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七章 ヴェルシエル
二
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「シェムハザ兄からお話を聞いて、ご挨拶しなきゃって思ってたんです。神官だから、あんまり遊んだりできないシェムハザ兄が、お師匠様のお話をしてる時はすっごく楽しそうで、それはとってもいいことだなって思ってて」
「はい」
「お茶をどうぞ。甘いものは食べられますか? 干した果物ですけど、大丈夫ならどうぞ」
「わぁ! ボク、それ大好きなんです! お茶もありがとうございます!」
平常運転のジューダスは後から絶対叩きのめす、と決心しているノーイの横で、ほんわかしたやり取りをし始めたジューダスとヴェルシエル。干されてしわしわになっている無花果を噛み締めながら幸せそうににこにこしているヴェルシエルの姿は、そこだけ切り取ればどこにでもいそうな少年ではあるのだが。
「おいしーい……あまーい……」
「はい」
「あっ、お師匠様へはこれを渡さなきゃって!」
「何ですか?」
「お師匠様はおいしいものが好きだって聞いたので、王都で流行りの焼き菓子詰め合わせです!」
「ありがとね……」
食い気には即座に敗北するノーイである。ではさっきジューダスが受け取っていたつまらないものとは何か。これは今のノーイが知る由もないことだったが、贈答品として可もなく不可もない茶葉の詰め合わせである。ヴェルシエルは勇者として魔王を倒した後、王都で様々な付き合いを経て年齢にそぐわぬそつのなさを身につけていた。
「で、お師匠様はいつシェムハザ兄と結婚するんですか?」
「はい……はいぃ?」
「シェムハザ兄が、ゆくゆくは結婚したいって」
「アイツ本当に何言ってくれてんの!?」
が、そつのなさと無邪気さは全く別の性質である。そして無邪気に他人を刺すのも。突然思いもかけない言葉で刺されたノーイは、受け取ったばかりの詰め合わせを取り落としかけて慌てて持ち直した。
「パリカー姉も結婚したいって言ってたんですけど、パリカー姉はまずたくさんの男の人と一度に付き合うのを止めた方がいいと思うんです」
「それはそう、とてもそう、もっと強く言ってやりなね」
「シェムハザ兄はその点、神官だから嘘をついたりできないし、一途だから買い? だと思うんです」
「神官だから結婚できないんじゃないかなって思うんだけどそこは?」
「愛し合う二人が結婚できないなんて、おかしいじゃないですか!」
「うーん、一つ一つを切り取ればそれはそうなんだけど、何かこう、アリスティアダンジョンに放り込まれた気分」
なお、アリスティアダンジョンとは幻魔法に特化した魔法使いであるアリスティアという男が作り上げたダンジョンであり、侵入した人間を速やかかつ不可逆的に発狂させることで有名なダンジョンである。とはいえ、これは人間嫌いなアリスティアが人間との交流を断つために生み出したダンジョンであり、ヴェルシエルたちは踏破することなく無視していた。
「アリスティアダンジョンに行ったことがあるんですか? 僕らは入ったことがないんで、よく知らないんですけど」
「あーうんまぁうん、それはそれとしてシェムハザが何? 俺と結婚するって? 何言ってくれてんの本当に?」
「愛があればどんな壁だって越えていけるって言ってました! その通りだと思います!」
「うーんもう何かどうでもよくなってきたけどここで諦めると既成事実作られそうな気がするぅ……」
ノーイはそう呻いて頭を抱えた。ヴェルシエルは音もなくお茶を飲みながら、無邪気な顔をしていた。
「はい」
「お茶をどうぞ。甘いものは食べられますか? 干した果物ですけど、大丈夫ならどうぞ」
「わぁ! ボク、それ大好きなんです! お茶もありがとうございます!」
平常運転のジューダスは後から絶対叩きのめす、と決心しているノーイの横で、ほんわかしたやり取りをし始めたジューダスとヴェルシエル。干されてしわしわになっている無花果を噛み締めながら幸せそうににこにこしているヴェルシエルの姿は、そこだけ切り取ればどこにでもいそうな少年ではあるのだが。
「おいしーい……あまーい……」
「はい」
「あっ、お師匠様へはこれを渡さなきゃって!」
「何ですか?」
「お師匠様はおいしいものが好きだって聞いたので、王都で流行りの焼き菓子詰め合わせです!」
「ありがとね……」
食い気には即座に敗北するノーイである。ではさっきジューダスが受け取っていたつまらないものとは何か。これは今のノーイが知る由もないことだったが、贈答品として可もなく不可もない茶葉の詰め合わせである。ヴェルシエルは勇者として魔王を倒した後、王都で様々な付き合いを経て年齢にそぐわぬそつのなさを身につけていた。
「で、お師匠様はいつシェムハザ兄と結婚するんですか?」
「はい……はいぃ?」
「シェムハザ兄が、ゆくゆくは結婚したいって」
「アイツ本当に何言ってくれてんの!?」
が、そつのなさと無邪気さは全く別の性質である。そして無邪気に他人を刺すのも。突然思いもかけない言葉で刺されたノーイは、受け取ったばかりの詰め合わせを取り落としかけて慌てて持ち直した。
「パリカー姉も結婚したいって言ってたんですけど、パリカー姉はまずたくさんの男の人と一度に付き合うのを止めた方がいいと思うんです」
「それはそう、とてもそう、もっと強く言ってやりなね」
「シェムハザ兄はその点、神官だから嘘をついたりできないし、一途だから買い? だと思うんです」
「神官だから結婚できないんじゃないかなって思うんだけどそこは?」
「愛し合う二人が結婚できないなんて、おかしいじゃないですか!」
「うーん、一つ一つを切り取ればそれはそうなんだけど、何かこう、アリスティアダンジョンに放り込まれた気分」
なお、アリスティアダンジョンとは幻魔法に特化した魔法使いであるアリスティアという男が作り上げたダンジョンであり、侵入した人間を速やかかつ不可逆的に発狂させることで有名なダンジョンである。とはいえ、これは人間嫌いなアリスティアが人間との交流を断つために生み出したダンジョンであり、ヴェルシエルたちは踏破することなく無視していた。
「アリスティアダンジョンに行ったことがあるんですか? 僕らは入ったことがないんで、よく知らないんですけど」
「あーうんまぁうん、それはそれとしてシェムハザが何? 俺と結婚するって? 何言ってくれてんの本当に?」
「愛があればどんな壁だって越えていけるって言ってました! その通りだと思います!」
「うーんもう何かどうでもよくなってきたけどここで諦めると既成事実作られそうな気がするぅ……」
ノーイはそう呻いて頭を抱えた。ヴェルシエルは音もなくお茶を飲みながら、無邪気な顔をしていた。
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