助けたご令嬢に惚れられた〜非モテ親父の何処がいいんだ?〜

水河忍

文字の大きさ
15 / 61

おっさん、良太と酒を呑む

しおりを挟む
「久しぶりにダチと飲む酒のさかながお前のノロケ話か?」
「いや、どこら辺がノロケてるんだ?」
「気まぐれに公園で女の子を助けたら、それが大令嬢でお前にゾッコン。お前の外見なんぞ気にしないいい子で、お前の自己否定すら悲しむ奇特きとくな子」
「奇特いうな。それにノロケているわけじゃなくて相談……」

 俺の親友である乾良太は、盛大に煙草たばこの煙を吐き出した。
 大量の煙がBARの換気扇に吸い込まれていく。
 十杯目のウィスキーロックを盛大に喉に流し、俺の眼を見据えて言ってきた。

「とりあえず、手の平だせ」

 俺が何気に出した手に、煙草を消そうと押し付けようとしてきた。
 慌てて手の平を引っ込めながら怒鳴る。

「ちょ、待て。この年で手の平に根性焼きとかやめて!? さすがに痕が残るから」

 舌打ちしながら煙草を灰皿に押しつぶし、BARのマスターにウィスキーを注文する良太。
 良太とは学生時代にツルんで馬鹿をやった仲だ。
 二人とも喧嘩速いところがあり、勘違いから拳で語り合ったのは一度や二度ではない。

 俺は冷や汗をかきながら軽く良太を睨んだ。

「たく、身を固めて少しは固くなったかと思ったけど、そういうとこをは変わらないのな」
「うるせー、お前は変わったな。昔は競って女口説いてたのに、今は二次元オンリーだ。かと思えば、いつの間にかリアルお嬢様をゲットしやがって羨ましいじゃねえか」

 勝率八割の良太に比べて俺は勝率ゼロだ、普通は二次元にのめり込みたくなるだろう。
 良太の方こそグラドル顔負けの嫁さんをゲットしているのだが、相談している立場上、あえて突っ込むのはやめておいた。
 それに、俺は綾華をゲットはしたと思っていない、綾華の恋愛フィルターが解ければ明らかに俺は対象外だろうし。

「それで、相談ってのはそのお嬢様へのご機嫌取りでいいのか?」
「ご機嫌取りじゃなくて、ごめんね的というか、普段世話になっているお礼みたいな感じ」

 この前の茶室の一件は、俺の心の中に引っかかっていた。
 何気ない一言が綾華を悲しませた。
 それが例え、ただの俺の自己否定で罪の意識を感じる必要がなくてもだ。

 綾華は普段と変わらぬ態度で接していてくれるが、どうにも勝手に気にしてしまう。

「そんなん簡単だろ。抱いてやれよ」
「ぶっ、いやいやいやいや無理っす。十六歳の女の子に手を出したら犯罪じゃん?」
「犯罪云々の前にヘタレだから無理か。そんくらいの気概があれば、四十歳で童貞でいるわけがないわな」
「気概も何も付き合った経験がないんですがね」
「……ヘタレ」

 若い頃から沢山の女と付き合っており、恋愛経験豊富な良太に対してはグウの音も出ない。
 俺は目の前のスパイシーチキンバーをついばみ、黙って黒ビールジョッキを空にし、マスターにお代わりを頼んだ。
 良太は新しいタバコに火をつけて一息吹かす。

「じゃあ、デートにでも誘ってやれよ。好きな相手から誘われれば、お嬢様も喜ぶぞ」
「こんなおっさんに誘われて喜ぶかな?」
「お前、いい加減殴るぞ」
「分かった、誘うよ。それでどこに誘えばいいかな?」
「お前、そんくらい自分で考えろよ。だから、何時まで経っても童貞なんだよ」
「そう言わずに教えてくださいよ、良太様」

 良太は口は悪いが面倒見がよく、昔から何かと周りから頼られる存在だった。
 呆れた表情で俺を見ながらも真剣に考えてくれる。
 そして、俺をまじまじと見ながら言ってきた。

「とりあえず、一緒に洋服でも買いに行ってこい」
「俺、女性のファッションなんて全く分からないんだけど?」
「安心しろ、買うのはお嬢様の洋服じゃない。お前の洋服だ」
「へ、俺の?」
「そう、ファッションセンスゼロのお前の服選びだよ。今日の洋服だってなんだそれ。ここのBARにTシャツとランニングズボンで来るなんて、お前くらいだぞ?」

 良太が俺の洋服を指さすと、BARのマスターも苦笑しながらウィスキーのロックを差し出してきた。
 改めて周りを見渡せば、男たちはスーツ姿が多い。
 私服の男たちは、良太の様に下はデニムだが上半身はカジュアルシャツにジャケットを羽織っていた。

 冷静に場を考えてみれば、俺だけ超浮いているは明白。

 確かにファッションセンスがないのは自覚しているし、入るお店に合わせたコーディネートなんかまったく考えてこなかった。
 良太の言うことはいちいちもっともなのかもしれないが、一点納得できないところがある。

「俺の洋服買いに誘って喜ぶかな。普通、女性の洋服を買いに行こうって方が喜ぶんじゃないか」
「普通ならな。でも、相手はお嬢様なんだから洋服に不自由していないだろ。第一、お嬢様が着るような洋服をお前が買えるか? 一着で数ヶ月分の給料が吹っ飛ぶぞ」
「た、確かにそうだな。綾華の親父さんのおかげで、前の会社のここ数年のサビ残分が振り込まれたから当面は困らないけど」
「それに好きな男を自分好みに仕上げられるってのは、大抵の女の買い物魂に火を付けるからな」
「そ、そういうもんなのか?」
「お前に分かりやすく言うなら、SNSやソシャゲーで男性キャラのアバターに課金アイテムをつぎ込む女の心理だ」
「なるほど、よく分かった」

 俺はソシャゲーで自分のアバターに課金なんぞしないが、アバターに大量に課金する人たちは男女問わず確かにいる。
 そういう人たちのアバターは確かにおしゃれで、ソシャゲー内でも人気だ。

「それで、どういう風に誘えばいいかな?」
「おーまーえーなぁ、男としてのプライドないの?」
「そう言わずに、教えてくださいよ良太さん」
「朝飯か夕飯の終わり時に誘えばいいだろ、一緒に食ってんだから。あ、朝飯は学校に行くドタバタがあるから、夕飯の時がいいか。てか、金持ちの家の飯って豪勢で美味いんだろうな羨ましい」
「いや、一緒に食ってないし、飯はコンビニ弁当だけど」
「……ハァ?」

 良太が呆れた表情で俺を見てきた。
 そう、俺は四条家で飯の世話になっていない。
 住まわせてもらっている上に飯の世話までしてもらったらタダのヒモだからだ。
 四条総裁は綾華の世話係と言ってくれたが、未だにそれらしいことをできていないし。

「お嬢さんか親御さんから飯の誘いとかなかったの?」
「あったけど断った。だって、飯まで世話になったら申し訳ないだろ」
「お前さ、相手の好意を断る方が凄い失礼になってるって理解できてない? お前が童貞でいる理由ってそういうところだよ? 斜め上どころか直角に折れ曲がっているマイルールで、世間の常識からずれてるんだよ。とにかく、明日からキチンと朝昼晩の飯の世話になれ。世話になれないってんなら、金輪際お前の相談事にはのらん」

 無二の親友である良太にこう言われては従うしかなく、俺はしぶしぶ了承した。
 その後は、昔話や地元の連中の近況などをネタに終電間際まで飲み続けた。
 昔みたいに徹夜で飲み明かそうと言ってくれたが、良太の嫁さんと子供に悪いので断って別れた。


□ □ □ □


 四条家の最寄り駅に着くと、駅のロータリーの時計台は深夜十二時半を過ぎていた。
 時計台の下には見た事のある黒色のリムジンが止まっていた。
 あれ?っと思っていたら、リムジンの中から白いフリルのついたコートを着た綾華が駆け寄ってきた。

 終電の時間帯だから人は少なく気にする人も少ないが、これが平日の昼間だったら明らかに好奇の目で見られていただろう。

「若宮様、お帰りなさいませ。遅くて心配しておりましたわ」
「えっと、ずっと待ってたの? 桜庭さんには連絡しておいたんだけど」
「えぇ、聞いておりましたがお帰りになるのを待つのが筋というものですわ。さあ、お乗りになってください」
「いや、酒臭いし煙草臭くてリムジンに匂い移っちゃうからやめと……」

 断ろうと思ったが、良太の言葉を思い出し踏みとどまる。

『お前さ、相手の好意を断る方が凄い失礼になってるって理解できてない?』

 そうか、夜更かしないであろうお嬢様が二十四時過ぎまで起きてて、ロータリーで俺の帰りを待っててくれたんだ。

 確かに断る方がメチャクチャ失礼だわな。

「わざわざ、待っててくれて迎えに来てくれてありがとう。乗らせてもらうよ、遅くなってごめんな」
「そんな、お礼なんていりませんわ。当然のことですもの」

 綾華は嬉しそうな笑みを浮かべ頬を赤らめた。
 桜庭さんが開けてくれたドアから、リムジンに乗り込むと綾華も隣に乗ってくる。

「酒や煙草の匂いが臭いだろ? 少し離れていいぞ」
「そんなの気にいたしませんわ。嫌でしたら最初からお隣に座りませんもの。それに、若宮様のなら気にいたしませんわ」 

 よくもまあ素でそんな台詞が言えますね、と思い綾華の方を見ると若干耳が赤かった。
 素直に可愛いなぁと思い和んだ心のせいか自然と言葉が紡ぎ出る。

「そういや、前に断った朝昼晩のご飯の件なんだけど、やっぱ言葉に甘えていいかな?」
「えぇ、勿論ですわ。早速、明日の朝食からご一緒いたしましょう。桜庭さん、よろしくて?」
「承りましたお嬢様」

 口調こそゆったりとしているが、心の底から嬉しそうな笑みを浮かべてくれた。
 姿勢こそ正しく座っているが、楽しみでしょうがないという雰囲気だ。
 ここまで喜んでくれるとはなぁ、本当にこんなおっさんで良いのだろうか。
 ただ、そんな綾華を見て不思議と茶室の一件以来、勝手に感じていた気まずさは消えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...