ぐに向けてくる視線を、麻美は耐えきれずに逸らした。

…実は「好き」と言われるのは初めてではない。
それこそ虐めていた昔も、クラスが離れた小学校でも、中学校でも、そして高校でも。
何気ない会話の中で紛れ込ませるように言われてきた言葉。
麻実は正面から受け取らず、会話の流れに任せてスルーしてきた。
返答なんて一度もしたことないし、求められたことも無かった。
なんて答えたらいいのか、自分でも分からないから。
圭のその言葉に、無意識の内に感情を押し殺しているうちに、嬉しいのかどうかすらも、もう自分の心がどう感じているのかも分からなくなってしまった。

それなのに、こんなに心がざわついている中で真っ直ぐに投げかけられると、気付いてはいけない感情が揺り動かされているような気がして、麻美は必死に心を落ち着かせようとした。
怖いのだ。
受け入れて、裏切られて、傷つく自分の心が怖いから、気付きたくない。

だから、麻美は物理的に逃げることにした。

「――っ!?」

椅子から立ち上がって扉の方を振り向けば、見知らぬ男が冷めた表情でこっちを見ている。
視線が合ってすぐ、ああこの人も権力者の、それも上位の人間だなと思い知らされる圧倒的な存在感に、麻美の足は竦んだ。
ちらりと麻実を眺め、すぐに視線を後ろにいる圭に向けると、男はあきれたような声音で言った。

「…ここは、関係者以外立ち入り禁止なんだが?」






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みんなの感想(1件)

花咲
2022.03.28 花咲

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