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大精霊・ヴァレアル
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フェリックたちはトアイトンの迷宮を出てから、ギルテリッジの武具屋へと向かい、既に武具屋へとたどり着いていた。
剥ぎ取ったヴリトラの素材を禿頭のおじさんに渡すと、渡されたおじさんは目を見開いて驚いた。
「これは!ヴリトラの皮や爪じゃないか! 君たち、どこでヴリトラを狩ったんだい?」
問われると、それにはフェリックが答えた。
「すぐそこのトアイトンの迷宮です。下層に行ったらいきなりこいつが現れてもう大変でしたよ」
「だろうねぇ。なんせSランクの魔獣だからね」
「これで武器や防具は作れるのだな?」
カレンが訊ねると、おじさんは深く頷いた。
「ああ、もちろんだよ。おじさん張り切っちゃおうかな! 総力を上げて明日には完成させるから取りに来てね」
そう言うと、おじさんはなぜか嬉しそうにヴリトラの素材を持ちながら、奥にいた人たちに声をかけ作業を始めた。
「よかったですね! これでさらに強くなれますよ!」
「そうだねー! フェリックも精霊石だっけ? それに触って精霊使えるようになったし、めっちゃ強いじゃん!」
「めちゃ強なのだー!」
みな一同に喜びを分かち合う。
これもパーティーで魔獣を倒した際の醍醐味なのかもしれないと思ったフェリックであった。
「さてフェリック殿。装備発注も済んだことだ。ここでひとつ提案があるのだがいいか?」
「ん? なんだ?」
「リーダーを交代してくれ」
「え?」
カレンの言うことに思わず聞き返すフェリック。
「だから、リーダーを交代してくれと言ったのだ」
「間違いじゃなかった!」
今このパーティーはカレンがリーダーを務めている。そのリーダーを、カレンからフェリックに交代するという提案だった。
「でもいきなりなんでだ? カレンの方がリーダーは適役だろ?」
フェリックが言うと、カレンは首を横に振った。
「私の中では、リーダーは一番強い人がやるということになっている。精霊を扱えるようになったフェリック殿はこのパーティーではもう一番強いのだよ」
「ま、まじかよ⋯⋯」
正直フェリックは自分がリーダーをやっていく自信がなかった。
リーダーはパーティー全員に的確な指示を下さなければいけない。もしフェリックが扱う精霊より強い魔獣が出てきた場合、フェリックは的確な指示が送れるだろうか、そんな心配ばかりしていた。
「あのあの、そんな心配しなくても大丈夫だと思いますよ!」
と、そんなことを考えているとローレインから声がかかった。
「私たちパーティーはみんなで分担して仕事をしていこうと考えているんです! なのでリーダーばかりに押し付けるようなことはしません!」
「そうだよフェリック! 私たちも協力するから!」
「頑張るのだ!」
「みんな⋯⋯」
パーティー全員の励ましがフェリックの背中を押した。
「わかった。俺、リーダーやるよ」
「はっはっは! そうこなくっちゃな! フェリック殿!」
「痛い痛い」
カレンに強めに背中を叩かれ、苦笑するフェリック。
みな能力は中途半端だが、それぞれちゃんとした個性を持っていてそれなりに強い。フェリックは握りこぶしをそっと作った。
「じゃあフェリック殿。最初の指示をお願いする」
「あ、ああ。そうだな」
フェリックは少しの逡巡の後、少し大きめな声で言った。
「よーし! 今日はSランクの魔獣も倒したことだし、パーっとやるか!」
「乗ったぞフェリック殿!」
「パーっとやりましょう!」
「たくさん食べるぞー!」
「お腹空いたのだー!」
一同それぞれ反応を示し、新たにフェリックを中心としたパーティーは酒場へと向かった。
△▼△
「いやー腹が破裂しそう⋯⋯」
オレンジ色の空もだんだんと暗さを増していった頃、フェリックたちは宴を終え、それぞれが宿で休憩をしていた。みな食べ過ぎ飲み過ぎで調子を落としていた。
「⋯⋯なぁフェリック殿? もう一度だけ精霊を出してみてくれないか?」
「な、なんだよカレン。ちょ、顔が近い!」
酔っているせいか、カレンがフェリックの上に覆い被さるようにして、耳元でそんなことを呟いた。
「⋯⋯いいだろう? 一度でいいんだ」
「わ、わかったよ。出すからどいてくれ」
そう言うとカレンは素直にフェリックの上からベッドの上へと座った。
精霊を出す羽目になったフェリックは、重たい身体にムチを打ち皆から離れ、意識を再度集中させた。
すると、空中にポンっと軽快な音を出し、何かが出現した。しかし、煙のようなものに包まれ、姿が見えない。
「ん⋯⋯? なんだこれ?」
フェリックが顔を近づける。すると突然その物体が声のような物を発した。
「うわ! なんだこいつ!?」
「ボクちんのことー?」
『⋯⋯え?』
一同の声が重なる。それも仕方あるまい。その煙の中から現れたのは、白と赤の毛をしたふわふわと浮遊する小さな丸い生き物だったのだから。
△▼△
「今·····喋ったのって·····」
フェリックが後ずさりながら言う。もちろん他のメンバーも身構えたり目を丸くしたりそれぞれの反応をしている。
白と赤の毛に少し長めの黒いしっぽ。そしてクリクリとした目。どう見ても怪しい生き物である。
「ボクちんだよー?ボ・ク・ち・ん」
「聞き間違いじゃなかった!」
フェリックが驚嘆の声を上げる。
一方で、女性組はまじまじとその生き物を眺める。
「·····一体なんなのだ?この怪しい生き物は·····」
「·····ですです。いきなり現れましたけど·····」
「·····何この生き物」
「·····うーっ。怖いのだ~·····」
「~~~もうっ!みんなしてなんなのさ!」
痺れを切らした様子の生き物が頬を膨らませ、そう叫ぶ。
「ボクちんがせっかく出てきたっていうのに怪しいとか不思議とか!ボクちん怒った!」
そう言って腕組みしながらそっぽを向く生き物。
フェリック達は顔を見合わせ、意思疎通したように頷いた。そしてフェリックが口を開く。
「あのー、ちょっといいか?」
「なにさ」
生き物がそっぽを向きながらも返事をする。
「お前の名前を教えてくれないかな?」
「ボクちんの名前?」
「そうだ、あるだろ?名前」
フェリックが言うと、生き物はしばらく考える様子を見せ、ひと言。
「ヴァレアル」
「ヴァレアル·····それがお前の名前か?」
フェリックが言うと、ヴァレアルはこくんと頷いた。
「ヴァレアル·····、ああ、やはりそうか」
カレンが神妙な顔つきで頷く。
「何か心当たりがあるのか?」
「ああ。本で読んだことがあるんだ。四大精霊――リアレアル、アムニエル、アルカエル·····そして、ヴァレアル。その中でもヴァレアルという精霊は二番目に強いと言われている」
「つまりこいつは·····」
フェリックが察した様子に、カレンが「ああ」と頷きを返す。
「四大精霊の一精霊、ヴァレアルということになる」
「まじかよ·····」
フェリックは思わず苦笑してしまう。
四大精霊のうちの一精霊が自分の身に宿っている。そして、四大精霊のうちでも二番目に強い。そう考えただけで、鳥肌が止まらなかった。
「ボクちんのこと、やっとわかったみたいだね」
「·····ああ、正直驚きだ。精霊を身に宿すだけじゃなく、こうしてお前と話せてるんだからな」
「そういえば、ボクちんまだキミ達の名前聞いてないんだけど」
「あ、ああ。そうだったな。俺はフェリックだ。このパーティーのリーダーを務めてる」
フェリックが自己紹介すると、ヴァレアルは「ふ~ん」と鼻を鳴らした。
「フェリックねー。キミがボクちんのパートナーかー」
「·····なにかあるのか?」
「いや?別に?」
そう言うヴァレアルの顔は絶対に何かあるような顔だった。内心「こいつ·····」と思うフェリックである。
「それで?そこの女の子達は?」
「まず私からいこうか。私の名はカレンだ。このパーティーの元リーダーだ」
「カレンちゃんね。よろしく。次」
「ちょっと待った!」
フェリックが思わずストップを入れる。
「ん?どうしたの?」
「お前!カレンの時は『よろしく』って言葉入れて、なんでパートナーである俺の時にはその言葉がないんだよ!」
フェリックが思いを全て吐き出す。
「えー?別にいいじゃんー」
「この野郎·····」
喉元まで出かかった思いを、すんでのところで飲み込む。
「じゃあ、フェリックもよろしく」
「·····ああ、よろしく」
なんということでしょう。
パートナーであるフェリックとヴァレアルの仲がもう険悪です。
「それで、次は誰が自己紹介してくれるの?」
「私なのだ!」
ヴァレアルに促され、出てきたのはエリアンだった。
「私はエリアンなのだ!精霊さん、よろしくなのだ!」
エリアンが自己紹介すると、ヴァレアルはその場からすごいスピードでエリアンまで接近した。
「よろしくねーエリアンちゃん!キミは何歳なの!?好きな食べ物は何!?好きなタイプは――」
「ロリコンかよ!!」
フェリックが激しくツッコむ。
どうやらヴァレアルはロリコンのようだった。今だってエリアンの肩に乗って恍惚そうな顔をしている。
「ボクちんはロリコンじゃない!ただ小さい子が好きなだけ!」
「そういうのをロリコンっていうんだろうが!」
「まぁまぁいいじゃないかフェリック殿」
カレンが楽しい物を見る目で仲裁に入る。
おそらくカレンはフェリックとヴァレアルが言い合いしているのを楽しいんでいる。
「それで次はキミかな?」
ヴァレアルはローレインに向かってそう言った。
「はい!あのあの、私の名前はローレインです!よろしくお願いします!」
「ローレインちゃんね。よろしく」
挨拶をし終わってから、ヴァレアルは「じゃあ次はボクちんだね」と言って自己紹介を始めようとした所をフェリックに止められた。
「お前!一人忘れてるだろ!」
一人というのはシャロリンのことだろう。隅に座って何やらブツブツと言っている。
そんなシャロリンを見てヴァレアルは言った。
「えー、だってあのコ明らかにヤバいコじゃん」
「お前な!」
「·····いいんだよフェリック」
と、隅からフェリックに向かってシャロリンが仲裁に入る。
「·····私なんて自己紹介する時に存在を忘れられて飛ばされる、所詮そんな人間だから」
「ほら!お前のせいでああなっちまったじゃないか!」
「えー、ボクちんに言われても」
「フェリック殿、シャロリンなら大丈夫だ」
カレンの静止をもらい昨日言われたことを思い出した。
シャロリンは夜になると鬱状態になる。つまり、昼は溌剌とした少女になるため、放っておけばいいと。
「·····わかった」
フェリックはカレンが静止を受け止め、身を引いた。
「じゃあ改めてボクちんから。ボクちんはヴァレアル。四大精霊のうちの一人なんだ、よろしくね」
ヴァレアルが言い終わると各々が挨拶をする。が、その中でも雑な対応をされたフェリックはかなりご立腹のようだった。
それからフェリックは達は、ヴァレアルを入れしばらく雑談を交わしていた。そんな時、ヴァレアルがふと思ったことを口に出した。
「ねぇ、ボクちんお腹空いたんだけど」
「困ったな。私達はついさっきたらふく食べたばかりなのだが」
「えー。じゃあ食べ物ないってことー?」
ヴァレアルが不満そうな声音で言うと、それに対しフェリックが皮肉を込めて言った。
「精霊でも食欲はあるんだな。残念だったな。もう少し早く出てきてれば食えたかもしれないのに」
「む~っ。キミ性格悪いね」
「悪かったな!性格悪くて!」
「すみませんヴァレアルさん。今日は我慢していただけませんか?」
ローレインが言葉をかけると、ヴァレアルは「しょうがないなぁ」と言って身を引いた。
フェリックはヴァレアルに気づかれないよう小さな声でローレインに耳打ちする。
「·····ナイスだローレイン。よくあいつを黙らせてくれた」
「·····いえいえ。思ったことを言っただけですから」
それからしばらく雑談は続き、カレンが立ち上がり言った。
「さて、今日はもう寝るとしよう。フェリック殿は相変わらず床で寝るのか?今日は交代してもいいが」
「いや大丈夫だ。女性を床で寝させるなんてことはできないからな」
「ふむ。フェリック殿は紳士だな。お言葉に甘えて今日もベッドで休ませてもらおう」
そう言ってカレンはベッドに入り、しばらくして静かに眠りについたようだった。
他のメンバーもカレンが寝始めてからすぐに横になり、眠りについた。
「俺も寝るか」
全員が眠るのを見守っていたフェリックは言うと、床に身体を横たえた。月明かりが照らし、床だが快眠ができそうな程心地よかった。
それからフェリックも眠りにつき、全員が眠りについた。
剥ぎ取ったヴリトラの素材を禿頭のおじさんに渡すと、渡されたおじさんは目を見開いて驚いた。
「これは!ヴリトラの皮や爪じゃないか! 君たち、どこでヴリトラを狩ったんだい?」
問われると、それにはフェリックが答えた。
「すぐそこのトアイトンの迷宮です。下層に行ったらいきなりこいつが現れてもう大変でしたよ」
「だろうねぇ。なんせSランクの魔獣だからね」
「これで武器や防具は作れるのだな?」
カレンが訊ねると、おじさんは深く頷いた。
「ああ、もちろんだよ。おじさん張り切っちゃおうかな! 総力を上げて明日には完成させるから取りに来てね」
そう言うと、おじさんはなぜか嬉しそうにヴリトラの素材を持ちながら、奥にいた人たちに声をかけ作業を始めた。
「よかったですね! これでさらに強くなれますよ!」
「そうだねー! フェリックも精霊石だっけ? それに触って精霊使えるようになったし、めっちゃ強いじゃん!」
「めちゃ強なのだー!」
みな一同に喜びを分かち合う。
これもパーティーで魔獣を倒した際の醍醐味なのかもしれないと思ったフェリックであった。
「さてフェリック殿。装備発注も済んだことだ。ここでひとつ提案があるのだがいいか?」
「ん? なんだ?」
「リーダーを交代してくれ」
「え?」
カレンの言うことに思わず聞き返すフェリック。
「だから、リーダーを交代してくれと言ったのだ」
「間違いじゃなかった!」
今このパーティーはカレンがリーダーを務めている。そのリーダーを、カレンからフェリックに交代するという提案だった。
「でもいきなりなんでだ? カレンの方がリーダーは適役だろ?」
フェリックが言うと、カレンは首を横に振った。
「私の中では、リーダーは一番強い人がやるということになっている。精霊を扱えるようになったフェリック殿はこのパーティーではもう一番強いのだよ」
「ま、まじかよ⋯⋯」
正直フェリックは自分がリーダーをやっていく自信がなかった。
リーダーはパーティー全員に的確な指示を下さなければいけない。もしフェリックが扱う精霊より強い魔獣が出てきた場合、フェリックは的確な指示が送れるだろうか、そんな心配ばかりしていた。
「あのあの、そんな心配しなくても大丈夫だと思いますよ!」
と、そんなことを考えているとローレインから声がかかった。
「私たちパーティーはみんなで分担して仕事をしていこうと考えているんです! なのでリーダーばかりに押し付けるようなことはしません!」
「そうだよフェリック! 私たちも協力するから!」
「頑張るのだ!」
「みんな⋯⋯」
パーティー全員の励ましがフェリックの背中を押した。
「わかった。俺、リーダーやるよ」
「はっはっは! そうこなくっちゃな! フェリック殿!」
「痛い痛い」
カレンに強めに背中を叩かれ、苦笑するフェリック。
みな能力は中途半端だが、それぞれちゃんとした個性を持っていてそれなりに強い。フェリックは握りこぶしをそっと作った。
「じゃあフェリック殿。最初の指示をお願いする」
「あ、ああ。そうだな」
フェリックは少しの逡巡の後、少し大きめな声で言った。
「よーし! 今日はSランクの魔獣も倒したことだし、パーっとやるか!」
「乗ったぞフェリック殿!」
「パーっとやりましょう!」
「たくさん食べるぞー!」
「お腹空いたのだー!」
一同それぞれ反応を示し、新たにフェリックを中心としたパーティーは酒場へと向かった。
△▼△
「いやー腹が破裂しそう⋯⋯」
オレンジ色の空もだんだんと暗さを増していった頃、フェリックたちは宴を終え、それぞれが宿で休憩をしていた。みな食べ過ぎ飲み過ぎで調子を落としていた。
「⋯⋯なぁフェリック殿? もう一度だけ精霊を出してみてくれないか?」
「な、なんだよカレン。ちょ、顔が近い!」
酔っているせいか、カレンがフェリックの上に覆い被さるようにして、耳元でそんなことを呟いた。
「⋯⋯いいだろう? 一度でいいんだ」
「わ、わかったよ。出すからどいてくれ」
そう言うとカレンは素直にフェリックの上からベッドの上へと座った。
精霊を出す羽目になったフェリックは、重たい身体にムチを打ち皆から離れ、意識を再度集中させた。
すると、空中にポンっと軽快な音を出し、何かが出現した。しかし、煙のようなものに包まれ、姿が見えない。
「ん⋯⋯? なんだこれ?」
フェリックが顔を近づける。すると突然その物体が声のような物を発した。
「うわ! なんだこいつ!?」
「ボクちんのことー?」
『⋯⋯え?』
一同の声が重なる。それも仕方あるまい。その煙の中から現れたのは、白と赤の毛をしたふわふわと浮遊する小さな丸い生き物だったのだから。
△▼△
「今·····喋ったのって·····」
フェリックが後ずさりながら言う。もちろん他のメンバーも身構えたり目を丸くしたりそれぞれの反応をしている。
白と赤の毛に少し長めの黒いしっぽ。そしてクリクリとした目。どう見ても怪しい生き物である。
「ボクちんだよー?ボ・ク・ち・ん」
「聞き間違いじゃなかった!」
フェリックが驚嘆の声を上げる。
一方で、女性組はまじまじとその生き物を眺める。
「·····一体なんなのだ?この怪しい生き物は·····」
「·····ですです。いきなり現れましたけど·····」
「·····何この生き物」
「·····うーっ。怖いのだ~·····」
「~~~もうっ!みんなしてなんなのさ!」
痺れを切らした様子の生き物が頬を膨らませ、そう叫ぶ。
「ボクちんがせっかく出てきたっていうのに怪しいとか不思議とか!ボクちん怒った!」
そう言って腕組みしながらそっぽを向く生き物。
フェリック達は顔を見合わせ、意思疎通したように頷いた。そしてフェリックが口を開く。
「あのー、ちょっといいか?」
「なにさ」
生き物がそっぽを向きながらも返事をする。
「お前の名前を教えてくれないかな?」
「ボクちんの名前?」
「そうだ、あるだろ?名前」
フェリックが言うと、生き物はしばらく考える様子を見せ、ひと言。
「ヴァレアル」
「ヴァレアル·····それがお前の名前か?」
フェリックが言うと、ヴァレアルはこくんと頷いた。
「ヴァレアル·····、ああ、やはりそうか」
カレンが神妙な顔つきで頷く。
「何か心当たりがあるのか?」
「ああ。本で読んだことがあるんだ。四大精霊――リアレアル、アムニエル、アルカエル·····そして、ヴァレアル。その中でもヴァレアルという精霊は二番目に強いと言われている」
「つまりこいつは·····」
フェリックが察した様子に、カレンが「ああ」と頷きを返す。
「四大精霊の一精霊、ヴァレアルということになる」
「まじかよ·····」
フェリックは思わず苦笑してしまう。
四大精霊のうちの一精霊が自分の身に宿っている。そして、四大精霊のうちでも二番目に強い。そう考えただけで、鳥肌が止まらなかった。
「ボクちんのこと、やっとわかったみたいだね」
「·····ああ、正直驚きだ。精霊を身に宿すだけじゃなく、こうしてお前と話せてるんだからな」
「そういえば、ボクちんまだキミ達の名前聞いてないんだけど」
「あ、ああ。そうだったな。俺はフェリックだ。このパーティーのリーダーを務めてる」
フェリックが自己紹介すると、ヴァレアルは「ふ~ん」と鼻を鳴らした。
「フェリックねー。キミがボクちんのパートナーかー」
「·····なにかあるのか?」
「いや?別に?」
そう言うヴァレアルの顔は絶対に何かあるような顔だった。内心「こいつ·····」と思うフェリックである。
「それで?そこの女の子達は?」
「まず私からいこうか。私の名はカレンだ。このパーティーの元リーダーだ」
「カレンちゃんね。よろしく。次」
「ちょっと待った!」
フェリックが思わずストップを入れる。
「ん?どうしたの?」
「お前!カレンの時は『よろしく』って言葉入れて、なんでパートナーである俺の時にはその言葉がないんだよ!」
フェリックが思いを全て吐き出す。
「えー?別にいいじゃんー」
「この野郎·····」
喉元まで出かかった思いを、すんでのところで飲み込む。
「じゃあ、フェリックもよろしく」
「·····ああ、よろしく」
なんということでしょう。
パートナーであるフェリックとヴァレアルの仲がもう険悪です。
「それで、次は誰が自己紹介してくれるの?」
「私なのだ!」
ヴァレアルに促され、出てきたのはエリアンだった。
「私はエリアンなのだ!精霊さん、よろしくなのだ!」
エリアンが自己紹介すると、ヴァレアルはその場からすごいスピードでエリアンまで接近した。
「よろしくねーエリアンちゃん!キミは何歳なの!?好きな食べ物は何!?好きなタイプは――」
「ロリコンかよ!!」
フェリックが激しくツッコむ。
どうやらヴァレアルはロリコンのようだった。今だってエリアンの肩に乗って恍惚そうな顔をしている。
「ボクちんはロリコンじゃない!ただ小さい子が好きなだけ!」
「そういうのをロリコンっていうんだろうが!」
「まぁまぁいいじゃないかフェリック殿」
カレンが楽しい物を見る目で仲裁に入る。
おそらくカレンはフェリックとヴァレアルが言い合いしているのを楽しいんでいる。
「それで次はキミかな?」
ヴァレアルはローレインに向かってそう言った。
「はい!あのあの、私の名前はローレインです!よろしくお願いします!」
「ローレインちゃんね。よろしく」
挨拶をし終わってから、ヴァレアルは「じゃあ次はボクちんだね」と言って自己紹介を始めようとした所をフェリックに止められた。
「お前!一人忘れてるだろ!」
一人というのはシャロリンのことだろう。隅に座って何やらブツブツと言っている。
そんなシャロリンを見てヴァレアルは言った。
「えー、だってあのコ明らかにヤバいコじゃん」
「お前な!」
「·····いいんだよフェリック」
と、隅からフェリックに向かってシャロリンが仲裁に入る。
「·····私なんて自己紹介する時に存在を忘れられて飛ばされる、所詮そんな人間だから」
「ほら!お前のせいでああなっちまったじゃないか!」
「えー、ボクちんに言われても」
「フェリック殿、シャロリンなら大丈夫だ」
カレンの静止をもらい昨日言われたことを思い出した。
シャロリンは夜になると鬱状態になる。つまり、昼は溌剌とした少女になるため、放っておけばいいと。
「·····わかった」
フェリックはカレンが静止を受け止め、身を引いた。
「じゃあ改めてボクちんから。ボクちんはヴァレアル。四大精霊のうちの一人なんだ、よろしくね」
ヴァレアルが言い終わると各々が挨拶をする。が、その中でも雑な対応をされたフェリックはかなりご立腹のようだった。
それからフェリックは達は、ヴァレアルを入れしばらく雑談を交わしていた。そんな時、ヴァレアルがふと思ったことを口に出した。
「ねぇ、ボクちんお腹空いたんだけど」
「困ったな。私達はついさっきたらふく食べたばかりなのだが」
「えー。じゃあ食べ物ないってことー?」
ヴァレアルが不満そうな声音で言うと、それに対しフェリックが皮肉を込めて言った。
「精霊でも食欲はあるんだな。残念だったな。もう少し早く出てきてれば食えたかもしれないのに」
「む~っ。キミ性格悪いね」
「悪かったな!性格悪くて!」
「すみませんヴァレアルさん。今日は我慢していただけませんか?」
ローレインが言葉をかけると、ヴァレアルは「しょうがないなぁ」と言って身を引いた。
フェリックはヴァレアルに気づかれないよう小さな声でローレインに耳打ちする。
「·····ナイスだローレイン。よくあいつを黙らせてくれた」
「·····いえいえ。思ったことを言っただけですから」
それからしばらく雑談は続き、カレンが立ち上がり言った。
「さて、今日はもう寝るとしよう。フェリック殿は相変わらず床で寝るのか?今日は交代してもいいが」
「いや大丈夫だ。女性を床で寝させるなんてことはできないからな」
「ふむ。フェリック殿は紳士だな。お言葉に甘えて今日もベッドで休ませてもらおう」
そう言ってカレンはベッドに入り、しばらくして静かに眠りについたようだった。
他のメンバーもカレンが寝始めてからすぐに横になり、眠りについた。
「俺も寝るか」
全員が眠るのを見守っていたフェリックは言うと、床に身体を横たえた。月明かりが照らし、床だが快眠ができそうな程心地よかった。
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投稿する気がないなら作品投稿辞めろ💢😠💢読んでくれる人が一人ぐらいいるかもしれないが何ヵ月も投稿されないって判れば人は離れていくのは当たり前なんだよ💢😠💢体調が悪いならその事もきちんと言うとかしなさい‼️このコメントを読んで何かしら思うところがあればいいな‼️何も思わないなら投稿者向かないわ‼️俺からの忠告して応援してます‼️