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白の記録 四
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「モブ君て何すか」
「えっと……マンガでね? 主人公の……いてね、そういう名前の子が……その子に似てたから、つい……」
「この間前髪切りに行って失敗されたんすけどそんなに目立ってます?」
「私は嫌いじゃないけれど……マニッシュ? みたいな雰囲気でいいと思う……」
「俺のことは畜生って呼んでなかったか」
「気のせい」
モブ君の前髪はぱっつんだったし、畜生の手元のナイフについてはツッコミを入れてないのだからこっちの不始末も見逃してほしい。
十蔵先生を回避するため、全員で職員室に駆け込んで隠れて、ついさっきチェーンソーの音が遠くになった所。いわゆる安地、略さずにいえば安全地帯である職員室の片隅で、ようやっと落ち着いて互いの情報を交換している次第である。
曰く、モブ君によれば。自分が通っている学校で気絶したかと思えば何故か廃校で目覚めて、外に出ようと一階に降りた所で血まみれのナイフを持っていた祐樹に驚いて悲鳴を上げてしまったとのこと。
曰く、畜……祐樹によれば。同じく気づけば廃校にいて、自分を拉致したであろう犯人から身を守ろうと偶然落ちていたナイフを拾ったタイミングでモブ君と出遭って悲鳴を上げられて今に至るとのこと。
嘘つけ、と後者に対して強く思ったが、まだ犯行に及んでいなくて本当に安心した。全員生存エンド、いける。私は内心で両の拳を突き上げて歓声を上げた。後は、最後の一人を回収して。
「で……落ち着いたっぽいから聞きたいんだけど」
「何を?」
「えっと……色々。有子はこの学校? のこととか、さっきのチェーンソーの人のこととか、知ってるの?」
恵一の質問に、私は少しだけ黙考する。最後の一人を回収しに行くには、やや時間がある。彼の場合、早めに回収してしまうと逆にまずいのだ。恵一のバッドエンド率上昇の比ではないくらい。
「ここは、私がやったことのあるゲームによく似ていて……知っているというよりは、見たことがあるって感じかな……」
嘘ではないが真実全てではない。ここでいう私とは私であり、恵一がいう有子ではない。そういえばこの手の転生ものって転生先の魂か何かの行方がキーポイントになってたりなってなかったりするけれど、今回はどうなのだろう。
「ゲーム?」
「うん、えーと……ホラーゲーム、みたいな?」
「あのチェーンソー男から逃げ回る感じの?」
「うーん……他にも、罠とか、色々あって……」
恵一と話していたら、はい、とモブ君が手を挙げた。
「じゃあ何すか、ボクらはそのゲームに似せて作られた所に拉致されたってことすか?」
「それはわからないけど……」
「もしそうだとすれば、鏡野の持っている情報は貴重なものだな。犯人がそのゲームに似せることにこだわっているなら、罠の場所もゲームに合わせている可能性がある」
黙れ畜生お前にだけは罠の場所を教えてなるものか、と強く強く思ったけれど、ここで変に情報を隠すと色々とまずそうだ。私はうーん、と何かを思い出すようなふりをしつつ、あっ、と急に声を上げた。
「もう一人……」
「もう一人?」
「もし、そのゲームに似せられてるなら、廃校をさまよっているのは五人のはず」
「じゃあもう一人、オレたちみたいな……被害者? がいるってこと?」
「わからないけど、探して見る価値はあると思う」
これもまた真実全てではないし、明確な嘘を一つついた。ゲームのメインキャラは、私、恵一、祐樹、そして蘭尚。あららぎ、なんて噛むためにあるような苗字の彼は、最期の最後まで有子の味方だった。そして、死んでからもずっと。
陰キャ……というのはちょっとよろしくない言い方だけれど、そんな感じの年下みたいな同級生。文学少年といった方がいいかもしれない。彼はこの廃校で有子に出遭い、設定資料集曰く一目惚れをして、だからこそ有子にとって絶対の味方になった。
彼の強みは知識の豊富さと勘のよさ。彼はその能力で、この廃校に張り巡らされた罠を掻い潜ることができる。彼のルートに乗れば、罠関係のバッドエンドは全て回避できるのだ。その代わり、彼のルートに入ってしまうことで拓けてしまうバッドエンドも多いのだけれど。
「じゃあ、どうする? 分かれて探した方が手広く探せるけど……」
「全員でまとまって行動しましょう」
恵一の愚策を切って捨てる。お前ここで畜生を放流したら何しでかすかわからないだろうが。特にモブ君と組ませたらモブ君が間違いなく殺されるだろうが。とはいえ、恵一にとって祐樹は現状、同級生でしかないからこの反応もまぁ……うん、まぁ、いや、とにかく祐樹は監視下に置いておいた方がいい。私はそう結論づけて、皆で最後の一人、尚君を探すことにした。
「えっと……マンガでね? 主人公の……いてね、そういう名前の子が……その子に似てたから、つい……」
「この間前髪切りに行って失敗されたんすけどそんなに目立ってます?」
「私は嫌いじゃないけれど……マニッシュ? みたいな雰囲気でいいと思う……」
「俺のことは畜生って呼んでなかったか」
「気のせい」
モブ君の前髪はぱっつんだったし、畜生の手元のナイフについてはツッコミを入れてないのだからこっちの不始末も見逃してほしい。
十蔵先生を回避するため、全員で職員室に駆け込んで隠れて、ついさっきチェーンソーの音が遠くになった所。いわゆる安地、略さずにいえば安全地帯である職員室の片隅で、ようやっと落ち着いて互いの情報を交換している次第である。
曰く、モブ君によれば。自分が通っている学校で気絶したかと思えば何故か廃校で目覚めて、外に出ようと一階に降りた所で血まみれのナイフを持っていた祐樹に驚いて悲鳴を上げてしまったとのこと。
曰く、畜……祐樹によれば。同じく気づけば廃校にいて、自分を拉致したであろう犯人から身を守ろうと偶然落ちていたナイフを拾ったタイミングでモブ君と出遭って悲鳴を上げられて今に至るとのこと。
嘘つけ、と後者に対して強く思ったが、まだ犯行に及んでいなくて本当に安心した。全員生存エンド、いける。私は内心で両の拳を突き上げて歓声を上げた。後は、最後の一人を回収して。
「で……落ち着いたっぽいから聞きたいんだけど」
「何を?」
「えっと……色々。有子はこの学校? のこととか、さっきのチェーンソーの人のこととか、知ってるの?」
恵一の質問に、私は少しだけ黙考する。最後の一人を回収しに行くには、やや時間がある。彼の場合、早めに回収してしまうと逆にまずいのだ。恵一のバッドエンド率上昇の比ではないくらい。
「ここは、私がやったことのあるゲームによく似ていて……知っているというよりは、見たことがあるって感じかな……」
嘘ではないが真実全てではない。ここでいう私とは私であり、恵一がいう有子ではない。そういえばこの手の転生ものって転生先の魂か何かの行方がキーポイントになってたりなってなかったりするけれど、今回はどうなのだろう。
「ゲーム?」
「うん、えーと……ホラーゲーム、みたいな?」
「あのチェーンソー男から逃げ回る感じの?」
「うーん……他にも、罠とか、色々あって……」
恵一と話していたら、はい、とモブ君が手を挙げた。
「じゃあ何すか、ボクらはそのゲームに似せて作られた所に拉致されたってことすか?」
「それはわからないけど……」
「もしそうだとすれば、鏡野の持っている情報は貴重なものだな。犯人がそのゲームに似せることにこだわっているなら、罠の場所もゲームに合わせている可能性がある」
黙れ畜生お前にだけは罠の場所を教えてなるものか、と強く強く思ったけれど、ここで変に情報を隠すと色々とまずそうだ。私はうーん、と何かを思い出すようなふりをしつつ、あっ、と急に声を上げた。
「もう一人……」
「もう一人?」
「もし、そのゲームに似せられてるなら、廃校をさまよっているのは五人のはず」
「じゃあもう一人、オレたちみたいな……被害者? がいるってこと?」
「わからないけど、探して見る価値はあると思う」
これもまた真実全てではないし、明確な嘘を一つついた。ゲームのメインキャラは、私、恵一、祐樹、そして蘭尚。あららぎ、なんて噛むためにあるような苗字の彼は、最期の最後まで有子の味方だった。そして、死んでからもずっと。
陰キャ……というのはちょっとよろしくない言い方だけれど、そんな感じの年下みたいな同級生。文学少年といった方がいいかもしれない。彼はこの廃校で有子に出遭い、設定資料集曰く一目惚れをして、だからこそ有子にとって絶対の味方になった。
彼の強みは知識の豊富さと勘のよさ。彼はその能力で、この廃校に張り巡らされた罠を掻い潜ることができる。彼のルートに乗れば、罠関係のバッドエンドは全て回避できるのだ。その代わり、彼のルートに入ってしまうことで拓けてしまうバッドエンドも多いのだけれど。
「じゃあ、どうする? 分かれて探した方が手広く探せるけど……」
「全員でまとまって行動しましょう」
恵一の愚策を切って捨てる。お前ここで畜生を放流したら何しでかすかわからないだろうが。特にモブ君と組ませたらモブ君が間違いなく殺されるだろうが。とはいえ、恵一にとって祐樹は現状、同級生でしかないからこの反応もまぁ……うん、まぁ、いや、とにかく祐樹は監視下に置いておいた方がいい。私はそう結論づけて、皆で最後の一人、尚君を探すことにした。
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