助けたご令嬢に惚れられた〜非モテ親父の何処がいいんだ?〜

水河忍

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おっさん、綾華と同居する

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 四条総裁は立ち上がり、頭を深々と下げてきた。
 だから、どんなに頼まれたって嫌なんだが。

 無言でいる俺に対して、総裁は黙って頭を下げ続けた。
 四十歳無職の男に頼み続けるなんて、超一流企業グループのトップらしからぬ態度だ。
 娘を思う親の心ってやつかな。

 ハァ、ここまで懇願されて頭を下げられて断ったら、後味が悪すぎる。
 あー、もう、このまま断ってもどうせやることないし期間限定ならいいか。
 その間に、次の就職先を考えとかないとな。

「分かりました。では二年半限定でお受けします」
「ありがとう。娘を助けてくれた上に、こんな厚かましい事を引き受けてくれて」

 そう言って、四条総裁は俺の手を取ってきた。
 大きくて温かい手だ。握ってくる力から、四条総裁の想いの強さが感じ取った様な気がした。

「さっき、逆玉の輿になれると思わないかなどど、失礼な事を言ってすまない。正樹が亡くなってからと言うもの、私の後釜を狙ってくる輩やからが後を絶たなくてね」
「居るんですね、そういう人たちって。娘さんが落ち込まれて心配な時に、その人たちの対応までされ心中お察しします」

 それに加えて総裁としての激務をこなすなんて、並大抵の精神力じゃ保たないよな。
 心休まるはずの家庭も、彼女が塞ぎ込みの状態じゃ休めなかったろうに。

「では、一回アパートに戻っていいですか。仕事先からの荷物も受け取らなきゃいけないので」
「あぁ、そうしたら君のアパートの荷物は我が家に運ぶ様に手配しよう」
「……えっと、おっしゃってる事がよく分かりません。なんでですか?」
「君には我が家に住んでもらいたい。失業したばかりで家賃の支払いに困るだろう。それに、その方が綾華も喜ぶ」
「いや、流石に住み込みってのは……」
「ゲストルームがいくつか空いていたな。桜庭、桜庭はいるか!!!」

 四条総裁の呼びかけに、執事姿の初老の男性が入ってきた。
 桜庭に引き続き、彼女と総裁の奥さんも入ってきた。
 彼女は結論が気になるらしく、チラチラと俺の方を見ている。

「お呼びでしょうか旦那様」
「若宮君の住む部屋を用意してくれ。一番、大きい部屋でな」
「いや、ですから住み込みとは……」
「かしこまりました。至急、用意いたします」

 だから、話を聞けって。
 四条総裁の言葉に彼女は目を輝かせてるし、奥さんは微笑んでるし。
 知らない男が家に住むんだから、少しは不安を持ちましょうよ奥さん。

「後、弁護士を呼んで若宮君の居た会社に向かわせてくれ。キチンと残業未払い分と退職金を支払わせる様にとな」

 俺が驚く顔を向けると、四条総裁は申し訳無さそうな顔で頭を下げてきた。
 予想した通り、俺の身辺は調査済みだったらしい。

「すまない、勝手に調べさせてもらった。治療や警察への連絡やらで必要な事だったんだ。君の会社にもキチンと連絡していればクビにはならずに済んだかもね。私の落ち度だ、申し訳ない」
「そう言えば、あの男はどうなったんですか。逃げられました?」
「いや、キッチリ捕まえて警察に突き出しておいた。だが、これは警察に内々に処理させておいた。君には申し訳ないが、表沙汰にすることが出来ない。私の社会的地位や、綾華の学校の評判などが関係していてね。本当に申し訳ない」

 なるほど、四条グループの娘が学校を抜け出した挙句に刃物沙汰の事件に巻き込まれたなんて、大スキャンダルだもんな。
 下手すりゃ、四条グループの株価大暴落で経済に悪影響だし、彼女が通う学校は上流階級の娘たちばかりだから、学校としてもおおやけに出来ないだろう。

「事情は分かりました。仕方ないですよ、気にしないでください」
「お詫びと言っては何だが、君を綾華の教育係りとして我が家で雇おう」
「ちょ、待ってください、無理です。お嬢様向けの教育なんて出来ません」
「何も礼儀作法を教えてくれと言っているわけでは無いよ。娘は少し世間に疎いところがあってね。娘に世間を教えて欲しい。社会人経験もあり、良識的な君であれば安心して任せられる」

 世間っていってもな、どないしろと。
 第一、世間を教える教育係りって、当人と常に一緒にいないと教えられないんじないのか?

 ん、常に一緒?
 だから、四条家に住み込みになれと?
 なんか、いやに手際というかトントン拍子すぎないか?

 訝しげに四条総裁を見ると、ニヤリとされた。どこから計算していたんだこの人は。
 第一、付きまとわれる事になる彼女の身にもなれよ。

「いくらなんでも、教育係りとなると常に一緒にいることなります。流石にお嬢様のお気持ちが」
「大丈夫ですわ! むしろこちらからお願いしたいくらいですの。それに私の事は綾華とお呼びください」

 彼女は丁寧にスカートの裾をつまみながら、ひざを軽く曲げて頭を下げてきた。

 ……ヤブヘビだった。
 
 こりゃ、完全に逃げ道無しだな。

「分かりました。お言葉に甘えます」
「おぉ、そうか。では、色々と準備させよう」

 四条総裁が立ち上がり扉に向かう。先に奥さんと執事が出ていった。
 彼女も立ち上がりかけた時、四条総裁が思い出した様に向き直ってきた。

「あぁ、もしフィーリングが合えば、娘を本当に嫁にもらってくれても構わない。私は君が気に入った」

 思わぬ言葉にベットの上で固まる俺。
 首だけ回して彼女を見ると中腰のまま固まり、耳まで真っ赤だった。
 そんな俺たちの様子を尻目に四条総裁は笑いながら出ていった。

 初対面の印象と全然違うじゃないか狸親父め。
 仕事とプライベートを使い分けるタイプだな。
 総裁が出ていった扉を軽く睨んでると、彼女が立ち上がり俺の方を向いてきた。

 顔を赤らめながら、腰の前で両手の指をもじもじさせている。
 思い切った様に頭を下げて言ってくる。

「あの、ふつつか者ですが、これからよろしくお願いいたします」

 違う、そうじゃない。
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