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白の記録 二
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さて、いくら終わったの詰んだの内心で叫んでいても事態は変わらない。ならばどうすべきか。廃校からの脱出を目指す、それしかない。主人公である鏡野有子は何度死んだって次の周回で生き返っていたけど、転生(?)したであろう私もそうであろうと迂闊な行動をとるつもりはない。ていうか、死ぬのって怖いじゃん。
それでなくともこの廃校でお出しされるバッドエンドの数々は恐ろしい。理科室には絶対に近づかない、絶対にだ。それからプール……は、廃校脱出エンドもとい全員生存エンドで行くの必須なんだよなぁ、どうしよう。
そう、そうだ。全員生存エンドを目指すなら、今どこで何がどうなっていて誰がどこで何をしているかを知らなければならない。今確認しなければならないのは、四階へ向かう階段のバリケード。それが恵一の生死を分けるキーポイントだから。
恵一、フルネームを豊島恵一というのだが、彼はいわゆるワンコ系幼馴染である。こう、いかにも気弱そうで、それでいて運動部だから体格はしっかりしていて、いざという時は頼れそうな、そんな子である。いや、有子からしたら同い年だけども。柴犬っぽい感じといえば伝わるだろうか。
実際、恵一ルートのバッドエンドではほぼ彼が先に死ぬ。有子は恵一に庇われたり守られたりして生き残るが、恵一が死んでいるため後の罠その他に殺されてバッドエンドを迎える。例えば、この廃校の中をうろついているチェーンソー男だとか、同級生のあん畜生だとかに。あん畜生についてはまた後で語ろうと思うが、マジで畜生であり攻略対象でありながらかなりのヘイトを集めていた。
閑話休題、とにかく、恵一を生かして捕えなければ……じゃない、恵一が生きている状態で合流しなければならない。合流したらしたでバッドエンド分岐率が急上昇するのだけれど、だからといって見殺しにしては全員生存エンドの流れに乗れない。生前(?)、私の推しの一人であったという理由もあるけれど。
「……シャァッ!!」
思わずガッツポーズを取って叫んでしまった。四階へ向かう階段のバリケードは、まだ壊されていない。よかった、本当によかった。ここが壊れていたら恵一の生存は絶望的だった。
このバリケードの先には、チェーンソー男こと斎藤十蔵がいる。通称を十蔵先生というのだが、彼には彼なりの理由やら何やらがあって人間を殺しまくっている。そんな彼が自由にうろついている状態は非常にまずい。特に恵一にとって。
何故なら、恵一ルート序盤のバッドエンドのほぼ八割がこの十蔵先生絡みだから。首が飛ばされる、縦に真っ二つにされる、上半身と下半身が泣き別れ、その他諸々。正直、この辺りのバッドエンドにスチルがついていたら、その時点でプレイを止めていたので後々の精神衛生上にはよかったのではなかろうかとさえ思う。
「だったら、恵一の現在地は……」
幾度も周回した記憶を掘り起こして、各攻略対象のおおよその行動を予測する。その予測によれば、恵一は今頃三階の廊下にいるはずだ。私は極力足音を立てないようにしながら全力ダッシュした。
「恵一ッ!!」
「うわっ!?」
そして、彼の後ろ姿を見つけた瞬間、ラグビーのタックル的な勢いで確保した。赤茶けた(設定的には野球部の練習で日に焼けたから、らしい。絵的には、ワンコっぽさを足すためじゃないだろうかと私は思っている)ツンツン髪、へにゃんと垂れた目、思いの外がっしりしている体。間違いなく恵一だ。
「あ、有子!?」
「こっち!!」
そして、私は恵一を引きずるようにして近くの教室に潜り込んだ。もちろん、バッドエンド確定の部屋じゃないことは先に確認している。あの教室は永遠に許さん。誰と入室しても確定でバッドエンドとかなめてんのか。
「な、何? 何が……」
「黙って!!」
次いで、ぎゅむと恵一の口をふさぐ。腕を引っ張って、しゃがませた状態で廊下側に近い壁に密着させる。自分も同じように壁にはりついて、とあるバッドエンドを回避にかかった。
バリバリと、派手な音。続いて、チェーンソーの音。ごつごつと、重たい足音。それが私たちが隠れている教室の前を横切り、消えていく。動揺と混乱で目を白黒させていた恵一も、チェーンソーの音を聞いてヤバいと思ったらしく、途中からは自分で口を塞いでいた。
よし、よし。これで現時点でひっかかりやすい二つのバッドエンドを回避できた。全員生存エンドの流れに乗った結果だ。まぁ、原作の有子はこんなに乱暴じゃなかったし、そもそも教室に隠れようと提案したのは恵一の方だったのだけれど。
「え、と……」
「話は後、次はちょっとタイミングがシビアだからそれが終わってからね」
そのまま、何かを言いかけた恵一を制止して立ち上がる。十蔵先生は以降、とある法則に従って徘徊を続ける。だから、その隙を狙って、もう一人の凶行を止めなければならないのだ。
それでなくともこの廃校でお出しされるバッドエンドの数々は恐ろしい。理科室には絶対に近づかない、絶対にだ。それからプール……は、廃校脱出エンドもとい全員生存エンドで行くの必須なんだよなぁ、どうしよう。
そう、そうだ。全員生存エンドを目指すなら、今どこで何がどうなっていて誰がどこで何をしているかを知らなければならない。今確認しなければならないのは、四階へ向かう階段のバリケード。それが恵一の生死を分けるキーポイントだから。
恵一、フルネームを豊島恵一というのだが、彼はいわゆるワンコ系幼馴染である。こう、いかにも気弱そうで、それでいて運動部だから体格はしっかりしていて、いざという時は頼れそうな、そんな子である。いや、有子からしたら同い年だけども。柴犬っぽい感じといえば伝わるだろうか。
実際、恵一ルートのバッドエンドではほぼ彼が先に死ぬ。有子は恵一に庇われたり守られたりして生き残るが、恵一が死んでいるため後の罠その他に殺されてバッドエンドを迎える。例えば、この廃校の中をうろついているチェーンソー男だとか、同級生のあん畜生だとかに。あん畜生についてはまた後で語ろうと思うが、マジで畜生であり攻略対象でありながらかなりのヘイトを集めていた。
閑話休題、とにかく、恵一を生かして捕えなければ……じゃない、恵一が生きている状態で合流しなければならない。合流したらしたでバッドエンド分岐率が急上昇するのだけれど、だからといって見殺しにしては全員生存エンドの流れに乗れない。生前(?)、私の推しの一人であったという理由もあるけれど。
「……シャァッ!!」
思わずガッツポーズを取って叫んでしまった。四階へ向かう階段のバリケードは、まだ壊されていない。よかった、本当によかった。ここが壊れていたら恵一の生存は絶望的だった。
このバリケードの先には、チェーンソー男こと斎藤十蔵がいる。通称を十蔵先生というのだが、彼には彼なりの理由やら何やらがあって人間を殺しまくっている。そんな彼が自由にうろついている状態は非常にまずい。特に恵一にとって。
何故なら、恵一ルート序盤のバッドエンドのほぼ八割がこの十蔵先生絡みだから。首が飛ばされる、縦に真っ二つにされる、上半身と下半身が泣き別れ、その他諸々。正直、この辺りのバッドエンドにスチルがついていたら、その時点でプレイを止めていたので後々の精神衛生上にはよかったのではなかろうかとさえ思う。
「だったら、恵一の現在地は……」
幾度も周回した記憶を掘り起こして、各攻略対象のおおよその行動を予測する。その予測によれば、恵一は今頃三階の廊下にいるはずだ。私は極力足音を立てないようにしながら全力ダッシュした。
「恵一ッ!!」
「うわっ!?」
そして、彼の後ろ姿を見つけた瞬間、ラグビーのタックル的な勢いで確保した。赤茶けた(設定的には野球部の練習で日に焼けたから、らしい。絵的には、ワンコっぽさを足すためじゃないだろうかと私は思っている)ツンツン髪、へにゃんと垂れた目、思いの外がっしりしている体。間違いなく恵一だ。
「あ、有子!?」
「こっち!!」
そして、私は恵一を引きずるようにして近くの教室に潜り込んだ。もちろん、バッドエンド確定の部屋じゃないことは先に確認している。あの教室は永遠に許さん。誰と入室しても確定でバッドエンドとかなめてんのか。
「な、何? 何が……」
「黙って!!」
次いで、ぎゅむと恵一の口をふさぐ。腕を引っ張って、しゃがませた状態で廊下側に近い壁に密着させる。自分も同じように壁にはりついて、とあるバッドエンドを回避にかかった。
バリバリと、派手な音。続いて、チェーンソーの音。ごつごつと、重たい足音。それが私たちが隠れている教室の前を横切り、消えていく。動揺と混乱で目を白黒させていた恵一も、チェーンソーの音を聞いてヤバいと思ったらしく、途中からは自分で口を塞いでいた。
よし、よし。これで現時点でひっかかりやすい二つのバッドエンドを回避できた。全員生存エンドの流れに乗った結果だ。まぁ、原作の有子はこんなに乱暴じゃなかったし、そもそも教室に隠れようと提案したのは恵一の方だったのだけれど。
「え、と……」
「話は後、次はちょっとタイミングがシビアだからそれが終わってからね」
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