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紅茶の香りと沈黙
12話 届かぬ願い
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それから、月日が流れた。
季節はすっかり巡り、別館の窓から見える木々も新たな芽吹きを迎えていた。
そして――ついに、その日が訪れた。
産婆や医師、補佐のメイドたちなど、何人もの人間が別館に集まっていた。
男のオメガの出産は、母体にも胎児にも大きな負担がかかる。
そのため、ルシアンの周囲にはこれまでにないほど多くの人がいた。
けれど、それでも――
ルシアンの胸の奥は、不安でいっぱいだった。
(この子は……無事に生まれてきてくれるのだろうか)
(私は……生きて、この子を抱けるのだろうか)
脂汗を浮かべながら、彼は必死に痛みに耐えていた。
幾度となく襲う陣痛に、握りしめたシーツが爪の跡で破れそうになるほど、全身がこわばる。
意識が飛びそうになるたび、歯を食いしばって叫び、涙を流し、血を吐くような苦しみに、心が折れそうになる。
――それでも。
(この子だけは……この子だけは、どうか無事で)
そう祈り続けて、数時間。
ついに、甲高い産声が部屋いっぱいに響きわたった。
「おめでとうございます、元気な……!」
その言葉を聞いた瞬間、ルシアンの全身から力が抜けていった。
(よかった……)
唇が震え、頬に一筋の涙が伝った――その直後。
彼の身体はふっと沈むように力を失い、意識が闇へと沈んでいく。
「ルシアン様!?」「意識が――!」
誰かの叫ぶ声が遠くなっていく。
嬉しさと安堵の中で、ルシアンは静かに気を失った。
***
目を開けると、天井がにじんでいた。
ぼんやりとした視界のなか、息を吸うたびに肺がきしむような痛みがあった。
枕元には、セシリアが静かに座っていた。
「……赤ちゃん……」
かすれた声が喉からこぼれた。
それは、息というよりも“願い”だった。
「……私の赤ちゃんは……」
震える手をシーツの上に伸ばしながら、ルシアンは必死に声を絞り出した。
だが――
セシリアは無表情のまま、静かに、言葉を落とした。
「……お子様には、会わせられないと……そう、ご命令です」
その一言で、世界が音を立てて崩れた。
「……そんな……っ」
胸が軋む。息が詰まり、心臓を掴まれたような痛みが走る。
(私は――あんなに痛みに耐えて、この命を産んだのに)
(この手で、抱きしめたかったのに……名前を、呼びたかったのに……)
「なぜ……どうして……っ……!」
シーツを握りしめながら、ルシアンは嗚咽を押し殺し、涙をこぼした。
頬を伝う涙は止まらず、静かに枕を濡らしていく。
セシリアは何も言わなかった。
ただ、淡々と何も言わずに、部屋を後にする。
――レオニスは、来なかった。
産んでも、会いにも来なかった。
この命が、どれだけの祈りと痛みの果てに生まれたかなど、何も知らないままに。
ルシアンは、ひとり。
ベッドの上で、静かに、静かに泣き続けた。
季節はすっかり巡り、別館の窓から見える木々も新たな芽吹きを迎えていた。
そして――ついに、その日が訪れた。
産婆や医師、補佐のメイドたちなど、何人もの人間が別館に集まっていた。
男のオメガの出産は、母体にも胎児にも大きな負担がかかる。
そのため、ルシアンの周囲にはこれまでにないほど多くの人がいた。
けれど、それでも――
ルシアンの胸の奥は、不安でいっぱいだった。
(この子は……無事に生まれてきてくれるのだろうか)
(私は……生きて、この子を抱けるのだろうか)
脂汗を浮かべながら、彼は必死に痛みに耐えていた。
幾度となく襲う陣痛に、握りしめたシーツが爪の跡で破れそうになるほど、全身がこわばる。
意識が飛びそうになるたび、歯を食いしばって叫び、涙を流し、血を吐くような苦しみに、心が折れそうになる。
――それでも。
(この子だけは……この子だけは、どうか無事で)
そう祈り続けて、数時間。
ついに、甲高い産声が部屋いっぱいに響きわたった。
「おめでとうございます、元気な……!」
その言葉を聞いた瞬間、ルシアンの全身から力が抜けていった。
(よかった……)
唇が震え、頬に一筋の涙が伝った――その直後。
彼の身体はふっと沈むように力を失い、意識が闇へと沈んでいく。
「ルシアン様!?」「意識が――!」
誰かの叫ぶ声が遠くなっていく。
嬉しさと安堵の中で、ルシアンは静かに気を失った。
***
目を開けると、天井がにじんでいた。
ぼんやりとした視界のなか、息を吸うたびに肺がきしむような痛みがあった。
枕元には、セシリアが静かに座っていた。
「……赤ちゃん……」
かすれた声が喉からこぼれた。
それは、息というよりも“願い”だった。
「……私の赤ちゃんは……」
震える手をシーツの上に伸ばしながら、ルシアンは必死に声を絞り出した。
だが――
セシリアは無表情のまま、静かに、言葉を落とした。
「……お子様には、会わせられないと……そう、ご命令です」
その一言で、世界が音を立てて崩れた。
「……そんな……っ」
胸が軋む。息が詰まり、心臓を掴まれたような痛みが走る。
(私は――あんなに痛みに耐えて、この命を産んだのに)
(この手で、抱きしめたかったのに……名前を、呼びたかったのに……)
「なぜ……どうして……っ……!」
シーツを握りしめながら、ルシアンは嗚咽を押し殺し、涙をこぼした。
頬を伝う涙は止まらず、静かに枕を濡らしていく。
セシリアは何も言わなかった。
ただ、淡々と何も言わずに、部屋を後にする。
――レオニスは、来なかった。
産んでも、会いにも来なかった。
この命が、どれだけの祈りと痛みの果てに生まれたかなど、何も知らないままに。
ルシアンは、ひとり。
ベッドの上で、静かに、静かに泣き続けた。
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