ETDの雑用係

とりい とうか

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九章 アーク

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 さて、ヴォジャノーイが暴れているという噂を辿り、着いたのはいかにもダンジョンめいた洞窟。恐らく、駆け出し冒険者であれば間違いなくダンジョンだと言い切りそうな場所であった。
 そんな洞窟の前に立つノーイの姿はいつもの冴えない中年男性冒険者。赤茶けた髪に緑の垂れ目、筋肉はあるが薄っすらと中年太りが気になる体型。装備は中堅槍使い一式だが、どことなくくたびれた感が漂っている。

「ダンジョンではないっぽいけど……」
「魔力の流れ的にも普通の洞窟ですね」

 そしてそんなノーイの隣にいるのは、新米神官っぽい装備を纏ったジューダスである。おじさん槍使いと神官のお兄さん、という一応前衛後衛が揃ったパーティーではあるが、不自然さは否めない。
 というのも、本来ならノーイ一人でくる予定だったのが、ジューダスの駄々捏ねによって予定が変わったからである。曰く、討伐に行くなら元冒険者であり多分神官であり恐らくリリス様の奴隷でありきっとノーイの弟子である自分がついて行かずに何とする、と。
 そんな、自我がまた壊れかかっているジューダスを哀れんだノーイは、冒険者であるという風に自我を修復させてやろうという気持ちでジューダスの同行を許可した。だというのに神官服でついてきたジューダスに思うことはかなりあったが、まぁ本人がそのように自己を定義するならそれを否定することもないか、と思い直した次第である。

「斥候かもしれない俺が先に行きます」
「まぁ別にお前がそれで納得してるならいいんだけど……」

 やっぱり否定してやった方がよかったかも、とノーイが再び思い直す中、ジューダスが言葉通り先行した。斥候と自分で言っただけはあり、洞窟内の危険は大方ジューダスの手によって排除されていく。とはいえ、大鼠や大蝙蝠など、モンスターとも呼べない野生動物くらいしかいなかったのだが。
 そうしてしばらく進んだ先、あからさまに怪しい扉が立っていた。勿論、人工物である。そして、別に空間を区切っている訳ではなく、禍々しい模様らしきものが刻みつけられた扉だけが独立して。色んな意味で怪しいし、その扉の向こうにある少し開けた空間には、これまたあからさまに怪しい松明が数本灯っている。怪しいだらけであった。

「よくぞここまできたな勇者よ!!」
「あっ止めてその名前を出さないで怖い」

 そして、松明に照らされている一段高い場所にそれはいた。黒いドレスローブを纏い、禍々しい杖を掲げたそれは、甲高い声で叫ぶ。

「ふはーははは!! 我こそは魔王様の元右腕、ヴォジャノーイである!!」
「嘘だろ!! あっ間違えたどうぞそのまま続けて!!」

 ノーイは反射的に叫び返し、そしてそれをなかったことにした。いやいやコイツを殺して首を持って帰りにきたんだってば。ノーイはぶんぶんと首を横に振り、当初の目的を振り返った。
 自称ヴォジャノーイは、ふんすと薄い胸を張り、大袈裟な動きで杖を振り回し、刹那、無数の氷の槍がノーイたちへと降り注ぐ。瞬間、ジューダスがノーイの前に出て、早口で呪文を唱え切る。

「『燃え広がれ炎』!!」

 ぼわっ、と洞窟を照らす赤。緞帳のように降りた炎の幕が、氷の槍を消し飛ばす。ヴォジャノーイと名乗った少女は、ふんふんと気合を入れて杖を振り回し続けるが、ジューダスの炎魔法が追撃を許さない。

「ズルした!! ひどい!! 何で!?」
「いやズルはしてないな?」

 やがて杖に込められた魔力が尽きたのか、本人の魔力が尽きたのか、ぜいぜいと荒い息を繰り返しながら叫ぶ少女。ノーイは他人事ながら適当な合いの手を入れた。そんなノーイをきっと睨みつけた少女は、頬を膨らませて地団駄を踏む。

「『貫け光』!!」
「『隠せ闇』」

 そのまま杖を捨て、両手を掲げて叫んだ少女に、ノーイは淡々と詠唱を返した。細い光の矢の雨は、大蛇のようにのたうった闇色に掻き消される。それを見た少女はまた地団駄を踏み、泣き喚く。

「ズルしてる!!」
「いやしてないって」

 ノーイのぼやくような言葉に、びゃあびゃあと泣きながら抗議する少女。ノーイは、そんな彼女の姿を眺めていたが、どうにも首を取る気にはなれなくて、溜め息をついた。
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