ドМ彼氏。

秋月 みろく

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「お望みでしたら、なんなりと」

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「ええっ!?なんで知ってんの!?」


「この間お前がやってんの見てたから」



 マジ!?こいつが泥棒とかしちゃったら、私にも軽く責任あるじゃん!


 衝撃を受ける私をよそに、チビ朔はドアを開けて中へ入っていく。



「ちょ、ちょっとちょっと!あんた絶対に泥棒しないでよ?」


「しっ。静かにしろって。あいつ風邪で寝込んでんだろ?」



 言われて口を閉じる。風邪のときによその男が入っていくほうがダメな気がするけど。


 でも主任ってチビ朔のこと気に入ってるみたいだし、もしかして喜ぶのかな?それはそれで嫌だけど。


 靴を脱いで忍び足で入っていくと、以前来たときと同じように、ドアの前にロープが落ちていた。チビ朔はもう当たり前のようにロープを拾い上げて、こちらを向いた。



「あいつ今なら弱ってるからさ、前みたいならないんじゃね?せっかくだから、お望みどおり縛ってやろうぜ」


「……あんたってさ、恐ろしいほど怖いもの知らずだよね」


「バッカ、この間の恨みを晴らすチャンスだろ?」


「恨んでんだ?」


「今度は俺がビビらせてやるよ」



  ガキ大将みたいな顔で笑うので、私は溜め息をついてチビ朔へ哀れみの目を向けた。



「やめとこうよ、主任にとってあんたは『小さき彼』で、どうも可愛いものとして認識してるみたいだからさ。なにされてもきっと動じないよ」


「小さき彼って言うな!」


「いいじゃん。ゴロもいいしあんたにぴったりのあだ名じゃん」


「くっそ~!ぜってービビらせてやるからなっ!」



 ロープをぐっと握り、チビ朔はドアをあけた。



「よおドエム彼氏!またきた……ぜ」



 台詞の最後の方は、ほとんど息のようになって消えていく。


 扉を開け放したその先では、主任がソファーの背もたれから無理にブリッジを決めたような体制でだらりと仰向けにぶら下がっていた。


 ちょうど干された布団のような格好だ。


 腕は力なく床に垂れ、血が抜けたように青白い顔をしている。持っていたスーパーの袋が床に落ちる。私は思わず両手で口を覆った。



「ま、まさか……死……!?」


「ば、ばか。そんなはずねーだろ?また俺たちを怖がらせようとしてんだ」


「ど、どうしよどうしよ!こういう時って110番だっけ!?消防車だっけ!?」



 スマホを取り出し、何かしなければとぶるぶる震える手を動かした。でも一気にてんぱってしまって、何をすればいいのか全く分からない。



「大丈夫だって!大袈裟なんだよお前は。ほら、おい、大丈夫かー?」



 冷静なチビ朔は主任に近寄り、垂れている腕をつついた。主任はびくともしない。



「う、動かないじゃん!」


「まあ待てよ。おーい聞こえるか?こんなとこで寝たら頭に血がのぼるぞ」



 主任の腕を持ち上げ、そのままソファーに戻そうとする。



「お、おもっ!こいつ重っ!デカっ!」



 だん!
 チビ朔の手から腕がすっぽ抜け、主任はちょっと危ない音をたてて床に頭を打ち付けた。



「…………」


「…………」


「あ、あんた……もしかして、どさくさに紛れて主任を殺そうとしてんの……?」


「ちげーよ!手が抜けちゃっただけで……今のは……大丈夫か?今の、やばいかな?」



 チビ朔は青ざめた顔で言った。



「や、やばいでしょ!すごい音したじゃん!」


「と、とりあえずソファーに寝かさないとだよな……。あ、これ使えるんじゃね?」


  
 チビ朔は床に放り出していたロープを拾い上げる。



「な、何に使うのよ」


「ほら、腕がだらーんとならないように体に固定して、そんで持ち上げれば」


「なるほど!」



 私も協力し、ロープを主任の背中に通す。チビ朔が腕を体の横に抑え、ロープを巻いていこうとした。


 ところ、白目をむいた主任がひとりでに動き出し、床につけた頭をドリルのようにぐるんぐるんと回転させ、前回同様ロープを勝手に巻き取っていった。


 そしてやっぱり干された布団みたいな状態でソファーの背もたれに垂れさがり、それきり動かなくなる。今度は顔を下にして。

 
 私たちは顔を見合せた。



「……起きてんの?」


「いや、白目向いてたぜ……?」


「そ、そっか。寝返りみたいなもんか」


「きっとロープ様に反応しちゃったんだな」



 そう納得し、主任を持ち上げてソファーへ寝かせる作業へ移る。私とチビ朔は主任の左右に分かれて立ち、胸板の下へ手を入れて持ち上げた。


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