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六章 リリト
六
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これは思いの外、いい拾いものをしたのかもしれない。ノーイはそう思いながら、にこにこしている冒険者を見詰めた。
例の自分探し事件から随分経った日の話だ。
リリトの方はあの後、帰ってきたダンジョンの主人に対応されたらしい。らしいというのは、様々な魔法や知識、経験を全て用いて冒険者を修理して近くの街に放り投げてきたノーイに、主人が愚痴九割で話した顛末によるからだ。
なお、主人が帰ってきた時点でリリトとシェムハザは交戦状態になっていて、主人がかなり苦労して引き離すなどしたのだが、まぁ余談である。
と、そこまでならそこで話は終わるのだが、リリスの奴隷改め神の信徒改め一周回って冒険者に戻された男、その名をジューダスというのだが、彼がダンジョンに再び訪れたことで話の流れが変わってきた。
「オレはノーイさんに命を救われたので!!」
まぁ命っちゃ命かもしれない。破壊し尽くされ修復が難しくなってしまったジューダスの人格やら何やらを、根気強くある程度まで元に戻したのだから。ここで完全に修復したと言い切らないのは謙遜でも何でもなく、単純な事実である。
「だから、その恩を返しなきゃと思って!!」
「永遠に思わなくていいから帰って!!」
聞き入れてもらえなかった、命の恩人に何たる仕打ちか。ノーイは嘆いたがジューダスはにこにこするだけだ。この世界、他人の話を聞かない者が多過ぎる。ノーイは自分のことを棚に上げて嘆き続けた。
「で、恩返しって何してくれるの?」
「ノーイさんの代わりに仕事をします!!」
「アンタいいヤツだな!!」
ノーイの掌が高速回転する、無論比喩的な意味で。それが数十日前の話で、そうして今に至る。
「ノーイさん、冒険者たちを街に送ってきました!!」
「ありがとさん、しばらく休憩してていいぞー」
「はい!!」
ダンジョンの主人は、現役冒険者であるジューダスをノーイが使うことに難色を示したが、数日間その仕事ぶりを見て考えを変えた。やる気のないノーイの仕事量を一とするならば、ジューダスの普段の仕事量は五である。普通に使える人間だと判ってからは、主人の対応もかなり柔らかくなった。
今も、ダンジョンと街の往復、それも足手まといを連れてという面倒臭いことこの上ない仕事を、ノーイの半分程度の時間で終わらせて帰ってきた所である。すごいなぁ、なんて他人事のように思いながら、自分の仕事である罠の再設置を終えたノーイであった。
「お茶飲みますか? 街でついでに仕入れてきました!!」
「あー……そんじゃもらおうかな」
最上階の居住区域に入れば、間髪入れずに問われ、答える。街で仕入れてきたという茶は、香りがよく味もまろやかでノーイの好みに合っていた。ソファーにもたれかかりつつジューダスが淹れた茶を飲むノーイは、これがほっこりとかいう感覚なんだろうなぁと考えて、視界の端に映った人物のことを努めて考えないようにする。
「師匠!!」
「そんな事実はないんだけど何?」
「何でぽっと出の冒険者を重用するのに、私のことはそんなに受け入れてくれないんですか!!」
「ちょっとは受け入れられてるってことを事実かのように刷り込んでくるなぁ……」
が、その人物から近寄られれば無意味である。怒っていますよ、と言わんばかりの表情を作っているシェムハザを見たノーイは、あぁ面倒臭い、と頭を抱えた。
「や、アイツは俺の仕事を肩代わりしてくれるし、普通に仕事できるし……」
「私だってお手伝いしてるじゃないですか!! 人種ですか? 職業ですか? どのような要因であれ差別はよくないと思います!!」
「お前は強引に仕事に割り込んでくるだけじゃん、ていうか俺らにとって神官ってだけで天敵だし、人間は人間だしそこはそんなに気にしてないかな……」
「ノーイさん!! お茶のおかわりいりますか? シェムハザさんもお茶、飲まれます?」
「いるー」
「飲みます、ありがとうございます」
「いえいえ、少しお待ちください!!」
きびきびとノーイの手からカップを回収し、台所へ向かうジューダス。さらっと居座る宣言をしたシェムハザ。ノーイはそんな二人を見比べて、同じ人間のはずなんだけどなぁ、と人間の多種多様さに思いを馳せた。
例の自分探し事件から随分経った日の話だ。
リリトの方はあの後、帰ってきたダンジョンの主人に対応されたらしい。らしいというのは、様々な魔法や知識、経験を全て用いて冒険者を修理して近くの街に放り投げてきたノーイに、主人が愚痴九割で話した顛末によるからだ。
なお、主人が帰ってきた時点でリリトとシェムハザは交戦状態になっていて、主人がかなり苦労して引き離すなどしたのだが、まぁ余談である。
と、そこまでならそこで話は終わるのだが、リリスの奴隷改め神の信徒改め一周回って冒険者に戻された男、その名をジューダスというのだが、彼がダンジョンに再び訪れたことで話の流れが変わってきた。
「オレはノーイさんに命を救われたので!!」
まぁ命っちゃ命かもしれない。破壊し尽くされ修復が難しくなってしまったジューダスの人格やら何やらを、根気強くある程度まで元に戻したのだから。ここで完全に修復したと言い切らないのは謙遜でも何でもなく、単純な事実である。
「だから、その恩を返しなきゃと思って!!」
「永遠に思わなくていいから帰って!!」
聞き入れてもらえなかった、命の恩人に何たる仕打ちか。ノーイは嘆いたがジューダスはにこにこするだけだ。この世界、他人の話を聞かない者が多過ぎる。ノーイは自分のことを棚に上げて嘆き続けた。
「で、恩返しって何してくれるの?」
「ノーイさんの代わりに仕事をします!!」
「アンタいいヤツだな!!」
ノーイの掌が高速回転する、無論比喩的な意味で。それが数十日前の話で、そうして今に至る。
「ノーイさん、冒険者たちを街に送ってきました!!」
「ありがとさん、しばらく休憩してていいぞー」
「はい!!」
ダンジョンの主人は、現役冒険者であるジューダスをノーイが使うことに難色を示したが、数日間その仕事ぶりを見て考えを変えた。やる気のないノーイの仕事量を一とするならば、ジューダスの普段の仕事量は五である。普通に使える人間だと判ってからは、主人の対応もかなり柔らかくなった。
今も、ダンジョンと街の往復、それも足手まといを連れてという面倒臭いことこの上ない仕事を、ノーイの半分程度の時間で終わらせて帰ってきた所である。すごいなぁ、なんて他人事のように思いながら、自分の仕事である罠の再設置を終えたノーイであった。
「お茶飲みますか? 街でついでに仕入れてきました!!」
「あー……そんじゃもらおうかな」
最上階の居住区域に入れば、間髪入れずに問われ、答える。街で仕入れてきたという茶は、香りがよく味もまろやかでノーイの好みに合っていた。ソファーにもたれかかりつつジューダスが淹れた茶を飲むノーイは、これがほっこりとかいう感覚なんだろうなぁと考えて、視界の端に映った人物のことを努めて考えないようにする。
「師匠!!」
「そんな事実はないんだけど何?」
「何でぽっと出の冒険者を重用するのに、私のことはそんなに受け入れてくれないんですか!!」
「ちょっとは受け入れられてるってことを事実かのように刷り込んでくるなぁ……」
が、その人物から近寄られれば無意味である。怒っていますよ、と言わんばかりの表情を作っているシェムハザを見たノーイは、あぁ面倒臭い、と頭を抱えた。
「や、アイツは俺の仕事を肩代わりしてくれるし、普通に仕事できるし……」
「私だってお手伝いしてるじゃないですか!! 人種ですか? 職業ですか? どのような要因であれ差別はよくないと思います!!」
「お前は強引に仕事に割り込んでくるだけじゃん、ていうか俺らにとって神官ってだけで天敵だし、人間は人間だしそこはそんなに気にしてないかな……」
「ノーイさん!! お茶のおかわりいりますか? シェムハザさんもお茶、飲まれます?」
「いるー」
「飲みます、ありがとうございます」
「いえいえ、少しお待ちください!!」
きびきびとノーイの手からカップを回収し、台所へ向かうジューダス。さらっと居座る宣言をしたシェムハザ。ノーイはそんな二人を見比べて、同じ人間のはずなんだけどなぁ、と人間の多種多様さに思いを馳せた。
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