助けたご令嬢に惚れられた〜非モテ親父の何処がいいんだ?〜

水河忍

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おっさん、ご学友にバレる

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「わたくしの大事な方ですの」

 綾華の迷いのない即答に、何もない空間にひびが入った様な音が走る。
 いや、実際に入るわけがないのだが、明らかにお友達の三人が固まった。
 慌てて否定しようとした時に、柔らかなソプラノ声が入り込んできた。

「まあ、それは素敵ですわ。綾華様は良き殿方を見つけられたのですね」

 声の主は出会った時に俺に訝しげな視線を向けなかった女の子だ。
 質素で上品なコーディネートをしており、身なりからして他の三人とは別格だと分かる。
 小柄な体格だが雰囲気は大人びており、長袖のブラウスの上に紫色のカーディガンを羽織り、黒基調としたロングスカート。
 高身長な割りに小顔で丸い瞳が印象的で、綾華とは別タイプの美少女。

「はい、麗奈様。わたくしの理想の方ですわ」
「ただ、若宮様も同じ想いですの? ご振る舞いを見ていると何か違うような感じを受けますの」

 麗奈と呼ばれた子は意味深な表情で俺を見てくる。
 眼力などまるでないが、こちらの内心まで見透かすような瞳で一瞬引き込まそうな違和感を受けた。 

「いえ、それは……」

 気まずそうに言いよどむ綾華を見て、三人がさらに驚愕の表情で俺を見て小声で話し出す。

「まさか、綾華様にご不満が!?」
「あり得ませんわ。社交界で綾華様をご慕いしている素敵な殿方は沢山いますのに何様ですの」
「庶民は勿論、上流階級でさえ高嶺の花ですのよ」

 おい、全部聞こえてるぞ。

 しまいには、「これは社交界の大スキャンダルですわ」と言い出す始末。
 流石にイラッとし、口を挟もうかと思った時、麗奈が三人をたしなめた。

「皆さま、お止しなさいな。綾華様の選んだ殿方ですのよ、失礼ではなくて?」

 三人がピタリを黙るあたり、麗奈は三人よりも上の立場なんだろう
 少しほっとしたのも束の間、若干視線を鋭くさせた麗華が俺を見てくる。
 物腰が柔らかい印象は変わらないが、なんとういうか圧が凄い。

「綾華様は社交界や白菊女学園でも特別な立場ですの。もっとも綾香様はご自覚がないようですけど。お二人の事を広める事は致しませんが、人の口に戸は立てれないと申します。わたくしたちが黙っていたとしても、ここで買い物をする以上、自然と噂は広がりますわ」

 周りを見渡す麗奈につられて俺も周りを確認すると、普通に買い物していた一般客の中に慌てて視線を逸らす輩がちらほらといた。
 当たり前の事ながら、麗奈たち以外にも綾華の学校関係者が買い物に来てても不思議じゃない。

 この後で綾華に男の噂が立つのは確実であり、その相手が薄ハゲ進行中の中年太りの俺。
 下手すりゃ、綾華が中年男に遊ばれてるらいしいと広がるだろう。

「噂なんて放っておけば勝手に消えるよ」
「噂にさらされるのは若宮様ではなくて綾華様ですのよ」

 なんだ? 何が言いたい?
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