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十四章 フェッチ
一
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「そもそも何でノーイ様がこんな所にいるんですか魔王様死にましたよねあれで得したのって人間だけだと思われがちですけど損してる人間もいるしモンスターの中でも結構賛否両論というか」
「息継ぎを意識して、大事なことだけ、選んで話すとかできるか?」
訂正、人間のふりをすることを忘れていたのではなく、こういう性質らしい。
顔面、頬のすれすれを影で作った槍が通過すれば流石のフェッチも黙り込む。ノーイはその緑眼を爛々と輝かせたまま低く唸った。赤毛だった髪は黒く、それこそ魔王軍第二位ヴォジャノーイの威容である。
まぁ、魔王が死んだとはいえヴォジャノーイに与えられた支配権は継続しているので、影に属しているドッペルゲンガー、フェッチに逆らう術はないのだが。彼女は涙目になってぷるぷる震えながら脳味噌を回した。彼女もまた、死にたくないからこんな場所にいるのだ。
「ノーイ様は、どうして、帝国へ?」
「さっきも言ったろ、あの皇帝の大師匠に契約で縛られてる。アイツが行くっつったらオレも行かなきゃいけないんだよ……」
「ワタシのこと、皇帝に、言いますか?」
「言う訳ねぇだろ、つーかどう言うんだよ? アイツはモンスターです、何でわかるの? オレもモンスターだから! 論外だろバカか! 逆にお前、保身に走ってオレの正体ゲロったら殺すからな……まだギリギリ皇帝にはバレてねぇんだから……」
「ひぃ!?」
引かれた槍が、今度は逆側の頬を掠める。フェッチの両頬には薄っすらと赤い線が走っていた。ぽろぽろ泣きながら命乞いを始めるフェッチを見下ろしていたノーイの髪色が赤毛に戻る。槍を影に沈めたノーイは、深々と溜め息をついた。
宴はまだ続いている。
二人並んで宴会場へ戻ってきたノーイとフェッチを見るソロモンの目は、何を考えているか非常にわかりづらい。対して、シェムハザはフェッチを殺しかねない目をしていて、パリカーはあらあら仕方ないわねと言わんばかりの正妻面である。ダンジョンの主はちらとフェッチとノーイを流し見てすぐに視線を逸らした。
「あー、その……悪かったな、男と女のあれやこれやは下手に口出しするとこじれるって……」
「あー……まぁ、うん……」
ソロモンから詫びの言葉を告げられたノーイは、きゅっと顔を顰めて曖昧に頷く。フェッチはそんなソロモンの隣に戻り、その脇腹を力一杯抓る。おい衛兵仕事しろ、とノーイは再び思ったが、やはり皇帝直々に追い出された衛兵は戻ってきていない。
「あれ、フェッチ、どうしたんだ?」
「え?」
「頬に傷がついてる」
と、脇腹を抓られて痛がっていたソロモンがフェッチの頬に手を伸ばした。傷というには薄い、細い、赤い線。あ、やべ、とノーイが己の凶状を後悔する中、フェッチはソロモンの手を捻ってその場で引き倒した。不敬罪を超速で突き抜けて、王国なら即死刑だ。しかし、ソロモンは痛そうに呻くものの、怒ってはいないらしい。
「心配したのに?」
「女の肌に許しもなく触れるのは大罪ですが?」
「お前本当にいい加減にしとけよ!?」
けれども、あんまりにもあんまりな態度にノーイの方が先に音を上げた。小市民的な感覚が過分にあるノーイにとって、皇帝に対してやりたい放題するフェッチは恐怖以外の何者でもない。後、この流れでツッコミを入れておけばフェッチの頬の傷に対する追及が有耶無耶になるかもしれないという打算もあった。
「全くです。師匠の元彼女だか何だか知りませんが調子に乗っているのでは? さっき師匠と二人きりで何を話したんですか、事と次第によっては全然呪いますが」
「おいおい、フェッチは俺の右腕なんだ。大神官程の術者に呪われちゃあ俺が困るから止めてくれ」
「そうよシェムハザ、過去の女に囚われるなんて心の狭いこと。所詮元彼女、妻であるアタシに勝る者ではないわ」
「大魔女はノーイの嫁だったのか? あー、本当に悪いことをしたな……すまん、気分を悪くさせてしまった」
「大丈夫よ、アタシは妻としてノーイを信じているから」
「シェムハザ、師匠違う!! パリカー、妻違う!! 嘘八百ばっかり!! どうしてどいつもこいつも!!」
思わず片言じみたツッコミになってしまった。ノーイの渾身の叫びは、しかし誰にも届かない。フェッチからは重婚……!? みたいな視線を向けられたので、影を通じて脇腹を強くどついておいた。
「息継ぎを意識して、大事なことだけ、選んで話すとかできるか?」
訂正、人間のふりをすることを忘れていたのではなく、こういう性質らしい。
顔面、頬のすれすれを影で作った槍が通過すれば流石のフェッチも黙り込む。ノーイはその緑眼を爛々と輝かせたまま低く唸った。赤毛だった髪は黒く、それこそ魔王軍第二位ヴォジャノーイの威容である。
まぁ、魔王が死んだとはいえヴォジャノーイに与えられた支配権は継続しているので、影に属しているドッペルゲンガー、フェッチに逆らう術はないのだが。彼女は涙目になってぷるぷる震えながら脳味噌を回した。彼女もまた、死にたくないからこんな場所にいるのだ。
「ノーイ様は、どうして、帝国へ?」
「さっきも言ったろ、あの皇帝の大師匠に契約で縛られてる。アイツが行くっつったらオレも行かなきゃいけないんだよ……」
「ワタシのこと、皇帝に、言いますか?」
「言う訳ねぇだろ、つーかどう言うんだよ? アイツはモンスターです、何でわかるの? オレもモンスターだから! 論外だろバカか! 逆にお前、保身に走ってオレの正体ゲロったら殺すからな……まだギリギリ皇帝にはバレてねぇんだから……」
「ひぃ!?」
引かれた槍が、今度は逆側の頬を掠める。フェッチの両頬には薄っすらと赤い線が走っていた。ぽろぽろ泣きながら命乞いを始めるフェッチを見下ろしていたノーイの髪色が赤毛に戻る。槍を影に沈めたノーイは、深々と溜め息をついた。
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二人並んで宴会場へ戻ってきたノーイとフェッチを見るソロモンの目は、何を考えているか非常にわかりづらい。対して、シェムハザはフェッチを殺しかねない目をしていて、パリカーはあらあら仕方ないわねと言わんばかりの正妻面である。ダンジョンの主はちらとフェッチとノーイを流し見てすぐに視線を逸らした。
「あー、その……悪かったな、男と女のあれやこれやは下手に口出しするとこじれるって……」
「あー……まぁ、うん……」
ソロモンから詫びの言葉を告げられたノーイは、きゅっと顔を顰めて曖昧に頷く。フェッチはそんなソロモンの隣に戻り、その脇腹を力一杯抓る。おい衛兵仕事しろ、とノーイは再び思ったが、やはり皇帝直々に追い出された衛兵は戻ってきていない。
「あれ、フェッチ、どうしたんだ?」
「え?」
「頬に傷がついてる」
と、脇腹を抓られて痛がっていたソロモンがフェッチの頬に手を伸ばした。傷というには薄い、細い、赤い線。あ、やべ、とノーイが己の凶状を後悔する中、フェッチはソロモンの手を捻ってその場で引き倒した。不敬罪を超速で突き抜けて、王国なら即死刑だ。しかし、ソロモンは痛そうに呻くものの、怒ってはいないらしい。
「心配したのに?」
「女の肌に許しもなく触れるのは大罪ですが?」
「お前本当にいい加減にしとけよ!?」
けれども、あんまりにもあんまりな態度にノーイの方が先に音を上げた。小市民的な感覚が過分にあるノーイにとって、皇帝に対してやりたい放題するフェッチは恐怖以外の何者でもない。後、この流れでツッコミを入れておけばフェッチの頬の傷に対する追及が有耶無耶になるかもしれないという打算もあった。
「全くです。師匠の元彼女だか何だか知りませんが調子に乗っているのでは? さっき師匠と二人きりで何を話したんですか、事と次第によっては全然呪いますが」
「おいおい、フェッチは俺の右腕なんだ。大神官程の術者に呪われちゃあ俺が困るから止めてくれ」
「そうよシェムハザ、過去の女に囚われるなんて心の狭いこと。所詮元彼女、妻であるアタシに勝る者ではないわ」
「大魔女はノーイの嫁だったのか? あー、本当に悪いことをしたな……すまん、気分を悪くさせてしまった」
「大丈夫よ、アタシは妻としてノーイを信じているから」
「シェムハザ、師匠違う!! パリカー、妻違う!! 嘘八百ばっかり!! どうしてどいつもこいつも!!」
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