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赤の記憶 七
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「……の、鏡野、どうしたんだ?」
……私の名前は鏡野有子、高校二年生。目の前にいるのは、岸祐樹、同級生。二人とも、忘れ物を取りに学校に向かった所、何故か見知らぬ学校に拉致された。そして、今は二人でこの学校から出る手段を探している、そのはずだ。
「あ……ごめんなさい、祐樹。ちょっとぼーっとしてたわ」
「……いや、いい。しかし、これはこれで面倒だな」
職員室で見つけた鍵の束は、本当に鍵だけの束で。どれがどの教室の鍵か書いていないから、一つ一つ試していかないといけない。今も、祐樹ががちゃがちゃと鍵を抜いては入れてを繰り返している。
「お、これか」
かちゃん、と軽い音を立てて開く扉。開いた音楽室は、外の光で真っ赤に染まっている。と、その時だった。思わず二人で顔を見合わせる。その間にも、その音は響いている。鳴り、響いている。誰も触れていないはずのピアノから、物悲しい、曲が。
私たちは、顔を見合わせたまま、そろそろと教室から出た……なるほど、あぁいうのもあるのか。混乱か、恐怖か――演奏の邪魔をしないようにそっと扉を閉じてから、私たちは駆け出した。
乱れた息を整える。流石の祐樹も、心霊現象を見るのは初めてだったようで、青ざめているようだった。いや、万が一……万が一、あれが自動演奏機能を持っているピアノで、たまたま、そう、たまたま私たちが入った段階で自動演奏が始まったとしたら。むしろ、そう思いたいし、そう思っていた方が精神衛生上には良い気がする。
「……おとなしく、一階で、探すか」
「そうね……」
私たちはどちらからともなく頷いて、二階の探索を放棄した。
とは言え、一度探し尽くした一階で、見るべき場所などそう多くない。強いて言うならば、鍵は開いたはずなのに扉が開かない宿直室や――扉が前衛的な形に歪んでいて開きそうにない校長室、とか。でも、それらの部屋に行った所で、事態が変わっている訳でもなく。やっぱり、上の階を探す他なかった。
二階を飛ばして、三階の教室を調べる。鍵が開いている部屋と、持っている鍵で開いた部屋と。そして――どうあっても開かない場所を除いた全ての部屋を探索し終えた私たちは、お互いに顔を見合わせた。次は四階だろうか、と、多分祐樹も思っているのだろう。
「……残るは四階か」
「そうね……」
でも、何故か四階に行くのがとても怖い。行ったことがない場所への恐怖は、ここに来てからとうの昔に麻痺しているはずなのに……とうの昔、なんて言うにはまだ早いくらいだけれども。
「!!」
その時、だった。階段の方から響いた、絶叫。私は、その声の主を知っている!
「おい、待て!!」
祐樹の焦ったような声を背にして、私は駆けた。そして、それを、真正面から見てしまった。
「け……い、ち?」
階段の上から、ボールみたいに落ちてきた丸いそれ。赤茶けた短い髪、見開かれた目は虚ろ。足下に転がって来て、思わず拾い上げてしまう。あぁ……あぁ、なんて、なんて、これは、とても……。
「……まい……?」
その言葉を耳にして、私は顔を上げた。視界に差す影、呆然とした表情の男の人がいる。その手には、真っ赤な、チェーンソー。いや、チェーンソーだけじゃなくて、それを持っている男の人も、真っ赤に染まっている。
「……けいいち、ねぇ、けいいち」
私は、その男の人よりももっと大事なことを思い出して、それに声をかけた。でも、答えは返ってこない。あぁ、私だってわかっちゃいるんだ……生首は、喋らない。恵一は、死んだんだ。
でも、それでも声をかけずにはいられなかった。恵一の首を持ち上げて、目を合わせて、何度も呼びかける。そんな私の行動を止めたのは……祐樹だった。
「逃げるぞ! 鏡野!!」
「え、あ、だって、けいいちが、けいいちが」
「もう死んでる! アレに殺されたんだ!」
「だって、うあ、けいいち、けいいちぃ!!」
私の手から「恵一」を取り上げて、いつの間にか降りて来ていたらしい男に向かって投げつける。そして、祐樹は私を抱え上げて走り出した。どうして恵一を置いていくの、いや、頭のもう半分では理解している、あれはもう死んでいる、持っていく必要はない、けれど、だけど。
「けいいち、たすけなきゃ! だって、あんな、けいいち、けいいちが!」
「死んだヤツをどう助けるんだ! このままじゃオレたちだって死ぬんだぞ!」
「うぁ、あぁあ、だって、だってぇ……」
涙が止まらない。どうして恵一がここにいるのか、何であんなことになってしまったのか。私にはわからない……何も、かもが。
……祐樹が私を抱えたまま逃げ込んだのは、理科室だった。強い薬品の臭いが、鼻を突く。二人で廊下側の窓の真下、外から覗いても見えないであろう場所に身を潜めて数十分、経った頃だろうか。
「……もう、行ったか?」
祐樹は、慎重に扉を開けて左右を眺めた。誰もいないことを確認して、扉を閉めて戻って来る。その頃には私も大分冷静になって、祐樹に言うべき言葉をまだ言っていないことに気づいた。
「ゆう、き……ごめんなさい、ありがとう……」
「?」
「あの時、祐樹が……私を連れて、逃げてくれたから、まだ、生きてる……」
あのまま、恵一の首にしがみついていたら、次に殺されていたのは私だろう。あの男が何だったのか、何を目的にしているのかは全く分からないけれど、少なくとも恵一はあの男に殺されたんだろう。こみ上げてきた涙を堪え、立ち上がろうとした私は……かちゃん、と言う音を耳にした。
「……?」
祐樹が、扉に鍵をかけた音だった。何で、と思った、その瞬間。
――逃げなさい!!
私は私の中から聞こえた声に驚き、次いで弾かれたように駆け出した。祐樹は、そんな私の動きに驚いたようだった。でも、それも一瞬のこと。
「勘がいいなぁアリスは……鬼ごっこを、始めようか」
祐樹のあんな顔を、私は知らない。あんな、恐ろしい笑顔を。私は祐樹がいたのと反対側の扉に手をかけて逃げようとした。けれど、扉はがちゃがちゃ音を立てるだけで開く気配はない。
「あぁ、あぁ、かわいそうに。そっちの扉は元々壊れていてな、開かない……」
右の扉を蹴飛ばすの!
火事場の馬鹿力、と言うのだろうか。頭の中に響いた声に従って扉を蹴り上げると、何かが外れたような音がした。もう一度扉に手をかけると、さっきまでびくともしなかった扉があっさりと開く。さっと振り向くと、祐樹の呆然とした顔が見えたけど。
――今の内に逃げるのよ、さぁ!
その声に突き飛ばされるように、私は走り出した。
おぞましい笑い声が、私の背後から聞こえて来る。
「アリス、アリス、逃げたって無駄だ、オレに殺されるか、アレに殺されるかの違いだぞ!! それならオレに殺されろよ、なぁ、そのために連れて来てやったんだから!!」
その言葉の意味を、理解したくもなくて逃げ回る……祐樹は、いつからおかしくなっていたんだろう。この学校で初めて出遭った時は、まだ、おかしくなかったような気がする。……? 初めて遭った時、って、どんなことを話したんだっけ?
――廊下を突き当たって右!!
ぐわん、と頭を殴られるような衝撃とともに聞こえる言葉。私は、さっきから聞こえるこの声に導かれるように逃げている。私が遅いからか、祐樹が速いからか、一向に距離を離すことは出来ていないけれど、この声のおかげで何とか追いつかれずにいる。
「はっ……はぁっ……」
――次の突き当たりは左、一階の宿直室まで走るのよ!!
「……っ、はぁっ……はっ」
祐樹、いや、殺人鬼の笑い声を掻き消すように、頭の中に響き渡る声。私は、その声を頼りに廊下を駆けた。喉はひゅうひゅう鳴っているし、足もがくがく震えている。けれど、立ち止まったら、何もかもお終いだ。だけど、一階に向かう階段を踏み外した私の体は宙に舞い、
全身が、ずきずきする。起き上がろうとして、起き上がれないことに気付く。鼻を突く刺激臭と、そして。とてもたのしそうにわらっている、さつじんきのかお。
「ッ!!」
「あぁ、やっと目覚めたのか、アリス。あまりにも呆気ない終わり方で、とても残念だったよ」
私の顔を覗き込んでいる彼の顔は逆さまで。そんな彼は、楽しそうに笑ったまま私の目の前に茶色い瓶を差し出した。私が呆然としていると、少しだけ不愉快そうな顔をする。
「これが何か判るかアリス?」
まるで出来の悪い生徒を叱る先生のような物言い。私が答えずにいると、彼はその瓶の蓋を開けた。途端に、鼻の奥がじんじんするくらいの異臭が漂い始める。中身が何かなんて判らなかったけれど、私にとって最悪のモノだろうということは判った。
「これはなぁ、硫酸だよ。海外の殺人鬼は、これを使って死体を溶かしたり証拠を消したりしたらしいな」
強い臭いに視界が滲む。さっきから必死に起き上がろうとしているけれど、びくともしない。どうやら私は、机に縛りつけられているらしい。
「あぁ、安心してくれ。死体にしてから溶かすなんて、もったいないこと、するはずがない」
じゅっ。
あ、あ、ああああああ、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!! あつい、いたい、いたいいたいいたいいたいあついいたいあついあついいたいいたいいたいいたいいたい!! なんでどうしていたいいたいあついつらいいたいいたいしぬしんじゃうころしてつらいいたいあついあついのどあたまめがまっかあついいたいいたいまっしろいたいいだいあづいあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ころしてころしてころしてころしてこんなのいたいつらいしぬしぬしぬしぬしぬしぬあたまのなかぐつぐつってあかいあかいあかいいたいあつい、い、 ああ あ゙ あ
あ゙っ
……私の名前は鏡野有子、高校二年生。目の前にいるのは、岸祐樹、同級生。二人とも、忘れ物を取りに学校に向かった所、何故か見知らぬ学校に拉致された。そして、今は二人でこの学校から出る手段を探している、そのはずだ。
「あ……ごめんなさい、祐樹。ちょっとぼーっとしてたわ」
「……いや、いい。しかし、これはこれで面倒だな」
職員室で見つけた鍵の束は、本当に鍵だけの束で。どれがどの教室の鍵か書いていないから、一つ一つ試していかないといけない。今も、祐樹ががちゃがちゃと鍵を抜いては入れてを繰り返している。
「お、これか」
かちゃん、と軽い音を立てて開く扉。開いた音楽室は、外の光で真っ赤に染まっている。と、その時だった。思わず二人で顔を見合わせる。その間にも、その音は響いている。鳴り、響いている。誰も触れていないはずのピアノから、物悲しい、曲が。
私たちは、顔を見合わせたまま、そろそろと教室から出た……なるほど、あぁいうのもあるのか。混乱か、恐怖か――演奏の邪魔をしないようにそっと扉を閉じてから、私たちは駆け出した。
乱れた息を整える。流石の祐樹も、心霊現象を見るのは初めてだったようで、青ざめているようだった。いや、万が一……万が一、あれが自動演奏機能を持っているピアノで、たまたま、そう、たまたま私たちが入った段階で自動演奏が始まったとしたら。むしろ、そう思いたいし、そう思っていた方が精神衛生上には良い気がする。
「……おとなしく、一階で、探すか」
「そうね……」
私たちはどちらからともなく頷いて、二階の探索を放棄した。
とは言え、一度探し尽くした一階で、見るべき場所などそう多くない。強いて言うならば、鍵は開いたはずなのに扉が開かない宿直室や――扉が前衛的な形に歪んでいて開きそうにない校長室、とか。でも、それらの部屋に行った所で、事態が変わっている訳でもなく。やっぱり、上の階を探す他なかった。
二階を飛ばして、三階の教室を調べる。鍵が開いている部屋と、持っている鍵で開いた部屋と。そして――どうあっても開かない場所を除いた全ての部屋を探索し終えた私たちは、お互いに顔を見合わせた。次は四階だろうか、と、多分祐樹も思っているのだろう。
「……残るは四階か」
「そうね……」
でも、何故か四階に行くのがとても怖い。行ったことがない場所への恐怖は、ここに来てからとうの昔に麻痺しているはずなのに……とうの昔、なんて言うにはまだ早いくらいだけれども。
「!!」
その時、だった。階段の方から響いた、絶叫。私は、その声の主を知っている!
「おい、待て!!」
祐樹の焦ったような声を背にして、私は駆けた。そして、それを、真正面から見てしまった。
「け……い、ち?」
階段の上から、ボールみたいに落ちてきた丸いそれ。赤茶けた短い髪、見開かれた目は虚ろ。足下に転がって来て、思わず拾い上げてしまう。あぁ……あぁ、なんて、なんて、これは、とても……。
「……まい……?」
その言葉を耳にして、私は顔を上げた。視界に差す影、呆然とした表情の男の人がいる。その手には、真っ赤な、チェーンソー。いや、チェーンソーだけじゃなくて、それを持っている男の人も、真っ赤に染まっている。
「……けいいち、ねぇ、けいいち」
私は、その男の人よりももっと大事なことを思い出して、それに声をかけた。でも、答えは返ってこない。あぁ、私だってわかっちゃいるんだ……生首は、喋らない。恵一は、死んだんだ。
でも、それでも声をかけずにはいられなかった。恵一の首を持ち上げて、目を合わせて、何度も呼びかける。そんな私の行動を止めたのは……祐樹だった。
「逃げるぞ! 鏡野!!」
「え、あ、だって、けいいちが、けいいちが」
「もう死んでる! アレに殺されたんだ!」
「だって、うあ、けいいち、けいいちぃ!!」
私の手から「恵一」を取り上げて、いつの間にか降りて来ていたらしい男に向かって投げつける。そして、祐樹は私を抱え上げて走り出した。どうして恵一を置いていくの、いや、頭のもう半分では理解している、あれはもう死んでいる、持っていく必要はない、けれど、だけど。
「けいいち、たすけなきゃ! だって、あんな、けいいち、けいいちが!」
「死んだヤツをどう助けるんだ! このままじゃオレたちだって死ぬんだぞ!」
「うぁ、あぁあ、だって、だってぇ……」
涙が止まらない。どうして恵一がここにいるのか、何であんなことになってしまったのか。私にはわからない……何も、かもが。
……祐樹が私を抱えたまま逃げ込んだのは、理科室だった。強い薬品の臭いが、鼻を突く。二人で廊下側の窓の真下、外から覗いても見えないであろう場所に身を潜めて数十分、経った頃だろうか。
「……もう、行ったか?」
祐樹は、慎重に扉を開けて左右を眺めた。誰もいないことを確認して、扉を閉めて戻って来る。その頃には私も大分冷静になって、祐樹に言うべき言葉をまだ言っていないことに気づいた。
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「あの時、祐樹が……私を連れて、逃げてくれたから、まだ、生きてる……」
あのまま、恵一の首にしがみついていたら、次に殺されていたのは私だろう。あの男が何だったのか、何を目的にしているのかは全く分からないけれど、少なくとも恵一はあの男に殺されたんだろう。こみ上げてきた涙を堪え、立ち上がろうとした私は……かちゃん、と言う音を耳にした。
「……?」
祐樹が、扉に鍵をかけた音だった。何で、と思った、その瞬間。
――逃げなさい!!
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「勘がいいなぁアリスは……鬼ごっこを、始めようか」
祐樹のあんな顔を、私は知らない。あんな、恐ろしい笑顔を。私は祐樹がいたのと反対側の扉に手をかけて逃げようとした。けれど、扉はがちゃがちゃ音を立てるだけで開く気配はない。
「あぁ、あぁ、かわいそうに。そっちの扉は元々壊れていてな、開かない……」
右の扉を蹴飛ばすの!
火事場の馬鹿力、と言うのだろうか。頭の中に響いた声に従って扉を蹴り上げると、何かが外れたような音がした。もう一度扉に手をかけると、さっきまでびくともしなかった扉があっさりと開く。さっと振り向くと、祐樹の呆然とした顔が見えたけど。
――今の内に逃げるのよ、さぁ!
その声に突き飛ばされるように、私は走り出した。
おぞましい笑い声が、私の背後から聞こえて来る。
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その言葉の意味を、理解したくもなくて逃げ回る……祐樹は、いつからおかしくなっていたんだろう。この学校で初めて出遭った時は、まだ、おかしくなかったような気がする。……? 初めて遭った時、って、どんなことを話したんだっけ?
――廊下を突き当たって右!!
ぐわん、と頭を殴られるような衝撃とともに聞こえる言葉。私は、さっきから聞こえるこの声に導かれるように逃げている。私が遅いからか、祐樹が速いからか、一向に距離を離すことは出来ていないけれど、この声のおかげで何とか追いつかれずにいる。
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――次の突き当たりは左、一階の宿直室まで走るのよ!!
「……っ、はぁっ……はっ」
祐樹、いや、殺人鬼の笑い声を掻き消すように、頭の中に響き渡る声。私は、その声を頼りに廊下を駆けた。喉はひゅうひゅう鳴っているし、足もがくがく震えている。けれど、立ち止まったら、何もかもお終いだ。だけど、一階に向かう階段を踏み外した私の体は宙に舞い、
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「ッ!!」
「あぁ、やっと目覚めたのか、アリス。あまりにも呆気ない終わり方で、とても残念だったよ」
私の顔を覗き込んでいる彼の顔は逆さまで。そんな彼は、楽しそうに笑ったまま私の目の前に茶色い瓶を差し出した。私が呆然としていると、少しだけ不愉快そうな顔をする。
「これが何か判るかアリス?」
まるで出来の悪い生徒を叱る先生のような物言い。私が答えずにいると、彼はその瓶の蓋を開けた。途端に、鼻の奥がじんじんするくらいの異臭が漂い始める。中身が何かなんて判らなかったけれど、私にとって最悪のモノだろうということは判った。
「これはなぁ、硫酸だよ。海外の殺人鬼は、これを使って死体を溶かしたり証拠を消したりしたらしいな」
強い臭いに視界が滲む。さっきから必死に起き上がろうとしているけれど、びくともしない。どうやら私は、机に縛りつけられているらしい。
「あぁ、安心してくれ。死体にしてから溶かすなんて、もったいないこと、するはずがない」
じゅっ。
あ、あ、ああああああ、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!! あつい、いたい、いたいいたいいたいいたいあついいたいあついあついいたいいたいいたいいたいいたい!! なんでどうしていたいいたいあついつらいいたいいたいしぬしんじゃうころしてつらいいたいあついあついのどあたまめがまっかあついいたいいたいまっしろいたいいだいあづいあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ころしてころしてころしてころしてこんなのいたいつらいしぬしぬしぬしぬしぬしぬあたまのなかぐつぐつってあかいあかいあかいいたいあつい、い、 ああ あ゙ あ
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