助けたご令嬢に惚れられた〜非モテ親父の何処がいいんだ?〜

水河忍

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おっさん、綾華からアプローチされる

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「まずはお礼を言わせてくださいませ。助けてくださってありがとう存じます」

 椅子から立ち上がり、優雅で無駄のない動作で頭を下げてきた。
 この部屋の高級な家具といい、多分、彼女はお金持ちの家のお嬢様育ちなんだろう。

 いや、それよりも俺が助けたって何の事だ。

「助けた? 俺が君を?」
「覚えていらっしゃいませんの? 二日前に公園で男の方から、わたくしを守ってくださった事を」

 あぁ、そうか、そうだった、ようやく思い出した、そういやこの子絡みで喧嘩したんだっけ。

「思い出したよ。悪いね、世話になったみたいで」
「いいえ、悪い事なんて何もありませんわ。わたくしは四条 綾華。白菊女学園の高等部一年です。ここは私の家です。後で、両親もお礼を申したいそうです」
「俺は若宮 英二。四条って、あの四条?」

 白菊は超お嬢様校。そこの四条と言えば、日本トップ企業の四条グループだろう。
 ということは、ここはグループトップの四条総裁の家?

「はい、四条グループです。お父様は総裁の四条兼光です」

 そんな偉い人に俺みたいな底辺リーマンが会っていいのか?
 四条総裁の一言でウチの会社なんて吹っ飛ぶぞ。
 てか、会社に欠勤の連絡しとかないと。

「その前に俺の携帯どこかな? 先に俺の会社に電話したいんだけど」
「あ、そこの脇机に。私がお取りしますわ」

 渡された携帯を見て愕然とした。
 会社からの着信が三十件。
 更にはロック画面に表示されたメッセージ。

『二日連続無断欠勤とはいい度胸だな。お前はもうクビだ』

 あぁ、そりゃ、ウチの会社じゃそうなりますよね。
 前にインフルで休んだ奴でさえクビにしてたし。

「申し訳ございません。わたくしが原因で会社をお辞めになる事に……」

 本当に申し訳なさそうな声だった。
 つか、なんで知っているんだろうか。
 疑問が顔に出たのか続けて言ってきた。

「申し訳ございません。見るつもりはなかったんです。でも、寝ていらっしゃる時に何度も携帯が鳴ってて、代わりにお取りしようか迷った時に、その……」
「あぁ、ロック画面にメッセージ映るからね。いいよ、気にしないで」

 俺が笑顔を向けると、彼女は泣きそうな顔になった。
 その理由が分からず、俺は言葉に詰まる。

「なんで、笑顔で言えるんですの。助けていただいた時だって、意識を無くされる直前だったのに笑顔で。今だって、私のせいで会社をクビになってしまったのに。まるでお兄様そっくり」

 彼女は俯いて泣き始めた。

 ……言えない。
 意識を無くしたのは、単に連日の過労が原因だなんて。
 転職しようかなぁとか考えていたなんて。
 
 言えないよな。
 真剣に心配してくれて、目の前で泣いてくれている純情な女の子に。
 本当は助けようか迷ったんだけどねとか。

「えっとね、ホントに気にしないでいいから」

 我ながら気の利かない台詞だと頭を掻くと、彼女は顔を上げ涙を拭い背筋を伸ばし、俺を見つめたきた。
 だが、なかなか話しかけてこない。
 ふと、彼女の手が膝の上で微かに震えている事に気づいた。

「さ、若宮様は恋人とかいらっしゃいますの?」
「いや、いないけど?」
「では想い人などはいらっしゃいますの?」
「いないよ?」
「交際する相手の条件とかございます? その、年齢とか」
「んー、愛があれば問題ないんじゃ?」
「愛……」

 今度は顔を赤らめ、頬に手を当て俯いてしまった。
 今の質問はなんだったんだ?
 お互い沈黙していると、意を決したような顔で彼女は俺の目を見つめてきた。

「決めましたわ。若宮様の人生、私が責任を取ります!」 
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