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七章 ヴェルシエル
一
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「ノーイさん!! お客が来てます!!」
「はーい、誰?」
「こんにちは!」
「本当に誰!?」
知ってはいた、察したくはなかった。
エロトラップダンジョンの最上階、応接室もどき。主にダンジョンの主人が自分の取引相手や研究仲間をもてなすための場である。なお、最初は研究室の一角に置かれた椅子と机がそうだったのだが、商人であるショクが手八丁口八丁で主人に家具を売りつけて整えたという次第である。 そんな応接室もどきのソファーに、幼い少年がちょこんと行儀よく座っていた。膝を揃え、手を揃え、背筋を伸ばしてにこにこしているその姿は、どこぞの貴族の子息にさえ見える。
だが、ノーイは知っていた。彼の出自は遠方、否、辺境にある村だ。そこで生まれ、育ち、神の啓示を受け、故に焼かれた村から王都へと向かい、その称号を神と王より授けられ、数多の苦難を乗り越えて、魔王を討った英雄の中の英雄。
「ボク、勇者のヴェルシエルです! シェムハザ兄やパリカー姉からはシエルって呼ばれてます!」
「はい」
「今日はシェムハザ兄のお師匠様にご挨拶に来ました!」
「シェムハザさんの師匠ならノーイさんだと思って」
「はい、いいえ」
思い余って肯定する所だった、非常に危ない。ノーイは固まった表情のまま首を縦に振るか横に振るかしかできない哀れな生き物になるしかなかった。だって、勇者だ。勇者なのだ。あの暴虐の化身たる怨んでも怨んでも足りない魔王を、今も背負っている聖剣で討ち果たした、人間の中の超越者、理不尽な力の象徴。怖いしかない。
それにしたってジューダスだ、とノーイは思考を巡らせる。というか、勇者から意識を逸らさないと吐きそうなのだ。今にもその聖剣が自分の首を刎ねるかもしれない。その魔法が自分を焼き尽くすかもしれない。客って言われたからよくてショク、悪くてシェムハザだと思っていたらこれだ。
「えっと、これ、つまらないものですが?」
「これはご丁寧にどうも。ノーイさんは何か固まっちゃってるんで、代わりに受け取りますね」
「お前のせい!!」
だというのにこの物言い、ちょっと最近コイツ調子乗ってるんじゃね? とノーイは思わず立ち上がって怒鳴った。と、ヴェルシエルの視線がノーイへと向かう。瞬間、ノーイは顔を隠して縮こまりながら部屋の隅へと退避した。不審なことこの上ない。が、ヴェルシエルはそれをこう解釈した。
「あ、すみません。お師匠様は恥ずかしがり屋だってシェムハザ兄から聞いてたのに、急に来ちゃったからびっくりさせちゃいましたよね」
「アイツ何言ってんの!?」
好都合な勘違いだったが、それはそれとしてシェムハザが自分のことを何と伝えているのかの方が気になってしまい、再び怒鳴ってしまったノーイであった。
「はーい、誰?」
「こんにちは!」
「本当に誰!?」
知ってはいた、察したくはなかった。
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だが、ノーイは知っていた。彼の出自は遠方、否、辺境にある村だ。そこで生まれ、育ち、神の啓示を受け、故に焼かれた村から王都へと向かい、その称号を神と王より授けられ、数多の苦難を乗り越えて、魔王を討った英雄の中の英雄。
「ボク、勇者のヴェルシエルです! シェムハザ兄やパリカー姉からはシエルって呼ばれてます!」
「はい」
「今日はシェムハザ兄のお師匠様にご挨拶に来ました!」
「シェムハザさんの師匠ならノーイさんだと思って」
「はい、いいえ」
思い余って肯定する所だった、非常に危ない。ノーイは固まった表情のまま首を縦に振るか横に振るかしかできない哀れな生き物になるしかなかった。だって、勇者だ。勇者なのだ。あの暴虐の化身たる怨んでも怨んでも足りない魔王を、今も背負っている聖剣で討ち果たした、人間の中の超越者、理不尽な力の象徴。怖いしかない。
それにしたってジューダスだ、とノーイは思考を巡らせる。というか、勇者から意識を逸らさないと吐きそうなのだ。今にもその聖剣が自分の首を刎ねるかもしれない。その魔法が自分を焼き尽くすかもしれない。客って言われたからよくてショク、悪くてシェムハザだと思っていたらこれだ。
「えっと、これ、つまらないものですが?」
「これはご丁寧にどうも。ノーイさんは何か固まっちゃってるんで、代わりに受け取りますね」
「お前のせい!!」
だというのにこの物言い、ちょっと最近コイツ調子乗ってるんじゃね? とノーイは思わず立ち上がって怒鳴った。と、ヴェルシエルの視線がノーイへと向かう。瞬間、ノーイは顔を隠して縮こまりながら部屋の隅へと退避した。不審なことこの上ない。が、ヴェルシエルはそれをこう解釈した。
「あ、すみません。お師匠様は恥ずかしがり屋だってシェムハザ兄から聞いてたのに、急に来ちゃったからびっくりさせちゃいましたよね」
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