8 / 61
おっさん、綾華と同居する
しおりを挟む
四条総裁は立ち上がり、頭を深々と下げてきた。
だから、どんなに頼まれたって嫌なんだが。
無言でいる俺に対して、総裁は黙って頭を下げ続けた。
四十歳無職の男に頼み続けるなんて、超一流企業グループのトップらしからぬ態度だ。
娘を思う親の心ってやつかな。
ハァ、ここまで懇願されて頭を下げられて断ったら、後味が悪すぎる。
あー、もう、このまま断ってもどうせやることないし期間限定ならいいか。
その間に、次の就職先を考えとかないとな。
「分かりました。では二年半限定でお受けします」
「ありがとう。娘を助けてくれた上に、こんな厚かましい事を引き受けてくれて」
そう言って、四条総裁は俺の手を取ってきた。
大きくて温かい手だ。握ってくる力から、四条総裁の想いの強さが感じ取った様な気がした。
「さっき、逆玉の輿になれると思わないかなどど、失礼な事を言ってすまない。正樹が亡くなってからと言うもの、私の後釜を狙ってくる輩やからが後を絶たなくてね」
「居るんですね、そういう人たちって。娘さんが落ち込まれて心配な時に、その人たちの対応までされ心中お察しします」
それに加えて総裁としての激務をこなすなんて、並大抵の精神力じゃ保たないよな。
心休まるはずの家庭も、彼女が塞ぎ込みの状態じゃ休めなかったろうに。
「では、一回アパートに戻っていいですか。仕事先からの荷物も受け取らなきゃいけないので」
「あぁ、そうしたら君のアパートの荷物は我が家に運ぶ様に手配しよう」
「……えっと、おっしゃってる事がよく分かりません。なんでですか?」
「君には我が家に住んでもらいたい。失業したばかりで家賃の支払いに困るだろう。それに、その方が綾華も喜ぶ」
「いや、流石に住み込みってのは……」
「ゲストルームがいくつか空いていたな。桜庭、桜庭はいるか!!!」
四条総裁の呼びかけに、執事姿の初老の男性が入ってきた。
桜庭に引き続き、彼女と総裁の奥さんも入ってきた。
彼女は結論が気になるらしく、チラチラと俺の方を見ている。
「お呼びでしょうか旦那様」
「若宮君の住む部屋を用意してくれ。一番、大きい部屋でな」
「いや、ですから住み込みとは……」
「かしこまりました。至急、用意いたします」
だから、話を聞けって。
四条総裁の言葉に彼女は目を輝かせてるし、奥さんは微笑んでるし。
知らない男が家に住むんだから、少しは不安を持ちましょうよ奥さん。
「後、弁護士を呼んで若宮君の居た会社に向かわせてくれ。キチンと残業未払い分と退職金を支払わせる様にとな」
俺が驚く顔を向けると、四条総裁は申し訳無さそうな顔で頭を下げてきた。
予想した通り、俺の身辺は調査済みだったらしい。
「すまない、勝手に調べさせてもらった。治療や警察への連絡やらで必要な事だったんだ。君の会社にもキチンと連絡していればクビにはならずに済んだかもね。私の落ち度だ、申し訳ない」
「そう言えば、あの男はどうなったんですか。逃げられました?」
「いや、キッチリ捕まえて警察に突き出しておいた。だが、これは警察に内々に処理させておいた。君には申し訳ないが、表沙汰にすることが出来ない。私の社会的地位や、綾華の学校の評判などが関係していてね。本当に申し訳ない」
なるほど、四条グループの娘が学校を抜け出した挙句に刃物沙汰の事件に巻き込まれたなんて、大スキャンダルだもんな。
下手すりゃ、四条グループの株価大暴落で経済に悪影響だし、彼女が通う学校は上流階級の娘たちばかりだから、学校としてもおおやけに出来ないだろう。
「事情は分かりました。仕方ないですよ、気にしないでください」
「お詫びと言っては何だが、君を綾華の教育係りとして我が家で雇おう」
「ちょ、待ってください、無理です。お嬢様向けの教育なんて出来ません」
「何も礼儀作法を教えてくれと言っているわけでは無いよ。娘は少し世間に疎いところがあってね。娘に世間を教えて欲しい。社会人経験もあり、良識的な君であれば安心して任せられる」
世間っていってもな、どないしろと。
第一、世間を教える教育係りって、当人と常に一緒にいないと教えられないんじないのか?
ん、常に一緒?
だから、四条家に住み込みになれと?
なんか、いやに手際というかトントン拍子すぎないか?
訝しげに四条総裁を見ると、ニヤリとされた。どこから計算していたんだこの人は。
第一、付きまとわれる事になる彼女の身にもなれよ。
「いくらなんでも、教育係りとなると常に一緒にいることなります。流石にお嬢様のお気持ちが」
「大丈夫ですわ! むしろこちらからお願いしたいくらいですの。それに私の事は綾華とお呼びください」
彼女は丁寧にスカートの裾をつまみながら、ひざを軽く曲げて頭を下げてきた。
……ヤブヘビだった。
こりゃ、完全に逃げ道無しだな。
「分かりました。お言葉に甘えます」
「おぉ、そうか。では、色々と準備させよう」
四条総裁が立ち上がり扉に向かう。先に奥さんと執事が出ていった。
彼女も立ち上がりかけた時、四条総裁が思い出した様に向き直ってきた。
「あぁ、もしフィーリングが合えば、娘を本当に嫁にもらってくれても構わない。私は君が気に入った」
思わぬ言葉にベットの上で固まる俺。
首だけ回して彼女を見ると中腰のまま固まり、耳まで真っ赤だった。
そんな俺たちの様子を尻目に四条総裁は笑いながら出ていった。
初対面の印象と全然違うじゃないか狸親父め。
仕事とプライベートを使い分けるタイプだな。
総裁が出ていった扉を軽く睨んでると、彼女が立ち上がり俺の方を向いてきた。
顔を赤らめながら、腰の前で両手の指をもじもじさせている。
思い切った様に頭を下げて言ってくる。
「あの、ふつつか者ですが、これからよろしくお願いいたします」
違う、そうじゃない。
だから、どんなに頼まれたって嫌なんだが。
無言でいる俺に対して、総裁は黙って頭を下げ続けた。
四十歳無職の男に頼み続けるなんて、超一流企業グループのトップらしからぬ態度だ。
娘を思う親の心ってやつかな。
ハァ、ここまで懇願されて頭を下げられて断ったら、後味が悪すぎる。
あー、もう、このまま断ってもどうせやることないし期間限定ならいいか。
その間に、次の就職先を考えとかないとな。
「分かりました。では二年半限定でお受けします」
「ありがとう。娘を助けてくれた上に、こんな厚かましい事を引き受けてくれて」
そう言って、四条総裁は俺の手を取ってきた。
大きくて温かい手だ。握ってくる力から、四条総裁の想いの強さが感じ取った様な気がした。
「さっき、逆玉の輿になれると思わないかなどど、失礼な事を言ってすまない。正樹が亡くなってからと言うもの、私の後釜を狙ってくる輩やからが後を絶たなくてね」
「居るんですね、そういう人たちって。娘さんが落ち込まれて心配な時に、その人たちの対応までされ心中お察しします」
それに加えて総裁としての激務をこなすなんて、並大抵の精神力じゃ保たないよな。
心休まるはずの家庭も、彼女が塞ぎ込みの状態じゃ休めなかったろうに。
「では、一回アパートに戻っていいですか。仕事先からの荷物も受け取らなきゃいけないので」
「あぁ、そうしたら君のアパートの荷物は我が家に運ぶ様に手配しよう」
「……えっと、おっしゃってる事がよく分かりません。なんでですか?」
「君には我が家に住んでもらいたい。失業したばかりで家賃の支払いに困るだろう。それに、その方が綾華も喜ぶ」
「いや、流石に住み込みってのは……」
「ゲストルームがいくつか空いていたな。桜庭、桜庭はいるか!!!」
四条総裁の呼びかけに、執事姿の初老の男性が入ってきた。
桜庭に引き続き、彼女と総裁の奥さんも入ってきた。
彼女は結論が気になるらしく、チラチラと俺の方を見ている。
「お呼びでしょうか旦那様」
「若宮君の住む部屋を用意してくれ。一番、大きい部屋でな」
「いや、ですから住み込みとは……」
「かしこまりました。至急、用意いたします」
だから、話を聞けって。
四条総裁の言葉に彼女は目を輝かせてるし、奥さんは微笑んでるし。
知らない男が家に住むんだから、少しは不安を持ちましょうよ奥さん。
「後、弁護士を呼んで若宮君の居た会社に向かわせてくれ。キチンと残業未払い分と退職金を支払わせる様にとな」
俺が驚く顔を向けると、四条総裁は申し訳無さそうな顔で頭を下げてきた。
予想した通り、俺の身辺は調査済みだったらしい。
「すまない、勝手に調べさせてもらった。治療や警察への連絡やらで必要な事だったんだ。君の会社にもキチンと連絡していればクビにはならずに済んだかもね。私の落ち度だ、申し訳ない」
「そう言えば、あの男はどうなったんですか。逃げられました?」
「いや、キッチリ捕まえて警察に突き出しておいた。だが、これは警察に内々に処理させておいた。君には申し訳ないが、表沙汰にすることが出来ない。私の社会的地位や、綾華の学校の評判などが関係していてね。本当に申し訳ない」
なるほど、四条グループの娘が学校を抜け出した挙句に刃物沙汰の事件に巻き込まれたなんて、大スキャンダルだもんな。
下手すりゃ、四条グループの株価大暴落で経済に悪影響だし、彼女が通う学校は上流階級の娘たちばかりだから、学校としてもおおやけに出来ないだろう。
「事情は分かりました。仕方ないですよ、気にしないでください」
「お詫びと言っては何だが、君を綾華の教育係りとして我が家で雇おう」
「ちょ、待ってください、無理です。お嬢様向けの教育なんて出来ません」
「何も礼儀作法を教えてくれと言っているわけでは無いよ。娘は少し世間に疎いところがあってね。娘に世間を教えて欲しい。社会人経験もあり、良識的な君であれば安心して任せられる」
世間っていってもな、どないしろと。
第一、世間を教える教育係りって、当人と常に一緒にいないと教えられないんじないのか?
ん、常に一緒?
だから、四条家に住み込みになれと?
なんか、いやに手際というかトントン拍子すぎないか?
訝しげに四条総裁を見ると、ニヤリとされた。どこから計算していたんだこの人は。
第一、付きまとわれる事になる彼女の身にもなれよ。
「いくらなんでも、教育係りとなると常に一緒にいることなります。流石にお嬢様のお気持ちが」
「大丈夫ですわ! むしろこちらからお願いしたいくらいですの。それに私の事は綾華とお呼びください」
彼女は丁寧にスカートの裾をつまみながら、ひざを軽く曲げて頭を下げてきた。
……ヤブヘビだった。
こりゃ、完全に逃げ道無しだな。
「分かりました。お言葉に甘えます」
「おぉ、そうか。では、色々と準備させよう」
四条総裁が立ち上がり扉に向かう。先に奥さんと執事が出ていった。
彼女も立ち上がりかけた時、四条総裁が思い出した様に向き直ってきた。
「あぁ、もしフィーリングが合えば、娘を本当に嫁にもらってくれても構わない。私は君が気に入った」
思わぬ言葉にベットの上で固まる俺。
首だけ回して彼女を見ると中腰のまま固まり、耳まで真っ赤だった。
そんな俺たちの様子を尻目に四条総裁は笑いながら出ていった。
初対面の印象と全然違うじゃないか狸親父め。
仕事とプライベートを使い分けるタイプだな。
総裁が出ていった扉を軽く睨んでると、彼女が立ち上がり俺の方を向いてきた。
顔を赤らめながら、腰の前で両手の指をもじもじさせている。
思い切った様に頭を下げて言ってくる。
「あの、ふつつか者ですが、これからよろしくお願いいたします」
違う、そうじゃない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件
沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」
高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。
そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。
見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。
意外な共通点から意気投合する二人。
だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは――
> 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」
一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。
……翌日、学校で再会するまでは。
実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!?
オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる