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十章 アリーシャ
一
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「「誰よこの女!!」」
「あー止めて止めて面倒臭い」
東の方の国には、女が三人集まれば喧しいだの何だの、そんな言葉があるらしい。
今回の事件の発端は、ノーイがダンジョンの主に命じられて何やかんややった結果、三人の巫女がエロトラップダンジョンの仲間として迎え入れられたことにある。
権力者に媚びを売って取り入ったと見せかけて実は心身ともに支配下に置いていた、最も年上、とはいえまだ二十になるかならないかのアルカディア。各国を渡り歩きそれらの敵対国の機密情報を切り売りして身の安全と莫大な財産を手に入れていた、アルカディアの二つ下だと自称するアリーシャ。そして魔王様の元右腕という虚像の脅威を生み出そうと暗躍していた、最も年下で体つきも幼いアーク。
ダンジョンの主に自己紹介という名の売り込みを始めた女たちを見ていたノーイは、改めて人間の女というものの強かさに怯え、しかしながら誰も彼もが己の身と心を削りながらも生き延びてきた事実に感心し、そして知らない間に彼女等がダンジョン生活に慣れるまでの世話係に任命されていた。なお雑用係は据え置きである。どうして。
と、いうわけで、ノーイは彼女等を最寄りの街へと連れてきた次第であった。
確かにノーイが女に化ければ下着でも何でも代わりに買えはするのだが、それぞれの好みやら何やらもあるだろうし、何よりダンジョンを拠点にするとはいえ彼女等は人間だ。人間の街との関わりは持っていて損ではないだろう。だもので、ノーイは三人を引き連れて街にやってきたのだが、そこでまさかの再会があった。
「アンタは……面白い男!! そしてアタシの婚約者!!」
「面白くはないし婚約者でもねぇなぁ!?」
何故か街娘風の姿をした大魔女パリカーがいた。そして、ノーイの背後にいた巫女三人衆を見て、あんぐりと口を開け、目を丸くする。次いで、その眦はきっと吊り上がり、きりりと歯を食い縛る音。
「「誰よこの女!!」」
「あー止めて止めて面倒臭い」
ノーイはパリカーとアルカディアの間で心底面倒臭そうに手を振った。パリカーは己の言葉がほぼ同時に、否、先読みされて口にされたことに驚愕し、アルカディアは何故かふふんと自慢気に鼻を鳴らす。
「「アタシという婚約者がありながら!!」」
「長女さんは本当に止めてね、面白がってるだろ、ここで置き去りにするぞ」
「置き去りにされても貴方様の下に帰りますが」
「何なの!? 何なのこの女は!!」
次の言葉も先読みして、パリカーと声を合わせたアルカディア。恐らく、神託を無駄遣いしているのだろうとノーイは考える。お前の言うこともやることもわかっているぞ、と牽制しているらしい。なお、長女さんとはノーイがアルカディアにつけたあだ名であり、次女さんがアリーシャで、三女がアークである。何故アークがさんづけでないかは、まぁ察してほしい。
「ま、まさか……重婚が許されている国の出身だと!? どっちが!? どっちがそうなの!? それによってアタシの凶行の先を決めるわ」
「凶行って言っちゃってるんだもんなぁ!!」
「でも神様にはたくさんのお嫁さんがいますよね?」
「それがダン……あーっと今住んでる場所の居候っつーか雇われてるヤツらのことを指してるんだとしたら絶対に違うし何で今そんな事言うの!?」
「な、なんてこと……」
アークのノーイに対する神様発言よりもその後の方に衝撃を受けたらしいパリカーが崩れ落ちる。アークが指しているのは多分、エロトラップダンジョンの中層以降で暮らしつつ働いているサキュバスたちのことだろう。
「お婿さんもたくさんいるし」
「いねぇわ!! お前の中でオレは一体何なの!? どうなってんの!?」
訂正、インキュバスたちも含めてそう思っているらしい。心外だ、名誉が傷つけられた、などとノーイがじたばたしていると、崩れ落ちていたパリカーが立ち上がった。
「『天駆けるは光帯びたる狗頭の』……」
「こんな場所で上級星魔法!?」
その目には光がない。絶望に満たされている。だからといって街の中で上級星魔法をぶっ放していい法などない。普通に人死にが出る。そしてこの状況、パリカーが一番悪いが、ノーイたちも当事者としてその責任が負わされないとも限らない。
「……『潰えよ地を這う虫どもが』!!」
空から、数多の岩が、落ちてくる。炎に包まれたそれらに気づいた住人たちが、悲鳴を上げて逃げ惑う。ノーイは頭の中で無数の魔法を思い浮かべて、しかし自身の正体がバレることを恐れて使えない。一人で逃げようかとも思ったが、折角手に入れた巫女たちを死なせて帰ったなんて主人に知られれば終わりであるし、何よりそれは後味が悪い。そんな中、やれやれと肩を竦めたアリーシャが前に出た。
「『来たれ星々を喰らう大鯨、呑み込み、呑み干し、呑み下せ』」
どぱ、と空に開いた黒い裂け目。そこからぬるりと現れたのは、巨大な黒い鯨。それは溶けるように空を塗り潰し、降り注ぐ岩の数々を呑み込んでいった。
「うっわ……破級星魔法……こっわ……」
詠唱こそ短いながらも破級星魔法の一つ、黒鯨。何もかもを吸い込み消し去る何かを呼び出す魔法である。そう、何かだ。その正体は未だ塔でも議論の的になっている。鯨のような姿をしているが、生き物ではない。ただ、何もかもを丸呑みする現象だ。
どぷん、と音を立てて裂け目に戻った鯨と、危機が去ったことを悟って歓声を上げる住人たち。ぺたんと地面にへたりこんだパリカー。ノーイは、平然と佇むアリーシャを見て、敵に回ったら絶対に逃げようと決意した。破級星魔法を汗一つかかずにぶちかませる人間に、勝てる訳がないので。
「あー止めて止めて面倒臭い」
東の方の国には、女が三人集まれば喧しいだの何だの、そんな言葉があるらしい。
今回の事件の発端は、ノーイがダンジョンの主に命じられて何やかんややった結果、三人の巫女がエロトラップダンジョンの仲間として迎え入れられたことにある。
権力者に媚びを売って取り入ったと見せかけて実は心身ともに支配下に置いていた、最も年上、とはいえまだ二十になるかならないかのアルカディア。各国を渡り歩きそれらの敵対国の機密情報を切り売りして身の安全と莫大な財産を手に入れていた、アルカディアの二つ下だと自称するアリーシャ。そして魔王様の元右腕という虚像の脅威を生み出そうと暗躍していた、最も年下で体つきも幼いアーク。
ダンジョンの主に自己紹介という名の売り込みを始めた女たちを見ていたノーイは、改めて人間の女というものの強かさに怯え、しかしながら誰も彼もが己の身と心を削りながらも生き延びてきた事実に感心し、そして知らない間に彼女等がダンジョン生活に慣れるまでの世話係に任命されていた。なお雑用係は据え置きである。どうして。
と、いうわけで、ノーイは彼女等を最寄りの街へと連れてきた次第であった。
確かにノーイが女に化ければ下着でも何でも代わりに買えはするのだが、それぞれの好みやら何やらもあるだろうし、何よりダンジョンを拠点にするとはいえ彼女等は人間だ。人間の街との関わりは持っていて損ではないだろう。だもので、ノーイは三人を引き連れて街にやってきたのだが、そこでまさかの再会があった。
「アンタは……面白い男!! そしてアタシの婚約者!!」
「面白くはないし婚約者でもねぇなぁ!?」
何故か街娘風の姿をした大魔女パリカーがいた。そして、ノーイの背後にいた巫女三人衆を見て、あんぐりと口を開け、目を丸くする。次いで、その眦はきっと吊り上がり、きりりと歯を食い縛る音。
「「誰よこの女!!」」
「あー止めて止めて面倒臭い」
ノーイはパリカーとアルカディアの間で心底面倒臭そうに手を振った。パリカーは己の言葉がほぼ同時に、否、先読みされて口にされたことに驚愕し、アルカディアは何故かふふんと自慢気に鼻を鳴らす。
「「アタシという婚約者がありながら!!」」
「長女さんは本当に止めてね、面白がってるだろ、ここで置き去りにするぞ」
「置き去りにされても貴方様の下に帰りますが」
「何なの!? 何なのこの女は!!」
次の言葉も先読みして、パリカーと声を合わせたアルカディア。恐らく、神託を無駄遣いしているのだろうとノーイは考える。お前の言うこともやることもわかっているぞ、と牽制しているらしい。なお、長女さんとはノーイがアルカディアにつけたあだ名であり、次女さんがアリーシャで、三女がアークである。何故アークがさんづけでないかは、まぁ察してほしい。
「ま、まさか……重婚が許されている国の出身だと!? どっちが!? どっちがそうなの!? それによってアタシの凶行の先を決めるわ」
「凶行って言っちゃってるんだもんなぁ!!」
「でも神様にはたくさんのお嫁さんがいますよね?」
「それがダン……あーっと今住んでる場所の居候っつーか雇われてるヤツらのことを指してるんだとしたら絶対に違うし何で今そんな事言うの!?」
「な、なんてこと……」
アークのノーイに対する神様発言よりもその後の方に衝撃を受けたらしいパリカーが崩れ落ちる。アークが指しているのは多分、エロトラップダンジョンの中層以降で暮らしつつ働いているサキュバスたちのことだろう。
「お婿さんもたくさんいるし」
「いねぇわ!! お前の中でオレは一体何なの!? どうなってんの!?」
訂正、インキュバスたちも含めてそう思っているらしい。心外だ、名誉が傷つけられた、などとノーイがじたばたしていると、崩れ落ちていたパリカーが立ち上がった。
「『天駆けるは光帯びたる狗頭の』……」
「こんな場所で上級星魔法!?」
その目には光がない。絶望に満たされている。だからといって街の中で上級星魔法をぶっ放していい法などない。普通に人死にが出る。そしてこの状況、パリカーが一番悪いが、ノーイたちも当事者としてその責任が負わされないとも限らない。
「……『潰えよ地を這う虫どもが』!!」
空から、数多の岩が、落ちてくる。炎に包まれたそれらに気づいた住人たちが、悲鳴を上げて逃げ惑う。ノーイは頭の中で無数の魔法を思い浮かべて、しかし自身の正体がバレることを恐れて使えない。一人で逃げようかとも思ったが、折角手に入れた巫女たちを死なせて帰ったなんて主人に知られれば終わりであるし、何よりそれは後味が悪い。そんな中、やれやれと肩を竦めたアリーシャが前に出た。
「『来たれ星々を喰らう大鯨、呑み込み、呑み干し、呑み下せ』」
どぱ、と空に開いた黒い裂け目。そこからぬるりと現れたのは、巨大な黒い鯨。それは溶けるように空を塗り潰し、降り注ぐ岩の数々を呑み込んでいった。
「うっわ……破級星魔法……こっわ……」
詠唱こそ短いながらも破級星魔法の一つ、黒鯨。何もかもを吸い込み消し去る何かを呼び出す魔法である。そう、何かだ。その正体は未だ塔でも議論の的になっている。鯨のような姿をしているが、生き物ではない。ただ、何もかもを丸呑みする現象だ。
どぷん、と音を立てて裂け目に戻った鯨と、危機が去ったことを悟って歓声を上げる住人たち。ぺたんと地面にへたりこんだパリカー。ノーイは、平然と佇むアリーシャを見て、敵に回ったら絶対に逃げようと決意した。破級星魔法を汗一つかかずにぶちかませる人間に、勝てる訳がないので。
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