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おっさん、雪菜に押し切られる
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ほどなく、最寄り駅に着いた。
改札口を出ると白菊の生徒と思われる女生徒たちがチラホラ歩いていた。
そうか、お嬢様校とはいえ、全員が金持ちの子供という訳では無いんだろうな。
だからと言って、騒いで歩いている子はおらず上品な立ち振る舞いで歩いていた。
九条さんは電車を降りた時点で気持ちを整えたのか泣きやんでいたが、顔色も良くなく足取りも重い。
自然と俺と綾華の歩くペースは雪奈に合わせる形になる。
まあ、このペースでも始業時間までは余裕だろな。
やっぱ、時間に余裕を持って行動するって大事だよね。
そんな場違いなことを考えているとか細い声が聞こえてきた。
「あ、あの申し訳ありません」
その声に振り向くと九条さんが俺に頭を下げていた。
「え、いや、ちょっと謝れるような事されてないから頭をあげてよ」
「い、いえ、お礼が遅くなり申し訳ありません。わたくしは九条雪奈と申します。助けていただいてありがとう存じます。」
「あぁ、なんだそんな事か。気にしないでいいからとりあえず頭をあげて」
通学路の往来で頭を下げられるなんて居心地が悪すぎる。
慌てて周りを見てみたが、今のやり取りに気づいた人はいなさそうだった。
九条さんが頭を上げるのを待って歩くように促す。
お嬢様二人と一緒に俺が歩いているってだけでも奇異の視線を集めること間違いないのに、立ち止まりながら話していたら間違いなく職質ものだ。
「俺は若宮英二。ホント、気にしないでいいよ。男として当然の事っていうか、成り行きでっていうか」
言えない。助けようか迷ったなんて。
助けた理由が綾華の評判を気にしたからだなんて。
「いえ、このご恩は一生忘れません」
いえ、忘れてください。
そんな重いもん求めた訳じゃないから。
「わたくし、本当に怖かったのですのよ。護身術は嗜んでおりましたが、いざあの様な状況になると体がすくんでしまって。お恥ずかしい限りですわ」
「あー、普通はそうなるもんだから恥ずかしがることじゃないよ。いくら、普段から鍛えていても身がすくむ時はあるからなぁ」
「若宮様はお優しいんですのね」
俺のをフォローと受け取ったのか、九条さんは恥ずかしそうに微笑みながら俺を見てきた。
いや、フォローじゃなんだけどね。結局は胆力の問題でさ、いざという時に練習通りに身体が動くかなんてのは肝っ玉の小さい人には無理なんだよ。
流石にお嬢様に対して肝っ玉がどうのこうのと言うのは気が引けるので黙るしかない。
むしろ、正直にそう言ったら身体がすくんだのは九条さんの肝っ玉が小さかったらだよと同義だ。
「若宮様も武術の心得がございますの???」
「いや、俺のは我流かな」
何か習っていたわけじゃなく、中高時代に良太とツルんで不良たちと喧嘩をしたから自然に腕っぷしだけは強くなっただけ。空手なり柔道の有段者相手だったら間違いなく撃沈だろう。
「我流で嗜むなんて素晴らしいですわ。向上心がおありですのね」
いや、どうしてそうなる?
しかも、何故か顔を赤らめてキラキラした目で俺を見てくるし。
「しかも、先ほどの様にわたくしを助けてくれる様な男らしさ。素敵ですわ」
「あ、あの九条さん?」
「そんな他人行儀な。若宮様、できれば雪奈と呼んでいただければ嬉しいですわ」
いや、俺と九条さんは他人行儀も何も他人でしょう?
助けを求める様に綾華の方を見ると、何故か綾華はすねた様にそっぽを向いてしまった。
ここは助けてよ綾華さん。
「いや、九条さん。いきなり名前で呼ぶのは色々とよろしくないんじゃ???」
「わたくしの親しい友人たちは、雪奈と呼びますので若宮様もお気になさらないでくださいませ」
俺と九条さんは親しくないし、九条さんが気にしなくても俺が気にするし。
ちょっと顔を近づけすぎじゃないでしょうか九条さん。
そんな心の抵抗もむなしく、白菊女学園の校門が見えてきた頃には雪奈と呼ぶ様に押し切られてしまった。
校門での別れ際に、綾華の微笑みが心なしか冷たかったのは気のせいだろうか。
改札口を出ると白菊の生徒と思われる女生徒たちがチラホラ歩いていた。
そうか、お嬢様校とはいえ、全員が金持ちの子供という訳では無いんだろうな。
だからと言って、騒いで歩いている子はおらず上品な立ち振る舞いで歩いていた。
九条さんは電車を降りた時点で気持ちを整えたのか泣きやんでいたが、顔色も良くなく足取りも重い。
自然と俺と綾華の歩くペースは雪奈に合わせる形になる。
まあ、このペースでも始業時間までは余裕だろな。
やっぱ、時間に余裕を持って行動するって大事だよね。
そんな場違いなことを考えているとか細い声が聞こえてきた。
「あ、あの申し訳ありません」
その声に振り向くと九条さんが俺に頭を下げていた。
「え、いや、ちょっと謝れるような事されてないから頭をあげてよ」
「い、いえ、お礼が遅くなり申し訳ありません。わたくしは九条雪奈と申します。助けていただいてありがとう存じます。」
「あぁ、なんだそんな事か。気にしないでいいからとりあえず頭をあげて」
通学路の往来で頭を下げられるなんて居心地が悪すぎる。
慌てて周りを見てみたが、今のやり取りに気づいた人はいなさそうだった。
九条さんが頭を上げるのを待って歩くように促す。
お嬢様二人と一緒に俺が歩いているってだけでも奇異の視線を集めること間違いないのに、立ち止まりながら話していたら間違いなく職質ものだ。
「俺は若宮英二。ホント、気にしないでいいよ。男として当然の事っていうか、成り行きでっていうか」
言えない。助けようか迷ったなんて。
助けた理由が綾華の評判を気にしたからだなんて。
「いえ、このご恩は一生忘れません」
いえ、忘れてください。
そんな重いもん求めた訳じゃないから。
「わたくし、本当に怖かったのですのよ。護身術は嗜んでおりましたが、いざあの様な状況になると体がすくんでしまって。お恥ずかしい限りですわ」
「あー、普通はそうなるもんだから恥ずかしがることじゃないよ。いくら、普段から鍛えていても身がすくむ時はあるからなぁ」
「若宮様はお優しいんですのね」
俺のをフォローと受け取ったのか、九条さんは恥ずかしそうに微笑みながら俺を見てきた。
いや、フォローじゃなんだけどね。結局は胆力の問題でさ、いざという時に練習通りに身体が動くかなんてのは肝っ玉の小さい人には無理なんだよ。
流石にお嬢様に対して肝っ玉がどうのこうのと言うのは気が引けるので黙るしかない。
むしろ、正直にそう言ったら身体がすくんだのは九条さんの肝っ玉が小さかったらだよと同義だ。
「若宮様も武術の心得がございますの???」
「いや、俺のは我流かな」
何か習っていたわけじゃなく、中高時代に良太とツルんで不良たちと喧嘩をしたから自然に腕っぷしだけは強くなっただけ。空手なり柔道の有段者相手だったら間違いなく撃沈だろう。
「我流で嗜むなんて素晴らしいですわ。向上心がおありですのね」
いや、どうしてそうなる?
しかも、何故か顔を赤らめてキラキラした目で俺を見てくるし。
「しかも、先ほどの様にわたくしを助けてくれる様な男らしさ。素敵ですわ」
「あ、あの九条さん?」
「そんな他人行儀な。若宮様、できれば雪奈と呼んでいただければ嬉しいですわ」
いや、俺と九条さんは他人行儀も何も他人でしょう?
助けを求める様に綾華の方を見ると、何故か綾華はすねた様にそっぽを向いてしまった。
ここは助けてよ綾華さん。
「いや、九条さん。いきなり名前で呼ぶのは色々とよろしくないんじゃ???」
「わたくしの親しい友人たちは、雪奈と呼びますので若宮様もお気になさらないでくださいませ」
俺と九条さんは親しくないし、九条さんが気にしなくても俺が気にするし。
ちょっと顔を近づけすぎじゃないでしょうか九条さん。
そんな心の抵抗もむなしく、白菊女学園の校門が見えてきた頃には雪奈と呼ぶ様に押し切られてしまった。
校門での別れ際に、綾華の微笑みが心なしか冷たかったのは気のせいだろうか。
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