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白の記録 七
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私の作戦勝ち、ということにしたい。あの後、何とか一彦先生と共闘関係を構築して、一彦先生が設置したあれこれには引っかからないようにしてもらった。ただし、あくまでも一彦先生が設置したあれこれのみである。やはり、タソガレアリスとの戦いは避けられないようだ。
タソガレアリス、というのはDエンドを迎えた有子の別名である。発狂してしまった有子が悪霊化した姿ともいう。彼女は幾重ものループによって心を病んでしまって、自分を殺した人間たちに復讐しようと決意した。その人間たちの中には、プレイヤーも含まれている。
だって、プレイヤーがゲームをプレイしなければ、有子は何度も殺されるはめにならなかったからだ。プレイヤーがゲームをプレイするたびに、高確率で有子は死んだ。それは同級生による凶行であったり、致死性の高い罠であったり、原因は色々とあったけれど、そのどれもがゲームをプレイしなければ起こり得なかった事象である、と彼女は考えた。
というのもまぁ創作上の話で、いわゆるメタ的な演出というもので、そうであるからしてこうして私に実害が及ぶなんて考えたこともなかったのだけれど。とにかく、有子はプレイヤーを憎み、怪談の国の女王、タソガレアリスと名乗ってプレイヤーに対して殺害予告を送りつけた。
であるからして、まぁ、うん、タソガレアリスの八つ当たりは一彦先生の比ではない。一彦先生は一応、ターゲットを絞っている。彼が自殺する遠因となった人間。例えば、嘘つきとか、いじめっ子だとか。それが一彦先生のメインターゲットである。が、タソガレアリスは目に入ったもの全てがターゲットだ。
本当にね、寄らず触らずにいれたらどれだけ難易度が下がることか。そう思うけれど私がこの廃校を脱出するにあたって絶対にぶつかることが予想されるからね。全員生存エンドを狙ったとしても、このままではほぼ九割、彼女に妨害される。それも、とても的確に。
何故なら、タソガレアリスというのはDエンドを迎えた有子。即ち、一度は全員生存エンドも経験している。彼女が私という存在に気づき、その狙いが全員生存エンドだと考えたなら、どの時点であっても瞬殺だろう。
で、何故、一彦先生との共闘態勢が整えられたかといえば理由は簡単。一彦先生からすれば、タソガレアリスは明確な敵なのだ。同じ狩場で暴れ回っている不確定要素、それが一彦先生から見たタソガレアリスだ。
だから、一彦先生はタソガレアリスをこの廃校から追い出したい。そして、私は鏡野有子であるが故に、タソガレアリスに対抗し得る可能性を持つ存在である。よって、我々は利害の一致によって手を結ぶことができた、そういうわけだ。
「……とはいえ、ねぇ」
タソガレアリスの行動を予測するのは難しい。私の存在を向こうが知っているかどうかで大分変ってくるのだけれど、残念ながらそれについての情報はなかった。一彦先生曰く、一彦先生が私に気づいたのがついさっきだから、タソガレアリスはまだ気づいていないのではないか、ということらしいが。
「さて」
「あれ? アリス……じゃないな、誰?」
一歩目で意気を挫くの止めていただいても? と思いながら足を止める。横目で見れば、家庭科室という標示と、教室の中からこちらを見ている笑顔の少年が一人。
「さっき、白の女王と名乗ることが決まったけれど」
「へぇ、じゃあアリスと殺し合うんだ。珍しいね、メイドさんが下剋上ってやつ?」
彼の名前は志島海人、一彦先生と同じく悪霊である。まぁ、一彦先生の手駒、即死罠の一部。人懐っこい笑顔と可愛らしい話し方で相手を油断させて、とんでもない殺し方をしてくる。私は攻略サイトを見ない派なので、綺麗に初見殺しされたことがある。許さん。
そもそもアドバイザーみたいな顔して近寄ってきて、その実は裏切者ってよくない。とてもよくない。ボクは君の味方だよ、みたいな顔を止めろ。みたいなというか、途中までは本人もそう思ってたらしいけど。
「下剋上というか……何だろうね、巻き込まれたから仕方なくって感じかな」
「そう、まぁどうでもいいけど。あ、お菓子食べてくれるなら手助けしてあげてもいいよ?」
「食べない」
きっぱりと断れば、わざとらしく残念そうな顔をする海人。しかし、有子に対してそうだったように、発狂して殺しにかかってくることはない。メイドさん、というのはタソガレアリスの……何だろう、分身? みたいなものだから、アリスに対する態度と同じなのだろう。
私はそう結論づけて、彼から離れて歩き出す。彼は地縛霊であるからして、家庭科室から外に出ることはできない。だから、私は油断していた。死んでも生き返ると理解してしまったからか、次の周回では気をつけるとしよう。
そんなことを考えながら、私は前方から、横を向いていた私からすれば側面から飛来してきた巨大な刃物によって綺麗にスライスされた。横二分割ってのは珍しいね、全く。
タソガレアリス、というのはDエンドを迎えた有子の別名である。発狂してしまった有子が悪霊化した姿ともいう。彼女は幾重ものループによって心を病んでしまって、自分を殺した人間たちに復讐しようと決意した。その人間たちの中には、プレイヤーも含まれている。
だって、プレイヤーがゲームをプレイしなければ、有子は何度も殺されるはめにならなかったからだ。プレイヤーがゲームをプレイするたびに、高確率で有子は死んだ。それは同級生による凶行であったり、致死性の高い罠であったり、原因は色々とあったけれど、そのどれもがゲームをプレイしなければ起こり得なかった事象である、と彼女は考えた。
というのもまぁ創作上の話で、いわゆるメタ的な演出というもので、そうであるからしてこうして私に実害が及ぶなんて考えたこともなかったのだけれど。とにかく、有子はプレイヤーを憎み、怪談の国の女王、タソガレアリスと名乗ってプレイヤーに対して殺害予告を送りつけた。
であるからして、まぁ、うん、タソガレアリスの八つ当たりは一彦先生の比ではない。一彦先生は一応、ターゲットを絞っている。彼が自殺する遠因となった人間。例えば、嘘つきとか、いじめっ子だとか。それが一彦先生のメインターゲットである。が、タソガレアリスは目に入ったもの全てがターゲットだ。
本当にね、寄らず触らずにいれたらどれだけ難易度が下がることか。そう思うけれど私がこの廃校を脱出するにあたって絶対にぶつかることが予想されるからね。全員生存エンドを狙ったとしても、このままではほぼ九割、彼女に妨害される。それも、とても的確に。
何故なら、タソガレアリスというのはDエンドを迎えた有子。即ち、一度は全員生存エンドも経験している。彼女が私という存在に気づき、その狙いが全員生存エンドだと考えたなら、どの時点であっても瞬殺だろう。
で、何故、一彦先生との共闘態勢が整えられたかといえば理由は簡単。一彦先生からすれば、タソガレアリスは明確な敵なのだ。同じ狩場で暴れ回っている不確定要素、それが一彦先生から見たタソガレアリスだ。
だから、一彦先生はタソガレアリスをこの廃校から追い出したい。そして、私は鏡野有子であるが故に、タソガレアリスに対抗し得る可能性を持つ存在である。よって、我々は利害の一致によって手を結ぶことができた、そういうわけだ。
「……とはいえ、ねぇ」
タソガレアリスの行動を予測するのは難しい。私の存在を向こうが知っているかどうかで大分変ってくるのだけれど、残念ながらそれについての情報はなかった。一彦先生曰く、一彦先生が私に気づいたのがついさっきだから、タソガレアリスはまだ気づいていないのではないか、ということらしいが。
「さて」
「あれ? アリス……じゃないな、誰?」
一歩目で意気を挫くの止めていただいても? と思いながら足を止める。横目で見れば、家庭科室という標示と、教室の中からこちらを見ている笑顔の少年が一人。
「さっき、白の女王と名乗ることが決まったけれど」
「へぇ、じゃあアリスと殺し合うんだ。珍しいね、メイドさんが下剋上ってやつ?」
彼の名前は志島海人、一彦先生と同じく悪霊である。まぁ、一彦先生の手駒、即死罠の一部。人懐っこい笑顔と可愛らしい話し方で相手を油断させて、とんでもない殺し方をしてくる。私は攻略サイトを見ない派なので、綺麗に初見殺しされたことがある。許さん。
そもそもアドバイザーみたいな顔して近寄ってきて、その実は裏切者ってよくない。とてもよくない。ボクは君の味方だよ、みたいな顔を止めろ。みたいなというか、途中までは本人もそう思ってたらしいけど。
「下剋上というか……何だろうね、巻き込まれたから仕方なくって感じかな」
「そう、まぁどうでもいいけど。あ、お菓子食べてくれるなら手助けしてあげてもいいよ?」
「食べない」
きっぱりと断れば、わざとらしく残念そうな顔をする海人。しかし、有子に対してそうだったように、発狂して殺しにかかってくることはない。メイドさん、というのはタソガレアリスの……何だろう、分身? みたいなものだから、アリスに対する態度と同じなのだろう。
私はそう結論づけて、彼から離れて歩き出す。彼は地縛霊であるからして、家庭科室から外に出ることはできない。だから、私は油断していた。死んでも生き返ると理解してしまったからか、次の周回では気をつけるとしよう。
そんなことを考えながら、私は前方から、横を向いていた私からすれば側面から飛来してきた巨大な刃物によって綺麗にスライスされた。横二分割ってのは珍しいね、全く。
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