ドМ彼氏。

秋月 みろく

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「メガネデビュー!」

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「私はねえ!『(笑)』でこんなにムカついたのは初めてなのよっ!」


 昼休み。まだ怒りの収まらないまま、私は美里に不満をぶちまけた。


「『清水、二度目だな』……って!会議中にメール送ってきたのは、二度ともあんたなんだよボケカスぅ!」

「これに懲りたら大人しくマナーモードにしときなさいよ。でもよかったじゃない、謝れば許してくれるんでしょ?」


 美里は弁当を食べながら、スマホを扱いながら、なんともない様子で言った。


「それがまた腹立たしいのよ~~~!なんでなにも悪くない私が主任なんかに……!」

「いや、あんたに非があるでしょ。明らかに」


 実はこの後、私は主任に謝罪するという非常に屈辱的な行為をしなければならない運命にある。それは主任の提案だった。


『僕は立場上、会社の人間関係に不具合を起こさないため、詩絵子様を叱りつけるという地獄巡りくらいでは許されない劣悪な行為をしなくてはなりません。もし詩絵子様がマナーモードにしていなければ、詩絵子様にオフィスを出て行くように、できる限りやんわりお伝えしますので、詩絵子様は外の喫茶店で小一時間程ゆっくりなされ、それから体裁を繕うために謝罪に来ていただければ、それが最善ではないかと思います。』


「ぜっっったい知ってたよね!?私がマナーモードにしてないの、ぜっったいに知ってたよね!?」


 じゃなきゃこんな懇切丁寧に説明するわけないじゃんか!


「これは罠よ!私は主任にはめられたのよっ!」

「で、本当に喫茶店でのんびりしてたの?」

「いーんやっ、主任の言うとおりにするのはシャクだから、コンビニで漫画読んでた」

「とりあえず、さっさと謝ってきなさいよ。昼休み中に謝ってた方がいいでしょ?あと十分しかないよ」


 腕時計を確認してみる。たしかにあと十分……針がカッチと動いて九分に変わる。私は胸ポケットからメガネを取り出し、ゆっくり指で位置を調節した。


「一分だ」

「は?」

「昼休み残り一分で謝罪にいく。このことに、それ以上の時間はかけられん」

「あっそう」


 予告通り、私は昼休み残り一分という頃合で主任の元へ向かった。
 けれどもこれは失敗だった。残り一分ともなると、昼食に出ていた同僚たちがオフィスに帰ってきていて、私は注目の的となった。


 しん、と静寂が訪れる。みんながやたら注目するもんだから、私の小鳥ほどの心臓はバックンバックンと大きく動いた。主任はいつどこでご飯を食べているのか知らないけど、自分のデスクで仕事に集中している。

 私は色んなことをなんとか堪え、主任の横に立った。


「……ぁ、あの……主任……」


 主任はこちらを見なかった。パソコンに顔を向けたまま手元の作業をやり終え、それからいきなり立ち上がった。

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