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「最強のライバル?」
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しおりを挟む「ええっ!?子供を預かってほしい!?今日!?」
それは会社を辞めるとか、美雪さんの騒動とか、身の回りのあらゆるゴタゴタが一段落を迎え、ようやくゆったりした気持ちで目覚めた土曜日の朝だった。
母方の伯母からの唐突な電話により、優雅な休日は今まさに撤廃されようとしていた。
「なんでなんでなんで~!?旅行に行く!?久しぶりに夫婦水入らずで、って……え!てことは泊まりで預からないといけないの!?」
『あんたねえ、一ヶ月前にお願いしたときは、二つ返事でオーケーオーケーって言ってたじゃない』
呆れた声で伯母はため息をつく。電話の向こうで、子供が歌っている声が聞こえていた。
「えー……まじか。聞いたような気がしないでもないような気がしないでもないような」
『今から連れていくからお願いね』
「今から!?」
『それはそうよ』
「え~子供、詩音ちゃんだっけ?何歳?」
『6才よ。幼稚園の年長組。来年から小学生ね』
へえ~。思わうず感嘆の息が漏れる。
従姉妹の櫻詩音(さくらしおん)。3・4才くらいの時に会って以来だけど、もう小学生になるのか。ついさっき産まれたような気がするのに。
「そうなんだあ。子供の成長ってはやいんだね~」
『そうよ、子供の成長なんてあっという間よ。あ、ついた。すぐ行くわね』
「はやっ!」
電話で言ったとおり、伯母はすぐに子供と荷物を連れてやってきた。最後に会ったときと比べて、詩音はめざましく成長して伯母の横にいた。
パッツンの前髪と、胸の下までの細い髪。赤いダッフルコートに、その下にちょこっと見えているチェックのスカート。黒いタイツ。
今時の子供は、こんな格好するんだな~と思わず感心する。もしかして、私よりいい服着てんじゃない?
久々に会ったからか、詩音はすっかりお姉さんという雰囲気だった。
「ほら、詩音。従兄弟の詩絵子お姉ちゃん。小さい頃いじめられたの覚えてる?」
「いじめてはないよ」
伯母の足の横から私を見上げ、詩音は「知らない!」と大きな声で答えた。私は詩音の前にしゃがんで、ぷっくらした頬をつねった。
「このクソガキ。お菓子おごってやったじゃないのよ~」
「知らない知らない!このうんこ!」
「伯母さん。この子めっちゃ口悪い」
「そういう言葉はすぐに覚えてくるのよね~。あんたの小さい頃にそっくりでしょ?」
伯母は詩音の頭に手を置いて言った。言われてみれば、私もかなり生意気なクソガキだったような気がする。
ていうかそれより……。
「こいつ、顔までそっくりじゃないの」
自分でも分かるくらい、詩音と私はよく似ていた。ちょ~っと第一印象を悪くしがちな、生意気そうな目とか、顔の形とか、髪に癖がなくて細いところとか。
「そうそう。産まれたころから似てたけど、最近ますますね。あんたを育ててるみたいで嫌な気分よ」
「はあ!?全然似てないじゃん!」
詩音は小さな顔を歪める。
「こいつ」
詩音の顔を両手ではさんだところ、私はふと嫌なことに気がついた。
私にそっくりな、少女。いや、幼女か?まあそれはどっちでもいいんだけど……。これ、とてつもなくヤバイ匂いがする……。
たぶん、あの人って私の顔けっこうタイプなんだろうし、子供っぽい幼児体型もタイプで、でも詩音は子供っぽいどころか本物の子供で……。
あのお方の好みド真中、超ド直球ストレート。極めて小さい針の穴を通すような、奇跡的なまでに理想の女王様が……。
今ここに。
「お、伯母さん……やっぱり詩音を預かるのは、やめた方がいいような……」
背筋がひやりとして、私はそーっと顔を上げる。伯母はすぐに咎めた。
「なに言ってんのよ今更。すぐ出発しないといけないんだから。この子の分、予約取ってないし」
「いや……それはそうなんだけど。私の近くにはかなり危険な人がいるというか」
「もう。直前になって不安になったの?詩音も6才だし、身の回りのことは大抵できるから。あ、もう行かないと。じゃあ詩音、いい子でいるのよ」
「え、そんな……!本当に……」
伯母さん腕時計を見て、せわしない様子で詩音の頭を撫でた。詩音は「はーい」とものぐさげに手を上げる。
「お、伯母さん!」
私の声を背に、伯母は颯爽と去っていった。
―――こうして、かなりの不安を孕んだ私と詩音の短い共同生活は開始した。
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