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「大好きになっちゃったかも」
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しおりを挟む「ベタだねえ~だいたいその長身超絶イケメンの理想的な男の人ってどんな人なのよ。なんか全部がポヤッとしてて分かりづらいんだけど」
美里は手の平を上にむけて、肩をすくめる。
「では説明しましょう」
胸ポケットからメモ帳とペンを取り出して、かちかちとペンの尻を押す。
「まず身長は180センチ以上。がりがりってわけでもなく、マッチョってわけでもなく、まあ中肉中背な感じだね。そんでもって、髪はちゃらちゃら染めたりしないの。ちゃんと清潔な黒。顔はね、眉とかキリリッとしてて、目は切れ長でえー、ちょっと近寄りがたい雰囲気があってー……」
『あれ……?』
美里と声が重なる。私が描いたへたくそな理想の男性像をしばし見下ろし、それから顔を見合わせた。
「主任じゃん」
「主任だね……」
美里の言葉に、私は思わず同意する。
「いや…違う違う!この人はドエムじゃないもん!」
ぱんぱん!とノートを叩いて見せ付ける。
「そっかードエムでさえなければ、主任は詩絵子の好みドンピシャなんだねえ」
「違うっての。もっと色々と……」
「色々と?」
私は少し考えた。主任からドエム要素を抜いた姿を、出来る限り鮮明に想像しようとしてみた。
つまりは、普段の主任だ。なかなかに……というか、かなり理想的ではあるのだけど。
でもいくら想像してみても、現実でドエム要素が取り除かれることはない。ドエムと向井帝人という人間は、瞬間接着剤よりも強力な絆で結び付けられているのだ。
「はあ~。いっそのことくたばってくんないかなあ、あいつ」
階段を下りながら、溜め息をつく。
「なんてこと言ってんのよ、あんたは」
「だってさ、だってだよ?付き合っていく自信ないもん。でも別れちゃったら、いたいけな少女に手を出しちゃうかもしんないじゃん?」
「……まあ」
「どっちにしろ犠牲が出るんだよ。もうあいつがくたばるしか選択肢はないよ~」
「誰にくたばって欲しいって?」
「!!!」
私と美里は、唐突に氷の手で背中を撫でられた人みたいに、小さく身体を跳ねて、後ろを振り返った。見なくても誰が立って居るかは、なんとなく、というか、はっきりと分かっていたのだけど。
もちろんそこには、髪型といいスーツといい、隙のない身なりでこちらを見下ろす主任が立っていた。
前と同じ展開じゃん!学習しろよわたし!
たぶん、話はまるごと全部聞かれたんだろうなあ……。くたばれ辺りから。返答もなく硬直する私に、主任は軽く笑って見せた。
「くたばれって、はは。冗談でもいうもんじゃねえぞ」
ぽんぽん。主任は私の肩を軽く叩いて、すぐに通りすぎて行ってしまった。主任の大きな背中を見送ってから、私と美里は顔を見合わせる。
「もしかして主任、落ち込んだ……?あんたのくたばれ発言で」
美里は神妙な顔を見せる。同じことを感じていた私は、ぎくりとして顔を逸らした。
「そんなバカな……。ドエムだよ?くたばれなんて言われたら、大喜びで小躍りするに決まってるよ。あはは……」
「かわいそうになあ。いくらドエムだからって、最愛の人からくたばれなんて言われれば、さすがにへこむよねえ。もう根っから存在を否定してるもんね。いくらなんでも、言って良いことと悪いことってもんがあるんじゃないのかしら」
美里はいつになく真面目なトーンで話す。あんた、『かしら』なんて言う口調だったかしら?
口調はなんとなくうそ臭いが、美里の言っていることは一理ある。
いくら主任がドエムといえど、私のこと大好きだろうし、これ以上ない理想のロリ女王様なんだろうし、さすがに傷つけてしまっただろうか。
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